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ドイツの生命保険会社の状況(3)-BaFinの2016年Annual Report等より(低金利環境下での生命保険会社の状況)-
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前回と前々回のレポートでは、新しいソルベンシーII制度がスタートして1年間を踏まえての、ソルベンシーII制度に関係する項目についてのドイツの生命保険会社を巡る状況を、保険監督官庁であるBaFinの2016年Annual Report(年次報告書)からの記述を中心に報告してきた。
今回のレポートでは、引き続き注目の的となっている低金利環境下でのドイツの生命保険会社の状況について、報告する1。
ドイツの生命保険会社は、(1)伝統的に養老保険等の長期の利率保証型商品が主力であったため、現時点においても責任準備金に占める利率保証型商品のウェイトが高く、負債のデュレーションがかなり長くなっている。(2)その平均的な保証水準を示す平均予定利率は引き続き2.9%程度2と、現在の市場金利等に比べてかなり高い水準にとどまっている。(3)一方で、資産サイドにおいては、債券・貸付等の確定利付資産が極めて高い割合を占めているが、債券市場は10年国債が中心であり、資産のデュレーションは、負債に比べてかなり短いものとなっている。(4)そのため、資産と負債の間に大きなデュレーション・ギャップが発生している状況にある3。(5)また、これらの結果として、現在のような長期に低金利環境が継続する中では、収益面で大きなマイナスの影響を受けるリスクを抱える構造になっている。
こうした状況については、これまでいくつかのレポートで報告してきた。
今回は、BaFinの2016年Annual Reportをベースに、格付会社からのレポート等も参照して、低金利環境下でのドイツの生命保険会社の最近の状況について報告する。
1 ドイツにおける低金利環境下でのBaFinの対応等については、基礎研レポート「金利低下に保険監督当局はどう対応してきたのか -ドイツ BaFin の例-」(2015.6.15)を参照していただきたい。
2 ただし、このレポートの「4―ZZRを巡る最近の状況について」で述べるように、ZZR(Zinszusatzreserve:追加責任準備金)の積立により、2016年末の実質的な平均予定利率は2.3%程度になっている。
3 EIOPA「Financial Stability Report May 2015」によれば、ドイツの生命保険会社の資産のデュレーションは約10年、負債のデュレーションは約20年で、両者に10年程度のギャップがあると報告されている。
低金利環境下における生命保険会社の状況に関するBaFinのAnnual Report等での記述については、1年前の保険年金フォーカスでも2015年Annual Reportに基づいて報告したが、その後1年を経て、2016年Annual Report等での記述は、以下の通りとなっている。
1|BaFinのFelix Hufeld長官の声明
BaFinのFelix Hufeld長官は、低金利環境下における生命保険会社の状況について、以下のように述べている。
「殆どの会社は、資本基盤の強化、契約者配当の削減、新しい形の保証による新商品の提供等、金利面での困難な時代を迎えるために十分な準備をしてきた。しかし、特に弱い生命保険会社に対する圧力は、目に見えて高まっている。より良き時代に約束した給付を信頼性をもって維持したい場合、彼らはさらなる努力をしなければならない。」
「長期金利が低いままであれば、銀行や保険会社にとって金利リスクが大きくなる。それゆえ、低金利の時代には、銀行は長期貸付を受け入れる傾向があり、保険会社は長期的な投資を好む傾向がある。 同時に、監督制度は、資産と負債が適切にバランスされることを要求している。BaFinは、これらのリスクに注意を払い、必要に応じて介入している。一般的に、規制当局は、国際会計基準との組み合わせで、金融規制の意図しない景気循環効果の問題に直面している。」
より、具体的には、以下の通りである。
低金利がチャレンジを追加
デジタル化から生じる様々な課題に加えて、この分野に直面する別の問題がある。持続的に低い金利である。その効果は、特にドイツの生命保険会社など伝統的に影響を受けている会社の間で感じられている。殆どの会社は、資本基盤の強化、契約者配当の削減、新しい形の保証による新商品の提供等、金利面での困難な時代を迎えるために十分な準備をしてきた。しかし、特に弱い生命保険会社に対する圧力は、目に見えて高まっている。より良き時代に約束した給付を信頼性をもって維持したい場合、彼らはさらなる努力をしなければならない。いくつかの所有者は、彼らの会社の資本を強化しなければならないという事実に慣れなければならないかもしれない。BaFinの場合、これは引き続き強化された監視モードでますます仕事を行い続けることを意味している。
