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欧州における金融リスクの認識-銀行・証券・保険3つの金融監督当局の合同報告書より

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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次に、話が変わって、金融システムの話となる。
「金融機関の間で、様々な取引を通じて資産価格が伝播することや、財務上のエクスポージャーがあることから、金融システムの相互接続性は、金融セクターのリスクのひとつとなる。また、銀行と保険の株価に高い連関性があり、EU内で保険会社の株式を銀行が多く保有している。これはこの2つのセクターにリスクが集中していることを示している。」
「技術革新のリスクは金融セクターにますます影響を与えている。急速な技術革新は、時間を追うごとに、金融機関の既存のビジネスモデルに、大きな影響を与えている。中核的なITシステムの老朽化を整備すべく、IT投資に取り組むコストのために、多くの金融関係会社が、収益性をさらに悪化させている。」
サイバーリスクへの対応は、どんなビジネスにも広く共通の課題であろう。この報告書でも、金融監督の実施上も、ICT関連の技術・リスクの専門知識が不足し、今後の研究や情報の蓄積が必要とされている。それに加えて、保険業界には以下のように、特別な期待がかけられている。
「サイバーリスクは相互接続された金融システムにおけるデータの整合性とビジネス継続性を脅かすものである。こうした状況の中では、比較的新しい分野であるサイバーリスクをカバーする商品として、サイバー保険の需要が増加するものと予想される。
ただし、通常の他の保険と異なり、保険料などの設定に使える過去の統計データがほとんどない。従って、現時点では、保険会社が引受リスクを抑えるために、保険契約に様々な制約条件が付くことが多い。」
これは損害保険のビジネスチャンスの拡大ということでは、前向きな話題かもしれないが、現在のところ、事故の種類・規模、発生率など保険として成り立つためのデータが、まだ不足しているようだ。そのため、支払条件が厳しかったり、保険料が高かったりということがあり、今後のデータ整備や新商品開発が期待されるところであろう。
2 ICT(Information and Communication Technology) 従来のITという語がこれに置き換えられる傾向にあり、技術そのものに加え、その活用方法まで含む言葉として、国際的にもICTが多く使われる傾向にある(らしい)が、この報告書内でもITと併用されている。
3――おわりに
低金利状況とそれが保険会社などに与える影響という面では、今みてきたように、日本国内も同様の状況にある。というか、日本のほうが欧州よりも、そういう状況になって長いといってもよいのかもしれないが、特効薬的な手立てというものはないというのが現状であろう。
金融リスクの認識にかかるこのレポートは年2回公表されているようなので、今後の状況の進展と次回以降のレポートにも注目していきたい。
(2017年05月23日「保険・年金フォーカス」)
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03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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