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2017年11月14日
IAISがICS(保険資本基準)に関する今後の実施計画を公表-ICS Version 2.0は2段階方式で実施へ-
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1―はじめに
IAIS(保険監督者国際機構)は、現在保険会社に対する国際的な資本規制であるICS(Insurance Capital Standard:保険資本基準)の検討を進めている。2017年7月21日に、「拡大フィールドテストのためのリスクベースのグローバルな保険資本基準Version 1.0(Risk-based Global Insurance Capital Standard Version 1.0 for Extended Field Testing)」(以下、「ICS Version 1.0」という)を公表1して、利害関係者からのフィードバックを受け付ける形になっていた。これについては、基礎研レポート「IAISが拡大フィールドテストのためのICS(保険資本基準)Version 1.0を公表-保険負債評価の割引率について-」(2017.8.7)で報告した。
その公表資料の中では、次のステップとしてのICS Version 2.0について、2019年の設定、2020年からの実施2という目標を変更していなかった。これに対して、この目標スケジュールはかなりアグレッシブなものであるとの認識が一般的であったが、こうした背景を踏まえて、今回IAISは、2017年11月2日に、ICS Version 2.0の実施について2段階方式で進めていく方針を公表3した。
今回のレポートでは、IAISによって示されたICSの新たな実施計画の概要及びそれに対する関係者の反応等について報告する。
1 ICS Version 1.0に関連する資料については、以下のIAISのWebサイトから入手可能
https://www.iaisweb.org/page/supervisory-material/insurance-capital-standard//file/67651/ics-Version 1.0-for-extended-field-testing
2 「実施」の意味するところは、「各国が適用可能」となるという意味で、「各国が適用を開始しなければならない」という意味ではない。通常はICSの内容が確定した後、各国への法令化等に一定の期間を要することになる。
3 IAISのプレスリリース資料等については、以下からIAISのWebサイトから入手可能
file:///C:/Users/Ryoichi/AppData/Local/Packages/Microsoft.MicrosoftEdge_8wekyb3d8bbwe/TempState/Downloads/2_November_2017__IAIS_Press_Release_-_IAIS_Announces_Unified_Path_to_Convergence_on_ICS_Version_2_0.pdf
file:///C:/Users/Ryoichi/AppData/Local/Packages/Microsoft.MicrosoftEdge_8wekyb3d8bbwe/TempState/Downloads/Implementation_of_ICS_Version_2_0.pdf
その公表資料の中では、次のステップとしてのICS Version 2.0について、2019年の設定、2020年からの実施2という目標を変更していなかった。これに対して、この目標スケジュールはかなりアグレッシブなものであるとの認識が一般的であったが、こうした背景を踏まえて、今回IAISは、2017年11月2日に、ICS Version 2.0の実施について2段階方式で進めていく方針を公表3した。
今回のレポートでは、IAISによって示されたICSの新たな実施計画の概要及びそれに対する関係者の反応等について報告する。
1 ICS Version 1.0に関連する資料については、以下のIAISのWebサイトから入手可能
https://www.iaisweb.org/page/supervisory-material/insurance-capital-standard//file/67651/ics-Version 1.0-for-extended-field-testing
2 「実施」の意味するところは、「各国が適用可能」となるという意味で、「各国が適用を開始しなければならない」という意味ではない。通常はICSの内容が確定した後、各国への法令化等に一定の期間を要することになる。
3 IAISのプレスリリース資料等については、以下からIAISのWebサイトから入手可能
