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IAISがICS(保険資本基準)に関する今後の実施計画を公表-ICS Version 2.0は2段階方式で実施へ-
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4―今回の2段階方式でのICS実施に対する関係者の反応
1|ABI(Association of British Insurers:英国保険会社協会)
ABIの規制担当ディレクターのHugh Savill氏は、「5年間のモニタリング期間により、IAISが、引き続き基準をテストし、改善することを認めることで、より適切かつ実用的なアプローチとなる。保険会社が内部モデルを使用できることの確認が同様に重要であることは、正しい方向への重要な一歩であり、保険会社のリスクプロファイルのより正確な反映を可能にする。」と述べて、今回の決定を歓迎する意向を示した6。
2017年11月2日
保険資本基準に関する新たなアプローチは「より適切で実行可能」である
英国保険会社協会のHugh Savill規制担当ディレクターは、保険監督者国際機構(IAIS)の公表に応えて、次のように述べた。
「ABIは、保険監督者国際機構が保険資本基準の実施への2段階アプローチを発表したことを歓迎する。5年間のモニタリング期間により、IAISが、引き続き基準をテストし、改善することを認めることで、より適切かつ実用的なアプローチとなる。 保険会社が内部モデルを使用できることの確認が同様に重要であることは、正しい方向への重要な一歩であり、保険会社のリスクプロファイルのより正確な反映を可能にする。この画期的な進展は、国際規制におけるイングランド銀行の積極的な役割を例示しており、この進展はIAISでのVictoria Saporta氏のリーダーシップの下で行われた。」
「ABIは、ICSの開発についてIAISと引き続き協力していくことを楽しみにしている。」
AM Best社の記事7によると、AIAの金融規制政策担当ディレクターであるPhillip L. Carson氏は、以下のように述べている。
・IAISがICSをいかに実施しようとしているかについてのより明確性を提供したという事実、特に5年間のモニタリング期間の発表は、有益である。
・IAISの元の計画は2019年までに実施する予定であったが、5年間のモニタリング期間は代替的アプローチの議論に時間を要する。
・連邦準備制度とNAICを通じて、米国が、検討されるべき別のアプローチとして合算法を導入することに成功した。
・今回の発表は、この合算法とICS計算の一部を検討する時間を与える。
・実施段階では、多くの問題に対処する必要がある。
・そのうちの1つは、ICSで市場調整された評価を使用することであるが、MAVの使用に関して、特に米国保険会社にとって適切なアプローチであるかどうかについて、普遍的な合意はない。
7 Best's News Service via Bestwire - November 03, 2017
「Regulators Agree on International Convergence Strategy for Group Capital Standards」
AM Best社の記事7によると、Christine Urias Consulting LLCのプリンシパル、Christina Urias氏は、以下のように述べている。なお、Urias氏は、2003年から2012年までアリゾナ州の保険ディレクターとして及び2015年から2016年までNAICの国際保険監督管理局のマネージングディレクターとしての彼女の在任中に、IAISの委員会に参加していた。
・クアラルンプールで開かれたICS Version 2.0の合意は、米国にとってはポジティブな進展だった。
・この公表の重要性は、IAISがグループ資本のための米国の合算アプローチのテストへの道を開いている、ということにある。
・米国の規制当局は、IAISが、ICSと比較可能な結果を得るために、データを収集し、合算ベースのグループ資本計算をテストするという合意を達成した。これは、大事なことであり、全て非常にポジティブな前進である。
5―まとめ
1|今回の合意について
今回の合意は、2020年に適用開始を目指していたICSの実質的な監督基準としての適用開始時期を5年間延長したことにある。このことは、これまでも一定程度想定されていたことではあるが、あらためて、米国と欧州を中心とした各国の監督当局や保険会社の間の考え方のバランスを図って、統一的なグローバルな保険資本基準を作成していくことがいかに難しいかを示している。
今回の公表を受けて、米国も欧州も基本的には歓迎する意向を示している。
ただし、今回のIAISの実施計画においても、基準となる方式としてのMAVの具体的内容については、引き続き2019年までに決定することが目指されている。今後は、7月の拡大フィールドテストにおいて提案された3つの割引率の決定方式等が、本当に1つの案にまとまっていくのかが注目されるところとなる。
2|米国のスタンス
米国は、今回新たに、NAICが開発中のグループ資本計算に対する合算ベースのアプローチの検討をIAISに認めさせたが、その代わりに欧州が希望していた内部モデルをオプションとして含めることに同意したような形になっている。
米国においては、2016年に連邦準備制度理事会がICSの代替案となりうる自国の資本基準を提案するとともに、NAICも独自のワーキンググループを設けて暫定的な2020年実施に向けてグループ資本計算の開発を行う等、連邦及び州の両者においてグループ資本の検討が進められている。今回両者は、米国のアプローチが国際的な資本基準の一部として認識されるように、グループ資本に対する統一された米国のアプローチを開発することで協働していくことを確認している。
NAICのTed Nickel会長は、8月に開催されたNAICの夏季会議等で「国際的な認識がなくても、我々は制度を強化し続けるが、米国の市場や消費者にとってうまくいかないICSへの貢献には価値がない。」と述べ、「信頼できる国内アプローチで交渉の場に現われる準備を進めている。」と述べていた。
このように米国は、自国が開発するグループ資本へのアプローチがICSの一部として認識されることを強く期待する姿勢を示している。
3|今後の検討について
仮に、2019年までにMAV等に基づく参照ICSが設定されたとしても、米国も欧州もこの参照ICSをそのまま監督上の処分のトリガーとして適用することは想定しておらず、これはあくまでもベースとなるものでしかないと捉えていくことになるものと思われる。
その意味では、今後は、米国が提案する合算法や欧州が主張する内部モデルの適用に対する方針の検討がより重要になってくる。5年間のモニタリング期間の間に、これらの合算法や内部モデルの検討が進められていくになるが、その間の各種環境の変化等に基づいて、5年後あるいはそれに至るまでの事前の検討時期に、ICSにおけるこれらの方式の適用の是非に関する判断が行われていくことになる。
4|日本の生命保険業界の反応
新たな資本基準であるICSの導入は、日本の生命保険業界にとって、少なくともIAIGsに認定される可能性のある生命保険会社にとっては、いろいろな意味においてかなりの影響を与えるものとなることが想定されている。従って、今回の決定により、さらなる検討及び準備のための時間が与えられることになったことは、基本的には大いに歓迎されているものと思われる。
IAISにおけるICSを巡る動向については、日本国内での経済価値ベースのソルベンシー規制の検討等にも大きく関係してくることから、大変注目されているものであり、引き続き注視していくこととしたい。
(2017年11月14日「保険・年金フォーカス」)
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