2017年08月08日

東京Aクラスビルの成約賃料が再上昇。売り時判断の増加で不動産売買は拡大。~不動産クォータリー・レビュー2017年第2四半期~

竹内 一雅

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(3) 商業施設
2017年4-6月の小売販売額(既存店)は、百貨店で前年比+0.9%の上昇、スーパーで微減(同▲0.1%)、コンビニで微増(同+0.2%)だった(図表-28)。夏物衣料が堅調で、自動車販売も好調であることなどから、経済産業省では6月の小売業販売額の基調判断を「持ち直しの動きが見られる」とした。

特に、百貨店では、景気の回復や株高による高額消費、インバウンド消費の好調がプラスに寄与した。百貨店の外国人客売上高は、来店客数の急増を反映して2016年末から増加に転じ、5月からは2ヶ月連続で前年比+40%を上回る増加率となっている(図表-29)。訪日外国人消費動向調査によると、4-6月の訪日外国人の旅行消費額は1兆776億円(前年比+13.0%)と四半期で初めて1兆円を上回った。

東京中心部の商業地における平均募集賃料は、銀座や渋谷で前年比+10%以上の上昇となるなど、2016年夏以降、全般的に上昇基調にある。その一方、1階店舗では募集賃料の横ばいや下落がみられる。これは、例えば銀座では主要通り以外での賃料下落の影響が出ているためという(図表-30)。銀座では4月20日に店舗数241店、年間来館者数2千万人を目標とするGINZA SIXが開業し、さらなる銀座地区の活況への期待が高まっているが、CBREによるとGINZA SIXがテナントの出店需要の多くを吸収したため現在はテナント需要に一服感が出ているという。
図表-28 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの売上高(既存店、前年比)/図表-29 百貨店での外国人旅行客による免税品売上高および前年比増加率
図表-30 東京・主要商業エリアの店舗募集賃料
(4) ホテル
2017年4-6月の訪日外国人旅行者数は722万人で前年同期比+21.1%の増加だった。過去12ヶ月の累計は2,608万人に達し2016年末の2,404万人から2百万人の増加となった(図表-31)。

4-6月の訪日外国人旅行者数を国・地域別にみると、韓国からの前年比増加率が67.7%と突出しているが、この急増には前年の熊本地震後の減少への反動も要因の一つとなっている(図表-32)。中国からの訪日客は1月に前年同月比+32.7%と高い伸びとなったが、2月以降は同+2%程度とほぼ横ばいで推移しており、中国人訪日客数の停滞が全体の上昇率の抑制につながっている10

宿泊旅行統計によると、4-6月の国内宿泊施設の延べ宿泊者数は、1億1,944万人泊へと前年比+355万人泊(同+3.1%)の増加となった(図表-33)。外国人延べ宿泊者数の増加(同+197万人泊、同+10.6%)に加え、日本人も前年比で6四半期ぶりの増加(同+158万人泊、+1.6%)を回復した。ホテルの開業が続いている中で11、主要都市の客室稼働率は高い水準を維持しており、オータパブリケーションによると、6月の平均客室稼働率は80.3%と昨年や一昨年を上回る水準だった(図表-34)。

2017年6月9日には民泊を解禁する「住宅宿泊事業法」が国会で成立した。年間提供日数の上限を180日(泊)とし、事業者には都道府県知事への届出を、管理業者には国土交通大臣への登録を、仲介業者には観光庁長官への登録を義務付けている。民泊事業への期待から事業者の新規参入が続いている一方でトラブルも発生しており、民泊の解禁に対する期待の拡大とともにトラブルへの対策が喫緊の課題となっている12
図表-31 訪日外国人旅行者数(過去12ヶ月累計)/図表-32 国・地域別訪日外国人旅行者数・前年比増加率 (2017年4-6月)
図表-33 国内宿泊施設の延べ宿泊者数<増加数(前年同期比)>/図表-34 全国のホテル客室稼働率
 
10 韓国では、米軍による最新鋭ミサイル防衛システムTHAAD「ターミナル段階高高度地域防衛システム(Terminal High Altitude Area Defense System)」の配備に伴い、中国からのインバウンド旅行客が急減しており、6月は前年比▲66.4%の大幅な減少となった(1-6月累計でも同▲41.0%減)。訪韓中国人旅行者数の急減は韓国の観光産業に大きな打撃を与えており、上半期の旅行収支の赤字は▲77億4千万ドルで、サービス収支の赤字も2016年上期の▲78億ドルから▲157億ドルへと拡大した(朝鮮日報「韓国のサービス収支赤字が過去最大、中国人客減少が直撃」2017.8.4などを参照のこと)。一部報道ではTHAAD問題で中国人旅行者数の目的地が韓国から日本へと変更され、中国人の訪日旅行者数が増加するとの見通しもあったが、実際には中国人の訪日客数も横ばいが続いている。
11 週刊ホテルレストランによると、2016年12/2~2017年6/1までの半年間に開業したホテルは102軒だった。
12 最近報道された新規参入としては以下がある。楽天は民泊仲介事業への進出とともに民泊大手のホームアウェイや途家(トゥージア)と提携、パソナはエアビーアンドビーと清掃など民泊関連事業の人材供給等で提携、みずほ銀行はエアビーアンドビーと提携して社宅に空き室を持つ企業を紹介し部屋や建物の改修費の融資の獲得を企図。なお、国土交通省は住宅宿泊事業法の成立を踏まえて「マンション標準管理規約(単棟型)」を改正し、管理規約で禁止したマンションでは民泊を認めない仕組みを導入しようとしている。詳しくは「「マンション標準管理規約」の改正(案)に関するパブリックコメント(意見公募)を開始」等を参照のこと。
(5) 物流施設
経済産業省によると、日本のBtoCのEコマース市場は2016年に15兆1千億円(前年比+9.9%)に達し、このうち物販系分野は8兆43億円で前年比+10.6%という高い伸びとなった(図表-35)。また、国土交通省によると、2016年度の宅配取扱い個数は40億1,861万個で、前年度から+2億7,367万個(+7.3%)の増加だった(図表-36)。

こうしたEコマースや宅配便などの物流需要急増に伴い、大規模物流施設の需要増加が続いている。CBREによると、2017年4-6月の大型マルチテナント物流施設の空室率は首都圏では5.1%(前期6.5%)に低下した一方、近畿圏では需要は増加したものの新規供給を反映して18.4%(前期17.4%)へと上昇した。

大規模物流施設への需要急増を反映し、ロジフィールド総合研究所によると、首都圏では2018年に、大阪圏では2017年に、過去最大の新規供給量が計画されている(図表-35)。最近では、運輸業界での人手不足が大きな問題となっており、物流施設でも従業員確保の観点から、施設の交通利便性の高さもテナントに対する大きな訴求力になりつつある。大量供給を受けて物件の立地や設備の違いにより成約の進捗や賃料における格差が拡大する可能性もありそうだ。
図表-35 国内BtoC Eコマース取引額/図表-36 宅配便取扱個数
図表-37 主要物流施設の需給動向と見通し
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竹内 一雅

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