2017年11月10日

貸出・マネタリー統計(17年10月)~投資信託の前年割れが継続

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向: 3ヵ月連続で鈍化

11月9日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、10月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.79%と前月(同2.97%)から低下した(図表1)。水準としてはまだ高いものの、伸び率の低下は3ヵ月連続となった。都銀等の伸び率が前年比2.0%(前月は2.3%)と引き続き大きく低下したうえ、地銀(第2地銀を含む)の伸び率も3.5%(前月は3.6%)とやや低下した(図表2)。主に前年にあったM&A資金など大口貸出の反動が出ているようだが、金融庁から問題視されたアパートローンやカードローンで自粛の動きが出ていることも一部影響している可能性がある。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3)貸出先別貸出金/(図表4) ドル円レートの前年比(月次平均)
次に、為替変動等の影響を調整した実勢である「特殊要因調整後」の銀行貸出伸び率(図表1)1を見ると、直近判明分である9月の伸び率は前年比2.82%と8月の3.08%から低下している。8月から9月にかけてのドル円レートの円安幅(前年比)は8.5%で横ばいであったため、見た目(特殊要因調整前)の銀行貸出の伸び率低下(8月3.24%→9月2.97%)に沿った動きとなった。昨年後半以降、見た目の伸び率上昇に作用してきた円安による押し上げ効果は一服している。

10月の「特殊要因調整後」伸び率は未判明だが、10月におけるドル円レートの円安幅(前年比)は8.8%と9月から若干拡大した(図表4)。円安は外貨建て貸出の円換算額を押し上げることで見た目の伸び率を押し上げる。9月から10月にかけての円安による押し上げ幅は若干拡大したと考えられる。従って、10月の特殊要因調整後の伸び率は、見た目の伸び率の低下幅(0.18%)より若干大きめに低下したと考えられ、前年比2.6%程度になったと推測される。
 
1 特殊要因調整後の残高は、1カ月遅れで公表されるため、現在判明しているのは9月分まで。

2.主要銀行貸出動向アンケート調査: 企業・個人向け資金需要の増勢強まる

日銀が10月23日に発表した主要銀行貸出動向アンケート調査によれば、2017年7-9月期の(銀行から見た)企業の資金需要増減を示す企業向け資金需要判断D.I.は6と前回(4-6月期)の3から上昇した。同D.I.は長らくプラスが続いており、従来から「増加」が優勢な状況であったが、今回は増勢が強まったとの実感が示されている(図表5)。

企業規模別では、中小企業向けが8(前回は7)と小幅に上昇したほか、前回はマイナス(「減少」が優勢)であった大企業向けも2(前回は-4)とプラス(「増加」が優勢)へと転じた(図表6)。業種別でも、幅広く上昇がみられる。

資金需要が増加したとする先に、その要因を尋ねた問いでは、大企業については「売上の増加」、中小企業については「売上の増加」、「手許資金の積み増し」、「貸出金利の低下」を挙げた先が最も多かった。
 
個人向け資金需要判断D.I.も8と、前回の2から上昇した(図表5)。消費者ローンは低下(前回6→今回3)したものの、主力の住宅ローンが5と前回の0から上昇した。
個人向けD.I.は、前回資金需要に一服感がみられたが、今回再び増勢が強まった形となっている。
(図表5)資金需要判断DI/(図表6)資金需要判断DI (大・中小企業)
今後3ヵ月の資金需要については、企業向けD.I.が3、個人向けが2となっている。どちらも銀行全体では、引き続き緩やかに増加するとの見立てになっているが、今後増勢が強まることは見込まれていない(図表5)。

3.マネタリーベース: 今年の増加ペースは昨年の2/3に

11月2日に発表された10月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベースの前年比伸び率は14.5%と、前月(同15.6%)から低下した。伸び率の低下は2ヵ月連続。内訳のうち、日銀当座預金の伸び率が前年比17.7%と前月(19.3%)から低下したことが原因である(図表7・8)。
(図表7) マネタリーベース伸び率(平残)/(図表8) 日銀当座預金残高(平残)と伸び率
(図表9)マネタリーベース残高と前月比の推移 一方、10月末のマネタリーベース残高は477兆円となり、引き続き過去最高を更新したが、前月末からの増加幅は2.0兆円(前月は5.5兆円)に留まった。また、季節性を除外した季節調整済みの月中平均残高ベースでも、前月比2.7兆円増と前月(4.8兆円増)からペースダウンしている(図表9)。

なお、今年1月から10月までの平均(季節調整済み月中平均残高ベース)でも、月間増加額は4.4兆円増に留まり、昨年の同時期における平均6.5兆円のおよそ2/3のペースに減速している。マネタリーベース(末残)の前年比増加額を見ても、59.0兆円と2013年9月以来の小幅に留まっている。日銀の国債買入れペースが縮小していることが、マネタリーベース増加ペースの鈍化という形で現れている。

今後についても、引き続き日銀の大量国債買入れによって市中に残存する国債残高が減少に向かうため、日銀の国債買入れペースはさらに縮小に向かうとみられ、マネタリーベースの増加ペースも緩やかに鈍化していくと考えられる。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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