低金利環境における年金基金と住宅金融組合
低金利に対処するのに苦労している年金基金には、さらに多くのことが当てはまる。また、リスク評価能力を強化するために、早期段階で緩和策を講じ始めた。ほぼ全ての年金基金が追加準備金を認識している。しかし、低金利が続く場合、そのうちのいくつかは、もはや約束された給付を完全に提供することができなくなる可能性がある。
低金利が住宅金融組合の収益に重荷を与えていることは驚くことではない。その理由の1つは、高金利の期間に遡る住宅組合預金の支払利息は、住宅組合の貸出金からの同様の受取利息によって相殺されないということである。住宅金融組合はこの不一致の結果に対処しようとしている。彼らは新しい低金利のタリフを導入し、よりクリーンなプロセスを作り、コストを削減している。彼らがポートフォリオ内の高利回りの住宅金融契約の割合を減らすために目に見える形で動いているという事実も、メディアに激しい反発を引き起こした。最近の裁判所判決は、この点についてより明確にしている。
金利リスク
長期金利が低いままであれば、銀行や保険会社にとって金利リスクが大きくなる。それゆえ、低金利の時代には、銀行は長期貸付を受け入れる傾向があり、保険会社は長期的な投資を好む傾向がある。 同時に、監督制度は、資産と負債が適切にバランスされることを要求している。BaFinは、これらのリスクに注意を払い、必要に応じて介入している。一般的に、規制当局は、国際会計基準との組み合わせで、金融規制の意図しない景気循環効果の問題に直面している。
低金利環境下での保険会社の状況に関して、Annual Reportの中での記述は、Felix Hufeld長官の声明と重なっている内容も多いが、例えば「新しい種類の保証」について「数年の間、会社はますます新しいタイプの保証メカニズムで商品を宣伝してきた。例えば、保証は満期時の一時支払額に基づいている場合が多く、年金開始時に再計算される場合や、拠出額の合計額のみを対象とする場合がある。」と述べている。
具体的には、以下のように記述されている。
5.1保険会社
持続的な低金利は、保険会社、特に生命保険会社にとってますます重くのしかかってきている。セクターは短期間で、引き続き金利低下の準備をしている。これらの取り組みにより、資本基盤が強化され、配当が削減され、新しい種類の保証が付与された商品が提供されるようになった。しかし、一部の生命保険会社はますます圧力を受けているため、BaFinは特に注意を払って彼らを監督している。
新しい種類の保証
保証された利息を伴う長期契約は、ドイツの生命保険会社にとって新契約の焦点であり続けている。 今日まで、最も重要な商品カテゴリーは、適用可能な最高予定利率の長期保証と、利益参加による保証給付の年間増加を伴う繰延年金保険であった。現在の低金利環境では、これらの保証は生命保険会社に大きなリスクをもたらす。したがって、ここ数年の間、会社はますます新しいタイプの保証メカニズムで商品を宣伝してきた。例えば、保証は満期時の一時支払額に基づいている場合が多く、年金開始時に再計算される場合や、拠出額の合計額のみを対象とする場合がある。
低金利環境における年金基金
低金利は、特にビジネスモデルが長期的視点に基づいている年金基金にますますマイナスの影響を与えている。そのため、BaFinはそれらを密接に監視し、会社がリスク回避能力を可能な限り維持し、さらに強化するようにしている。
年金基金は、BaFinの予測によって明らかにされているように、これに関して早い段階から取り組んできた。ほぼ全ての年金基金が追加準備金を認識している。しかし、低金利がさらに長期間続く場合、一部の年金基金は、もはや自らの財源から約束された給付を全面的に提供できなくなることが予想される。それが起こるのであれば、相互保険協会(Versicherungsverein)として組織された年金基金は、その所有者によって資金が提供されることになる。株式会社の場合、これは株主の責任となる。
(2017年10月24日「保険・年金フォーカス」)
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中村 亮一のレポート
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