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- 中国の年金制度について(2017)-老いる中国、老後の年金はどうなっているのか。
2017年06月19日
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3――年金積立金の運用
1|年金積立金の委託運用解禁
年金制度を管轄する地方政府は、給付に充てられなかった部分(年金積立金)の運用について、これまで銀行預金、国債の売買に限定し、自家運用してきた。このような運用手法は、安全に運用できる反面、利回りは低く、近年は物価上昇分をカバーできていない年もあった。
中央政府は、少子高齢化が急速に進む中で、将来世代の負担が大きくならないようにするにはどうするべきか、これまで検討を重ねてきた。その結果として、2015年8月に、年金積立金の株式運用などの市場運営や、リスク資産への投資解禁を決定した。加えて、市場での運営を受託する機関を「全国社会保障基金」(全国社保基金)を管轄する理事会とし、2016年には、全国社保基金理事会が運用を受託する21の金融機関、資産管理を受託する4銀行を発表した(図表7)。
年金制度を管轄する地方政府は、給付に充てられなかった部分(年金積立金)の運用について、これまで銀行預金、国債の売買に限定し、自家運用してきた。このような運用手法は、安全に運用できる反面、利回りは低く、近年は物価上昇分をカバーできていない年もあった。
中央政府は、少子高齢化が急速に進む中で、将来世代の負担が大きくならないようにするにはどうするべきか、これまで検討を重ねてきた。その結果として、2015年8月に、年金積立金の株式運用などの市場運営や、リスク資産への投資解禁を決定した。加えて、市場での運営を受託する機関を「全国社会保障基金」(全国社保基金)を管轄する理事会とし、2016年には、全国社保基金理事会が運用を受託する21の金融機関、資産管理を受託する4銀行を発表した(図表7)。
そもそも、全国社保基金とは、少子高齢化など人口構造の変化による基本年金基金の収支が赤字になった場合に備えて、2000年に創設された基金(赤字補填金)である。財源は、年金保険料ではなく、国庫拠出金、国有企業の株式売却益、宝くじの収益金で構成されている。その運用は、当該基金の理事会が担い、運用先も国内外の株式、証券ファンドなどボラティリティの高い資産への投資、海外投資も可能で、2015年の収益率は15.2%と高い(図表8)。加えて、年金積立金の運用に関する将来的な規制緩和を視野に、2012年以降、広東省や山東省などからも実験的に運用を受託し、高い利回りを確保している。政府は、このような取組みや実績から、年金積立金の市場での運用については、新たに独立した機関を設けず、全国社保基金の理事会への委託を決定したと考えられる。
一方、国民の老後の生活を支える年金積立金の運用は、全国社保基金のそれとは異なる。運用、資産管理の受託機関は、長期的に安全かつ効率的に運用するという観点からも、原則として、これまで企業年金または赤字補填金の受託実績がある金融機関から選出している。今後は、その運用状況に応じて、新たな金融機関の増加も考えられるが、現時点で、海外大手の運用機関を選出していない。
一方、国民の老後の生活を支える年金積立金の運用は、全国社保基金のそれとは異なる。運用、資産管理の受託機関は、長期的に安全かつ効率的に運用するという観点からも、原則として、これまで企業年金または赤字補填金の受託実績がある金融機関から選出している。今後は、その運用状況に応じて、新たな金融機関の増加も考えられるが、現時点で、海外大手の運用機関を選出していない。
2|年金積立金の金融市場における運用先
このように、年金積立金の委託運用の枠組は整えられ、委託する資金をどれくらい拠出するかについては、各省などの判断に委ねられることになった。2016年3月末時点で、第一弾として、北京市、上海市、河南省、湖北省、広西チワン族自治区、雲南省、陜西省の7つの省などが全国社保基金の理事会と委託契約を結んでおり、委託金額は合計3,600億元となった。全国の地域数をベースに考えると、運用を委託したのは全体の2割程度にとどまっている。各地域が管理する年金積立金を全国で合計すると、2015年末時点で、およそ4兆元(約73兆円)に達する。当局は今後、最大でも2兆元ほどが運用を委託できるのではないかと推算している。

なお、運用で損失が発生した場合は、全国社保基金が純利益の1%を準備金として積み立てた資金から補填されることになっている。
4――中国の年金制度が抱える課題
(2017年06月19日「基礎研レポート」)
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経歴
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
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