2017年07月19日

欧州保険会社が2016年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(3)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その2)-

文字サイズ

(6)Aegon
AegonのSCRの構成は、以下の図表の通りとなっており、内部モデルによるものが、全体のSCRの73.6%を占めている。内部モデルを適用している会社は、以下の通りである。

Aegon N.V、Aegon Levensverzekering N.V.(Aegonの一部、オランダ)、OPTAS Pensioenen N.V.(オランダのAegonの一部)、Spaarkas N.V.(Aegonの一部、オランダ)、スコットランドのEquitable plc(英国Aegonの一部)

ソルベンシーIIのSCR計算の対象となるAegon内のその他全ての会社は、標準式を使用している。

Aegonは、分散効果による控除率が52.9%と、6グループの中では最も高い水準となっている。
AegonのSCR(ソルベンシー資本要件)

3―使用された内部モデルについての説明

3―使用された内部モデルについての説明

|使用された内部モデルについての説明項目
SFCRにおいては、「E.資本管理(Capital Management)」の中の「E.4 Differences between the standard formula and any internal model used(標準式と使用された内部モデルの差異)」等において、内部モデルについての説明が求められる。

具体的には、各社によっても若干異なる部分もあるが、概ね以下の内容が説明されている。

「E.4.1.内部モデルの使用・目的」
「E.4.2.内部モデルの範囲」
「E.4.3.内部モデルの計算」
「E.4.4.標準式と内部モデルの差異」
「E.4.5.内部モデルで使用されたデータ」

これらの項目についての説明に費やされているページ数については、欧州大手保険グループ6社について、以下の図表の通りとなっている。

なお、会社によっては、「E.2.ソルベンシー資本要件(SCR)と最低資本要件(MCR)」の中で、内部モデルの範囲等について説明しているケースもあるので、「E.4標準式と使用された内部モデルの差異」の分量だけでは、内部モデルに関する記述量を必ずしも比較できないことには注意が必要である。

いずれにしても、記述量に若干の差異はあるものの、各社ほぼ同じような内容をカバーしている。
内部モデルに関する記述量
上記の項目のうち、「E.4.2.内部モデルの範囲」と「E.4.3.内部モデルの計算」については、「2―内部モデルの使用状況」及び前回のレポートの「3―SCRMCRの計算方法」の中で報告している。また、「E.4.4.標準式と内部モデルの差異」については、次回のレポートで報告する。以下では、「E.4.1.内部モデルの使用・目的」と「E.4.5.内部モデルで使用されたデータ」について報告する。
|内部モデルの使用・目的
(1)Avivaの例
Avivaは、Avivaの事業における内部モデルの使用に関して、以下の通り述べている。

E.4.1 Avivaの事業における内部モデルの使用

内部モデルは、グループ全体及び法人レベルで、いくつかの重要なビジネスプロセス及び活動へのインプットを提供する。したがって、内部モデルのアウトプットは、Aviva全体の日々のリスク管理及びビジネス上の意思決定に使用される。

「使用」とは、モデルがビジネスを直接実行するために使用されることを意味するのではなく、その限界を認識し、リスク管理フレームワークの他の要素とバランスをとりつつ、内部モデルの出力とモデル自体が意思決定を支援するために使用されることを意味している。

内部モデルの主な目的は、内部モデル法人及びグループ全体のソルベンシーIIに基づく規制報告に必要な資本メトリクスを計算することにある。モデルの出力は内部で使用され、リスクベースの業績報告、リスクと財務力の報告を上級管理職、取締役会、株主及び格付機関に報告する。

