2017年06月19日

中国の年金制度について(2017)-老いる中国、老後の年金はどうなっているのか。

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

文字サイズ

4|都市・農村住民年金-都市の非就労者・農村住民を対象とした年金
(1)構造
農村住民や都市の非就労者を対象とした年金は、「基礎年金」(税金負担)と、「個人勘定」(個人拠出分・積立方式)の2つで構成されている。
 
(2)保険料負担
保険料は賃金に関係なく、複数設定された保険料から、自身の経済状況に応じた保険料を選択して支払う仕組みとなっている。支払った保険料は、地方政府からの補助金とともに、全額が専用の個人口座に積み立てられる。地方政府は、加入インセンティブを高めるため、より上位ランクの保険料を支払った場合、地方政府からの補助金を増額する措置をとっている。
 
(3)年金給付
基礎年金は、国庫と地方政府が財政から拠出して給付する。基準額として月額70元が定められているが、国庫は、このうち、中部・西部地域について満額補填、東部地域については半額の35元を補填している。基礎年金は、この国庫負担分に、地方政府が、当該地域の経済状況を鑑み、消費レベルを保てるよう、それぞれ一定額を加算して算定される。なお、個人勘定については、支給開始年齢が男女とも60歳であるため、年金現価率139で除して算定される。給付は終身で、15年以上の保険料納付が必要となる。
図表4 受給平均月額(2015年) 5|受給格差
このように、負担と給付は、被保険者の分類によって異なる。会社員の場合、保険料は本人の賃金をベースに決められるが、基本年金部分は、運営地域の賃金水準に応じて年金水準が異なるため、受給額の地域格差が拡大する構造となっている。運営地域別で受給額をみた場合、例えば、平均賃金の高い深セン市の平均受給額は4,169元(約8万円)で全国平均のおよそ2倍、北京市、上海市よりも3割ほど多い。
 
また、制度間における受給格差も大きい。都市の会社員の平均受給額は、農村住民・都市の非就労者の19倍となっている。農村住民・都市非就労者の場合は、そもそも制度が導入されてそれほど経過していないため、基礎年金部分で、地方政府がどれほど財政を投入できるかが給付額に大きく影響している。
 

6|管轄地域を跨る場合の保険料の引継ぎ
中国の年金制度は、運営や財政が地域によって分断されており、例えば、管轄地域を跨って転職する場合、それまで積み立てた保険料全額を、新たな地域においても引き継ぐことができるというわけではない。会社員の場合、保険料の企業拠出分(基本年金基金)である20%部分については、その6割にあたる12%分までは新たな地域でも引き継ぐことができる。残りの8%は転職前の管轄地域に残すこととなる。個人が保険料を拠出した個人勘定部分は、全額引き継ぐことができる。年金の受給は、本人の本籍所在地または10年以上保険料を納めた地域から選択して受給することができる。

農村住民・都市の非就労者を対象とした年金では、自身が保険料を拠出した個人勘定部分は全額引き継ぐことができる。加えて、受給資格としての納付期間を通算することができる。
 

2――公的年金財政の構造、財政収支状況

2――公的年金財政の構造、財政収支状況

1|財政の構造・管理
中国の年金の財政は、管轄している各地域(主には「市」単位)で、制度ごとに管理されている。よって、年金財政を確認する上では、‘制度ごと’の収支のみならず‘地域ごと’の収支も確認する必要がある。

例えば、2015年の都市職工年金(会社員、公務員など被用者)について、制度ごとに全国の収支を集計してみると、黒字であった。しかし、地域ごと(省単位)で集計すると、全国31地域のうち、およそ2割にあたる6地域は赤字であった。
 
2|制度ごとにみた財政の収支状況
2015年の財政収支について、制度ごとに全国の収支の状況を集計してみると、会社員が加入する都市職工年金、公務員年金、都市・農村住民年金の財政収支はいずれも黒字であった。

会社員が加入する都市職工年金(公務員年金を除く)の財政収支について、収入をみると、保険料収入が2兆1,093億元と全体の79.3%を占めており、運営に必要な財源の多くは保険料でまかなわれていることがわかる(図表5)。地方政府財政からの繰り入れは3,970億元(収入全体の14.9%)、年金に充てられなかった部分を運用した収益は1,019億元(収入全体の3.8%)で、収入総額は、2兆6,613億元(約49兆円)であった。
図表5 公的年金の財政収支状況(2015年)
一方、支出総額は2兆3,141億元であったことから、収入総額が支出総額を上回り、財政収支は黒字であった。ただし、2015年は保険料収入のみで、同年の給付すべてをまかなえておらず、財政からの繰り入れがなかった場合、収支は赤字に転じていた。

都市の非就労者・農村住民が加入する都市・農村住民年金の財政収支について、収入をみると、国庫・地方財政からの繰り入れが2,019億元と70.7%を占めており、運営に必要な財源の多くは、税金によってまかなわれていることがわかる。その多くが基礎年金の給付に充てられている。保険料収入は700億元で24.5%を占めるのみとなっており、最終的な収入総額は2,855億元(約5兆円)であった。

一方、支出については、基礎年金への支出に加えて、加入インセンティブを高めるため、被保険者が納付した保険料の多寡に応じて、一定額が加算されることになっており、個人口座へ193億元の支出も見られる。

最終的な支出総額は2,117億元(約4兆円)であることから、全体の財政収支状況は収入が支出を上回り、黒字となった。ただし、制度維持において政府財政への依存度が高い構造といえよう。
 
3|地域ごとにみた財政の収支状況
では、次に、2015年の財政収支について、都市職工年金の財政収支を、「省」(直轄市・自治区)単位で集計してみると、全国31地域のうち、25地域が黒字、6地域が赤字であった(図表6)。

その特徴として、都市職工年金の基本年金基金は、全国で統一して管理・運営されていないことから、地域間の所得移転機能が働かない構造となっている。加えて、これまでの一人っ子政策など人口抑制政策の影響により、日本よりも少子高齢化の進展が速くなっており、地域間の高齢化の度合いも異なることからも、各地域の基本年金基金の収入と支出のバランスが崩れやすい状況にもあるともいえよう。
図表6 地域毎の被用者年金の収支状況(2015年)
2015年の財政収支が黒字となった25地域のうち、地方政府からの財政繰入なしに、同年の保険料収入のみで給付をまかなえた地域は、広東省、江蘇省、浙江省、北京市、山東省、福建省、西蔵(チベット自治区)の7地域のみであった。特に、若年の出稼労働者を多く受け入れ、人口の流動が激しい広東省などは、広東省以外に転職をする場合、保険料を全額持ち出せないことからも、基本年金基金が積み上がりやすい構造となっている。年金受給者1名を現役の加入者何名で支えているかを示す年金扶養率について、2015年の全国平均は2.87人であるが、広東省は受給者1名を現役世代9.75人で支えており、財政における現役世代の負担は重くないといえるであろう。

一方、2015年に収支が赤字となったのは遼寧省、河北省、陜西省、吉林省、黒龍江省、青海省の6地域であった。これらの地域をみると、年金扶養率はいずれも全国平均以下となっている。そのうち、特に、東北地域に属する遼寧省、吉林省、黒龍江省については、受給者1名を順に1.78人、1.53人、1.37人で支えており、当該地域における現役世代の負担は大変重いことがわかる。
Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019年度・2020年度・2023年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員准教授(2023年度~) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【中国の年金制度について(2017)-老いる中国、老後の年金はどうなっているのか。】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

中国の年金制度について(2017)-老いる中国、老後の年金はどうなっているのか。のレポート Topへ