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Brexitを踏まえた保険会社の拠点移転等を巡る動きについて-英国のパスポート権の喪失を見据えた保険会社及び監督当局の対応-
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3―ABI(英国保険会社協会)の反応
まずは、2016年12月7日に開催されたアイルランドの保険業界団体であるInsurance IrelandのINED(Independent Non-executive Director)セミナーにおいて、ABIの事務総長であるHuw Evans氏は、以下の概要のスピーチを行っている3。
この中で、Evans氏は「英国内外のパスポートの保持」を5つの主要な要請の1つに掲げている。
2016年12月7日
ABIはBrexitに続く移行期間に「明確なコミットメント」を求める
ABIの事務総長であるHuw Evans氏は、本日、英国政府は、Brexitに続いて、「高レベルの移行実施期間に、欧州のパートナーと早期に合意することを明確に約束すべきである。」と述べた。
Evans氏は、ダブリンのInsurance IrelandのINED Seminar 2016において、この約束がなければ、Brexitの影響を最も受ける英国保険会社は、最終的なBrexitの取引が明らかになる前に、英国から離れる決定を下す可能性がある、と警告した。
Huw Evans氏は、以下のように述べた。
「Brexitに関する5つの重要な要請を支えているのは、2019年の英国のEU加盟の終わりから新しい関係が広範に確立されるまでの実施期間の必要性に対する持続的なフォーカスである。これは、両者の大きな変化をもたらす賢明な方法であるだけでなく、早期に合意すれば、Brexitの影響を最も受ける企業が2017年に英国の事業規模を縮小することに迅速な決断を下さないようにするオプションを提供する。
「政府は、EUと英国の双方に経済的なショックを与えないよう、高レベルの移行実施期間に欧州のパートナーと早期に合意することを明確に約束するよう政府に要請する。これは双方の関心事であり、弱い交渉の兆候ではなく、2019年以降の金融システムの円滑な運営を最大限にするために不可欠である。」
「このような約束がなければ、移転を検討している保険会社が、決定を前進させるかどうかについて長期的視点を取ることについてのインセンティブがほとんどなくなる。」
9月に、ABI理事会で合意され、設定された5つの主要な要請は、以下の通り
・英国市場に適した規制環境の確保
・英国内外へのパスポートの保持
・個人と非個人のデータがどのように保護されているかの複雑さの窮地を避けるためのEUのデータ保護制度の密接な反映
・EU内外の高度に熟練した専門家の雇用を可能にする改良された将来の移民政策 ・海外の金融サービス市場、特にインドと中国における規制対話と国際合意への強いフォーカス
2017年3月29日
第50条は「英国の将来の成功のために絶対的に重要な」プロセスを開始する
ABI事務総長であるHuw Evansは、英国のEU加盟プロセスを開始するための第50条の発動についてコメントした。
「これは大きな意味を持つ瞬間であり、英国の将来の成功に絶対に不可欠なプロセスの始まりを象徴している。今後2年間は簡単ではないが、英国とEU 27カ国のためにワークする取引を確保することは誰にとっても大変重要だ。ABIは、保険と長期貯蓄業界が課題を克服し、Brexitが提供する機会を掴むために懸命に働いている。これを実現するためには、過去40年間の規制上、商業上、政治上のパートナーシップを構築し、欧州の友人や隣人と仕事、貿易、旅行、協力する新しい方法を見つけ出す必要がある。」
2017年5月12日
BIBAでBrexitについて話す(抜粋)
この業界の最も大きな技術的問題は-ロンドン市場、個人向け市場、そして長期的な貯蓄の側面- は、過渡的合意を超える長期的な負債を有する既存契約をどのように処理するのか、企業がこれらの契約にどのようにサービスできるようになるのだろうか、ということである。多くの大陸の市場では、請求の支払いまたは請求の履行は、その国で事業を行う権限がある場合にのみ、法的に行うことができる。
現時点では、単一市場ではパスポートの出入りが認められているので、これは簡単に行えるため、障壁はない。しかし、離脱後も、我々のメンバーは契約上の義務を履行する立場にとどまる可能性があるが、明確な戦略や規制の枠組みがなければ、合法的にそうすることは不可能になる。例えば、取締役および役員の保険契約は、10年後に請求を見ることになる可能性があるが、メンバーがベルギーで営業を認められていない場合、ベルギーでその請求を支払うことは違法かもしれない。
私たちはこれらの顧客にサービスが提供されることが可能になるように解決策を得なければならない。それには政治的合意と規制協定が必要であり、今すぐ開始する必要がある。それは最後の瞬間まで残しておくことはできない。これは、6月8日以降にいかなる新たな政府が結成された場合でも、大声で明確に伝えていくものである。
4―Lloyd‘s of Londonの動向-ブリュッセルに新しい欧州保険会社を設立-
Lloyd's は、以前、2016年6月の英国のEUからの離脱という投票を受けて、EU内のパスポート権を確保するために、EU内のダブリン、ルクセンブルク、フランクフルト、ブリュッセル、マルタの5都市を候補地として、子会社設立の検討を進めていると述べていた。
Inga Beale氏は、ブリュッセルを選んだ理由について、「ブリュッセルは欧州の中心に位置しており、堅固な規制枠組みを提供するという重要な要素を満たしており、Lloyd'sが顧客に専門家による保険引受専門知識を提供し続けることを可能にする。」と述べた。
なお、2015年において、Lloyd's の総収入保険料のうち、EEAからの収入保険料は29億ポンドで11%を占めていた。Open Europeによれば、そのうちパスポート権に直接依存しているのは8億ポンドとなっている。
Lloyd'sのプレス・リリースの内容は、以下の通りである。
2017年3月30日
Lloyd’sは、ブリュッセルでEU保険会社を開設
専門の保険および再保険市場であるLloyd’sは、ブリュッセルに新しい欧州保険会社を設立すると発表した。Lloyd’s のCEOのInga Beale氏は、Lloyd’sは規制当局の承認を受けて、2019年1月1日の更新シーズンに向けて事業を開始する意向である、と述べた。
会社は、英国がEUを離脱した後も、Lloyd’s市場の革新的なソリューションへの継続的なアクセスを顧客やパートナーに提供しつつ、EU加盟27カ国とEEA加盟国3カ国のリスクを引き受けることができる。
Lloyd’sのInga Beale氏は、次のように述べた。
「英国がEUを離脱しても中断することなく事業を継続できる効果的なソリューションを市場と顧客に提供することが重要だ。」
「ブリュッセルは欧州の中心に位置しており、堅固な規制枠組みを提供するという重要な要素を満たしており、Lloyd’sが顧客に専門家による保険引受専門知識を提供し続けることを可能にする。」
「この重要な欧州のアクセスを効率的に提供することで、このベンチャーが市場を提供する機会には非常に興奮している。」
英国政府は第50条を発動させたが、少なくとも2年以上にわたってEUの正式加盟国であり続けているため、この間に引き受けられた既存の契約、更新、または新契約(複数年契約を含む)についての即時の影響はない。
Inga Beale氏は、以下のように述べた。
「英国政府とEUが、英国が正式にEUを離脱しても、可能な限り最良の条件の下で事業を継続することを可能にする協定を交渉することは、重要なことである。
我々が相互に有益な合意に至ることは、シティだけでなく欧州にとっても重要なことであると信じている。私たちはできる限り最善の方法で政府を支援する。」
(2017年05月22日「基礎研レポート」)
中村 亮一のレポート
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