file:///C:/Users/Ryoichi/AppData/Local/Packages/Microsoft.MicrosoftEdge_8wekyb3d8bbwe/TempState/Downloads/2_November_2017__IAIS_Press_Release_-_IAIS_Announces_Unified_Path_to_Convergence_on_ICS_Version_2_0.pdf
file:///C:/Users/Ryoichi/AppData/Local/Packages/Microsoft.MicrosoftEdge_8wekyb3d8bbwe/TempState/Downloads/Implementation_of_ICS_Version_2_0.pdf
2―ICS(保険資本基準)について-これまでの経緯-
1|ICSとは
ICSは、IAIGs(Internationally Active Insurance Groups:国際的に活動する保険グループ)に適用されるグループベースの連結保険資本基準である。ICSは、IAIGsを監督するための国際的な監督フレームワークで定性的かつ定量的な要件を取り扱うComFrame(Common Framework for the Supervision of Internationally Active Insurance Groups)の一部である。
IAISは、ICSがComFrameの規制資本要件(Prescribed Capital Requirement:PCR)となることを計画している。ICSは、保険契約者の利益と保護のための公正で安全で安定した保険市場を開発し、維持し、グローバルな金融安定性に貢献するために、効果的かつグローバルに一貫した保険業界の監督を促進するというIAISの目標に照らして開発されてきており、これにより異なる管轄区域にわたる比較可能な監督上の結果を確実にすることを目指している。
なお、IAIGsの認定基準4については、ComFrameに規定され、グローバルに保険活動を展開している数十社程度が該当し、これらの会社で世界の保険料シェアの5割以上を占めると予想されている。
4 現時点の考え方によれば、「規模の基準((1)少なくとも500億米ドルの保険資産又は100億米ドルの保険料)及び国際活動基準((2)3つ以上の管轄区域での活動、(3)少なくとも10%以上の保険料を本籍管轄区域外から引き受け)がベースであるが、監督当局による裁量も認められている。」となっている。
ICSは、IAIGs(Internationally Active Insurance Groups:国際的に活動する保険グループ)に適用されるグループベースの連結保険資本基準である。ICSは、IAIGsを監督するための国際的な監督フレームワークで定性的かつ定量的な要件を取り扱うComFrame(Common Framework for the Supervision of Internationally Active Insurance Groups)の一部である。
IAISは、ICSがComFrameの規制資本要件(Prescribed Capital Requirement:PCR)となることを計画している。ICSは、保険契約者の利益と保護のための公正で安全で安定した保険市場を開発し、維持し、グローバルな金融安定性に貢献するために、効果的かつグローバルに一貫した保険業界の監督を促進するというIAISの目標に照らして開発されてきており、これにより異なる管轄区域にわたる比較可能な監督上の結果を確実にすることを目指している。
なお、IAIGsの認定基準4については、ComFrameに規定され、グローバルに保険活動を展開している数十社程度が該当し、これらの会社で世界の保険料シェアの5割以上を占めると予想されている。
4 現時点の考え方によれば、「規模の基準((1)少なくとも500億米ドルの保険資産又は100億米ドルの保険料)及び国際活動基準((2)3つ以上の管轄区域での活動、(3)少なくとも10%以上の保険料を本籍管轄区域外から引き受け)がベースであるが、監督当局による裁量も認められている。」となっている。
3|ICS作成に向けてのプロセス(2017年7月時点)
(1)2017年7月に公表された ICS Version 1.0の位置付け
IAISは、2015年と2016年に、ICSの開発に関する量的フィールドテストを実施したが、2017年7月に公表されたICS Version 1.0は2017年9月に提出される予定の第3回定量的ICSフィールドテストに対応するものであった。1年前の2016年7月19日に2016 ICS CDが公表された時には、2017年6月までに機密ベースで会社が監督当局に報告する「ICS Version 1.0」の採択が計画されていたが、そこまでには至らずに、ボランティアグループが10社ほど拡大したとはいえ、あくまでもフィールドテストという位置付けにとどまっていた。