内部モデルによって生成された詳細なメトリックは、グループ全体の戦略を設定し、以下を含む一連のその他の活動をサポートするためにも使用される。

・戦略と事業計画:法人間で資本を配分し、リスク調整後収益を測定し、リスク選好度を事業計画サイクルの一部に設定する。

・価格設定:内部モデルで計算された様々なタイプの商品をサポートするために必要な資本水準を評価することによって、価格設定と商品設計を改善する。

・取引:余剰資本への影響による潜在的買収や事業投資の妥当性の評価

・再保険:潜在的に不利なシナリオをモデル化することにより、望ましくないリスクエクスポージャーを緩和するための目標とされる再保険契約の必要性を特定する。

・資産及び負債管理:投資戦略を推進するための市場変動の資産及び負債への影響の測定

内部モデルがAvivaのリスク管理システムに完全に統合されている方法の詳細は、B.3.3項に記載されている。

(2)Allianzの例
Allianzは、内部モデルと経営でのリスク管理との関係について、以下のように記述している。

B.3.4 Risk management process

Risk based steering and risk management

さらに、アリアンツの配当政策の中心的要素は、部分内部モデルに基づくソルベンシーIIの資本化と関連している。これは、部分内部モデルがAllianzのビジネス・ステアリングに完全に統合されていること、及び部分内部モデルの適用がソルベンシーIIの下でのいわゆる「使用テスト(Use Test)」を満たすことを示している。

|内部モデルで使用されたデータ
内部モデルで使用されたデータについては、各社とも説明を行っている。

(1)Generaliの例
Generaliは、「PIM(部分内部モデル)で使用されたデータの品質は、『グループデータ品質ポリシー』で定義されたプロセスに基づいて認められる。」としている。

E.4.3.内部モデルで使用された方法

PIMで使用されたデータ

SCR計算の目的で、PIMは、市場の証拠とビジネスドライバーの両方を共同で検討するために、市場のデータ(主に資産の特徴に関係するもの)、会計データ、統計ポートフォリオのデータに依存している。この情報は、グループの自己資本のPIM確率モデルの包括的なデータセットを提供する。

PIMで使用されたデータの品質は、「グループデータ品質ポリシー」で定義されたプロセスに基づいて認められる。この方針の中で、グループは比例性および重要性の原則に基づいて範囲内のデータを定義し、正確性、完全性及び妥当性を検証することを目的とした統制を通じてデータの品質を評価する。

PIMのSCR計算は、グループ内部モデル検証ポリシーで定義された原則に基づいて、独立した検証プロセスの対象となる(セクションBも参照)。

(2)Avivaの例
Avivaは、内部モデルで使用されたデータについて、他社に比べて詳しく説明している。

E.4.3.2内部モデルで使用されたデータ

グループの内部モデルで使用された重要なデータは次の通り。

・会計データ(IFRS)-資産と負債のソルベンシーII評価は、IFRS測定が非経済的なベースであることを除けば、IFRSと整合的であることが求められる。ソルベンシーII貸借対照表においては、殆どの金融投資や一定の非技術的負債はIFRSベースで計上される。

・契約データ - これには、既契約や過去の契約の請求を含む。

・オペレーショナルリスク・データ- 当社は、内部の損失経験データと、ORIC(オペレーショナルリスク保険コンソーシアム)によって提供される業界のオペレーショナルリスクの損失に関する外部データベースで保有されるデータの組み合わせを使用する。

・金融市場データ - 市場リスクと信用リスクの較正プロセスは、外部金融市場資産データ(FTSEインデックスリターン等)をしばしば使用する。

・内部資産データ - 基礎となるソルベンシーII貸借対照表の資産は、資産の時価評価及び一定の非取引資産のモデル評価に依存している。使用されるデータは会計処理から取られるため、殆どのデータは「会計データ」の要素の下に含まれる。

・その他のデータ - 上記の5つのカテゴリに該当しないデータ。これには、ソルベンシーII制度の下での必要経済資本の計算に使用される全てのデータ(資産データを含む)と、数値を含む技術的準備金、国勢調査又は分類情報を含むが質的情報は含まない、が含まれる可能性がある。

AvivaのソルベンシーIIデータガバナンスビジネス基準は、SCR計算に使用する前に、適切性、完全性、正確性及び一貫性の観点から、データの質を評価するために使用される管理環境及び基準を設定している。

 

4―まとめ

4―まとめ

今回のレポートでは、欧州大手保険グループ各社のSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))から、内部モデルの使用状況及び使用された内部モデルの説明の一部について報告した。

次回のレポートでは、標準式と使用された内部モデルの差異等の説明内容について報告する。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

(2017年07月19日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【欧州保険会社が2016年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(3)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その2)-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

欧州保険会社が2016年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(3)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その2)-のレポート Topへ