- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- ジェロントロジー(高齢社会総合研究) >
- 高齢者のQOL(生活の質) >
- 「老い」を迎える不安-高齢期の「尊厳」どう守る
以前、『病院の待合室のイスが小水でぬれていたことがあった』と、知り合いから聞いたことがある。病院を受診する患者が高齢化し、粗相する人が増えているのだろうか。仕事仲間でも『60歳を過ぎてトイレが近くなり、長い時間の会議や講演のときは水分の摂取を控えている』と話している人がいた。最近では、失禁パンツの新聞広告等もよく見かけるようになったが、加齢がもたらす「尿もれ」などの排泄の失敗は、多くの高齢者にとって決して他人事とは思えないだろう。
近年では高齢化の進展で大人用紙おむつの生産量が増大している。日本衛生材料工業連合会の統計情報をみると、2016年の大人用の紙おむつの生産量は74億4,400万枚で、2010年の54億4,500万枚から37%も増加している。数年前に海外ツアーに参加したとき、男性の高齢者が『バスの移動時間が長い日は、念のため紙おむつをしている』と教えてくれたことを思い出した。子どもの夜尿症などは成長とともに解消するが、高齢者の場合は一層状況がひどくなる可能性が高い。
長寿時代を迎えたことは喜ばしいが、長い人生を全うする上で新たな問題も発生する。大人が失禁すると大きく尊厳が傷つくことになる。さらに認知症が発症し、失禁した自覚もなくなることを想像すると、「老い」を迎える不安は一層広がる。視力、聴力、記憶力などの加齢に伴う心身のさまざまな機能の衰えにより、これまで当然できたことができなくなることに対する不安は大きい。高齢期には経済的な不安もあろうが、自尊心を傷つけられることがより大きな不安へとつながるのだ。
これまで小便器の前の床の汚れは単なるマナーの問題だと思っていたが、それだけではないようだ。大学病院で粗相した高齢男性が、ばつが悪そうにトイレを後にした姿を思い出すと、改めて「老い」を迎える不安が深刻なものだと感じる。高齢社会の厳しい現実に直面し『年寄り笑うな、いつか行く道』という言葉が脳裏によみがえる。だれもが高齢期を「尊厳」をもって生きられる社会をどうつくるかは、長寿時代を迎えた高齢先進国である日本の社会全体で考えるべき課題ではないだろうか。
(参考) 研究員の眼『多死社会の“QOD”~幸せな「逝き方」を考える』(2017年6月13日)
このレポートの関連カテゴリ
土堤内 昭雄
研究・専門分野
(2017年08月08日「研究員の眼」)
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年03月28日
“ガソリン補助金”について改めて考える~メリデメは?トリガー条項との差は? -
2024年03月28日
健康無関心層へのアプローチ -
2024年03月28日
中国経済:景気指標の総点検(2024年春季号) -
2024年03月28日
高齢者就業への期待と課題(中国) -
2024年03月28日
中国における結婚前の財産分与から見た価値観の変化
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
-
2023年04月27日
News Release
【「老い」を迎える不安-高齢期の「尊厳」どう守る】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「老い」を迎える不安-高齢期の「尊厳」どう守るのレポート Topへ