(2) 次のステップとしてのICS Version 2.0について
その時点では、ICS Version 1.0の位置付けは、当初の計画から若干後退した形になってはいたが、IAISは、ICS Version 2.0の2019年の設定、2020年からの実施という目標を変更していなかった。
また、ICS Version 2.0の目標は、監督者の実施に適したICSの提供であり、その内容については、以下の通り記述されていた。
ICS Version 2.0が採用された後に、実施期間があるが、IAISの定款によれば、メンバーは、特定の市場情勢を考慮して、IAISの監督用資料を作成し、定期的な自己評価とピアレビューを実施することをコミットすることになっていた。
(3)IAISのICSに関する最終目標
なお、IAISの最終目標は、日付は未定だが、管轄区域間で比較可能な、即ち実質的に同じ結果を達成する共通の方法論を含む単一のICSを設定することである。
進行中の作業を通じて、評価、資本リソース、資本要件等のICSの重要な構成要素において、時間の経過とともにコンバージェンスが改善されていくことを意図している。
(1)2017年7月に公表された ICS Version 1.0の位置付け
IAISは、2015年と2016年に、ICSの開発に関する量的フィールドテストを実施したが、2017年7月に公表されたICS Version 1.0は2017年9月に提出される予定の第3回定量的ICSフィールドテストに対応するものであった。1年前の2016年7月19日に2016 ICS CDが公表された時には、2017年6月までに機密ベースで会社が監督当局に報告する「ICS Version 1.0」の採択が計画されていたが、そこまでには至らずに、ボランティアグループが10社ほど拡大したとはいえ、あくまでもフィールドテストという位置付けにとどまっていた。
(2) 次のステップとしてのICS Version 2.0について
その時点では、ICS Version 1.0の位置付けは、当初の計画から若干後退した形になってはいたが、IAISは、ICS Version 2.0の2019年の設定、2020年からの実施という目標を変更していなかった。
また、ICS Version 2.0の目標は、監督者の実施に適したICSの提供であり、その内容については、以下の通り記述されていた。
・ICS Version 1.0と比較して改善されたレベルの比較可能性を達成するが、おそらく最終的な目標によって想定される比較可能性のレベルではない。
・まだ2つの評価アプローチを含むかもしれないが、評価の差異を縮小することを志向する。
・ICS資本要件を計算するための標準方式と、以下を含む他の計算方式を許容しているかもしれない。:(1)内部モデルの使用(部分又は完全)、(2)外部モデル、(3)標準方式のバリエーション
ICS Version 2.0が採用された後に、実施期間があるが、IAISの定款によれば、メンバーは、特定の市場情勢を考慮して、IAISの監督用資料を作成し、定期的な自己評価とピアレビューを実施することをコミットすることになっていた。
(3)IAISのICSに関する最終目標
なお、IAISの最終目標は、日付は未定だが、管轄区域間で比較可能な、即ち実質的に同じ結果を達成する共通の方法論を含む単一のICSを設定することである。
進行中の作業を通じて、評価、資本リソース、資本要件等のICSの重要な構成要素において、時間の経過とともにコンバージェンスが改善されていくことを意図している。
3―今回の公表内容に基づく今後のICSの実施計画
今回のIAISの合意は、2020年から実施される予定だったICS Version 2.0の位置付け等を変更するものである。以下は、今回IAISが公表したプレスリリース資料及びICS Version 2.0の実施に関する資料3に基づいている。
1|ICS Version 2.0の位置付けと今後の実施計画
IAISのプレスリリース資料に基づけば、ICS Version 2.0の実施は、(1)5年のモニタリング段階と、(2)それに続く実施段階、の2段階に分かれて実施されることになる。
より具体的には、以下の通りとなる。
(1)「モニタリング期間」と呼ばれる第1段階では、グループ全体の監督者への機密情報の報告と、監督カレッジにおける議論にICS Version 2.0が使用される。この段階でICSは規制資本要件(PCR)として使用されない(つまり、ICSの結果は監督上の処分のトリガーとして使用されない)。これにより、グループ全体の監督者及びホスト監督者は、既存のグループ資本基準又は開発中の計算と比較してICSを議論し評価することが可能になる。モニタリング期間は5年間続く。
(2)第2段階は、「グループ全体のPCRとしてのICSの実施」である。
