2017年11月09日

オフィス市場は好調継続。リート市場の低迷でJREITによる物件取得が減少。~不動産クォータリー・レビュー2017年第3四半期~

竹内 一雅

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(5)物流施設
物流施設への需要はEコマース企業を中心に幅広い業種で増加している。CBREによると、2017年7-9月の大型マルチテナント型物流施設の空室率は、新築物件が空室を抱えて竣工したため5.8%(前期5.1%)と前期より上昇したが、竣工済み物件では2.2%(前期2.7%)まで低下し、人気の高い地域ではまとまった空室がほとんどない状況になっているという。近畿圏においても需要は堅調で15.7%(前期18.4%)と改善した。

2017年は大阪圏で過去最大の供給があり、空室の増加が懸念されていたが、ロジスティックフィールド総合研究所によると1月~10月の需要量も昨年一年間の2倍に迫る過去最大規模となっている(図表32)。ただし、新規の供給が続く中で、次第に湾岸部での空室が長期化するなど地域格差が顕在化し始めているようだ(CBREによる)。東京圏でも来年から大量供給が予定されており、地域や物件による競争力の格差拡大が懸念される。賃料水準は評価の高い地域で上昇が見られるが、一五不動産によると、物流施設の賃料水準に対する業況判断は弱気が増加している(図表33)。なお、物流現場での人手不足は深刻で、労働力の確保に優れた物件へのテナント評価が高まっている。
図表-32 主要物流施設の需給動向と見通し
図表-33 物流施設価格・賃料の業況判断DI

6.J -REIT(不動産投信)・不動産投資市場

6.J -REIT(不動産投信)・不動産投資市場

(1) J-REIT(不動産投信)
2017年7-9月の東証REIT指数(配当除き)は、Jリート投信からの資金流出が継続したことから6月末比▲2.4%下落した。セクター別ではオフィスが▲1.8%、住宅が▲1.5%、商業・物流等が▲3.4%下落した(図表34)。これにより、東証REIT指数の年初からの下落率は▲11%となり好調な国内株式(+10%上昇)とのリターン格差がさらに拡大した。9月末時点のバリュエーションは、純資産8.7兆円に保有物件の含み益2.2兆円を加えた10.9兆円に対して時価総額は11.3兆円でNAV倍率は1.1倍、分配金利回りは4.1%(対10年国債利回りスプレッド4.1%)である。

REIT市場の下落要因の1つにJリート投信からの資金流出が挙げられる。投資信託協会によると、4月から9月にかけてJリート投信全体で累計▲552億円の資金流出となった(図表35)。このうちETF(上場投資信託)への流入額(1,030億円)を除くと、リテール向けJリート投信からの流出額は▲1,582億円にのぼる。これは市場時価総額に対して1.4%の規模であり、株式市場で換算した場合約8兆円の売りインパクトに相当し影響はかなり大きい。2015年に約7,200億円、2016年に約4,700億円の資金流入がありこれまで市場の拡大を支えてきたJリート投信が売り主体に転じたことで、市場参加者は様子見姿勢を強めている。なお、9/14に三菱地所物流リート投資法人が運用資産8物件・708億円で新規上場し、銘柄数は59社に増加した。

また、J-REITによる第3四半期の物件取得額(引渡しベース)は3,057億円(前年同期比▲42%)、1―9月累計で1兆1,209億円(▲23%)となり昨年と比べて大きく鈍化した(図表36)。投資口価格の下落や不動産利回りの低下を背景に各社が新規投資を手控えるなか、物件取得額の減少率は期を追う毎に拡大している。
図表-34 東証REIT指数(配当除き、2016年12月末=100)/図表-35 Jリート投信の資金フロー
図表-36  J-REITによる物件取得額(四半期毎)
(2) 不動産投資市場
日経不動産マーケット情報によると、2017年7-9月の不動産売買額は7,463億円(前年比+13%)となり、4四半期連続で前年同期を上回った(図表37)。売買で最高額となったのが浦安市のシェラトン・グランデ・トーキョー・ベイ・ホテルの978億円だった11。7-9月の売買の特徴は、リートによる物件取得が前年比で減少した中で、三菱地所物流リート投資法人の新規上場や、他の物流リートの公募増資により、物流施設の活発な取得が見られたことだ(図表38)。

不動産投資における資金環境は良好な状態が続いているが、わずかながら変化も見られ始めた。金融機関による不動産業への貸出態度は大幅なプラスの状況にあるが、大企業では3月をピークに下落がみられる(図表39)。不動産業への貸出残高も増加のペースがわずかであるが鈍っており、不動産業と個人による貸家業に対する新規の貸出額の増加率は前年比で減少に転じた(図表40、41)。全国銀行協会によると、アパートローンへの貸出額は、地方銀行ではまだプラスが維持されているが、全国の銀行合計でみると8月には前月比で減少に転じている(図表42)。堅調な住宅着工を支えてきた貸家の好調も融資環境の変化の中でこれまでとは異なる動きが現れる可能性もある。
図表-37 国内不動産売買額
図表-38 最近の主な不動産売買
図表-39 金融機関の不動産業への貸出し態度DI/図表-40  国内銀行の不動産業向け貸出残高
図表-41 不動産業と個人による貸家業に対する新規貸出額変化率(前年比)/図表-42 銀行のアパートローン残高変化(前月比)
 
11 日経不動産マーケット情報によると、売主であるフォートレスは2013年に約420億円で取得しており、その後、アネックス棟がオープンするなど規模が拡大しているが、一室当りの売買価格は5,237万円から9,623万円に大幅にアップしたという。
 
 

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竹内 一雅

研究・専門分野

(2017年11月09日「不動産投資レポート」)

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