これにより、ICS Version 2.0は、元々予定されていた「監督者の実施に適したICS(監督行為のトリガーとして使用)」を意味するものから、適用開始から当初の5年間は、モニタリング期間として「監督者への機密情報の報告」を意味するものに、位置付けが変更された。別の見方によれば、ICS Version 2.0の2019年の設定、2020年からの実施という目標は変更されていないものの、「実施」の意味合いが変更されたといえるかもしれない。
なお、IAIGSsの選定等のスケジュールは変更されていないようなので、2020年までにIAIGSsに選定された保険会社・グループに対して、今後新たに作成される ICS Version 2.0が「適用」されていくことになるものと思われる。
1|ICS Version 2.0の位置付けと今後の実施計画
IAISのプレスリリース資料に基づけば、ICS Version 2.0の実施は、(1)5年のモニタリング段階と、(2)それに続く実施段階、の2段階に分かれて実施されることになる。
より具体的には、以下の通りとなる。
(1)「モニタリング期間」と呼ばれる第1段階では、グループ全体の監督者への機密情報の報告と、監督カレッジにおける議論にICS Version 2.0が使用される。この段階でICSは規制資本要件(PCR)として使用されない(つまり、ICSの結果は監督上の処分のトリガーとして使用されない)。これにより、グループ全体の監督者及びホスト監督者は、既存のグループ資本基準又は開発中の計算と比較してICSを議論し評価することが可能になる。モニタリング期間は5年間続く。
(2)第2段階は、「グループ全体のPCRとしてのICSの実施」である。
これにより、ICS Version 2.0は、元々予定されていた「監督者の実施に適したICS(監督行為のトリガーとして使用)」を意味するものから、適用開始から当初の5年間は、モニタリング期間として「監督者への機密情報の報告」を意味するものに、位置付けが変更された。別の見方によれば、ICS Version 2.0の2019年の設定、2020年からの実施という目標は変更されていないものの、「実施」の意味合いが変更されたといえるかもしれない。
なお、IAIGSsの選定等のスケジュールは変更されていないようなので、2020年までにIAIGSsに選定された保険会社・グループに対して、今後新たに作成される ICS Version 2.0が「適用」されていくことになるものと思われる。
2|ICS Version 2.0における報告
ICS Version 2.0の実施においては、以下の2つの構成要素の報告が求められる。
(1)全てのIAIGsによる、市場調整評価(MAV)、資本要件の標準式及び適格資本リソースのための収束基準に基づく参照ICS(reference ICS)の義務的な機密報告
(2)グループ全体の監督当局のオプションによる、GAAP plus評価及び/又は内部モデルに基づく資本要件計算に基づくICSの追加報告
即ち、全てのIAIGsが市場調整評価(MAV)方式での報告を行うとともに、グループ全体の監督当局が望む場合、オプションで、GAAP plus評価及び/又は内部モデルに基づいて追加の報告を行うことになる。結果的に、米国や日本においてはオプションでGAAP plus評価による報告が、欧州ではオプションで内部モデルに基づく報告が行われることになるものと想定される。
なお、参照ICSについては、「解決できない問題に対する限られた数の国の裁量が含まれている。」として各国の監督当局の裁量の余地を認めているが、「国の裁量が使用される場合、国の裁量の影響は調和可能(reconcilable)でなければならない。」としている。
ICS Version 2.0の実施においては、以下の2つの構成要素の報告が求められる。
(1)全てのIAIGsによる、市場調整評価(MAV)、資本要件の標準式及び適格資本リソースのための収束基準に基づく参照ICS(reference ICS)の義務的な機密報告
(2)グループ全体の監督当局のオプションによる、GAAP plus評価及び/又は内部モデルに基づく資本要件計算に基づくICSの追加報告
即ち、全てのIAIGsが市場調整評価(MAV)方式での報告を行うとともに、グループ全体の監督当局が望む場合、オプションで、GAAP plus評価及び/又は内部モデルに基づいて追加の報告を行うことになる。結果的に、米国や日本においてはオプションでGAAP plus評価による報告が、欧州ではオプションで内部モデルに基づく報告が行われることになるものと想定される。
なお、参照ICSについては、「解決できない問題に対する限られた数の国の裁量が含まれている。」として各国の監督当局の裁量の余地を認めているが、「国の裁量が使用される場合、国の裁量の影響は調和可能(reconcilable)でなければならない。」としている。
(2017年11月14日「保険・年金フォーカス」)
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