2017年03月31日

中国経済:景気指標の総点検(2017年春季号)~回復の動きに死角は無いか?

三尾 幸吉郎

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1.最近の金融マーケット

最近の金融マーケットを概観すると、景気が持ち直す中で、株価はじり高、人民元は下げ止まり、住宅価格は緩やかに上昇、短期金利はやや上昇した。まず、株式市場に焦点を当てると、15年後半以降なんどか急落したものの、16年1月28日(上海総合で2655.66)を底にじりじり上昇してきた(図表-1)。景気が持ち直したことや、信用買い残の整理が進み、年金基金の株式投資が始まったことで需給が改善したこと等が背景にある。但し、急落時に買い支えた政府系ファンドは上昇すれば売却するため上値も限定的だった。為替市場に目を転じると、15年8月には人民元の米ドルに対する基準値が3日間で約4.5%下落(市場実勢の下落は約3%)、その後も下値を探る動きが続いたが、17年に入ると下げ止まってきた(図表-2)。米国では15年12月以降3度にわたり利上げを実施、今後も段階的な利上げが予想される中で、中国の通貨(人民元)が米ドルに対し下落しやすい環境を生み出し、米ドルへの資金還流(中国からの資金流出)を招いた。しかし、トランプ政権が議会対策でつまずく中で、過度な期待が薄れて米ドル高は修正局面を迎えている。また、住宅市場では16年7月に前回高値を上回り最高値更新を続けている(図表-3)。特に深センや上海などでは高騰したため、中国政府は住宅バブルの退治に乗り出した。そして、短期金利は緩やかに上昇した。中国人民銀行は15年10月に基準金利(預金・貸出)を引き下げて以降、その後は据え置いているが、リバースレポ(7日物)や常設流動性ファシリティなどを2度にわたって引き上げた。景気が持ち直した中で、海外への資金流出や住宅バブルの抑止を意図した措置と見られる(図表-4)。
(図表-1)上海総合の推移/(図表-2)人民元レート(対米ドル、スポットオファー)/(図表-3)新築分譲住宅価格(除く保障性住宅、70都市平均)/(図表-4)金融市場の動き

2.景気10指標の点検

2.景気10指標の点検

1|供給面の3指標
(図表-5)工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移 【工業生産】
景気指標の中でGDPへの影響が最も大きいのが工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)である。ここもとの経済のサービス化で影響度が落ちたとはいえ、依然その有効性は高い。17年1-2月期の工業生産は前年同期比6.3%増と16年10-12月期の同6.0%増(推定1)を0.3ポイント上回った。3月の動きは未反映とはいえ、17年1-3月期の成長率は16年10-12月期を上回る可能性が高いことを示唆している(図表-5)。
(図表-6)製造業PMI 【製造業PMI】
製造業の動向を示す代表指標が製造業PMI(購買担当者景気指数、中国国家統計局)である。これは製造業3000社の購買担当者へのアンケート調査を元に計算されるもので、通常は50%が拡張・収縮の分岐点とされる。ここもと17年1月は51.3%、2月は51.6%と、16年10-12月期の平均(51.4%)とほぼ同水準で推移、将来3ヵ月に対する見通しを示す予想指数も好調だったことから3月も高水準を維持する可能性が高いと見られる(図表-6)。
(図表-7)非製造業PMI 【非製造業PMI】
一方、非製造業の動向を示す代表指標が非製造業PMI(商務活動指数、中国国家統計局)である。中国では製造業からサービス業への構造転換が進行中なため重要性が増している。製造業PMIと同様に50%が拡張・収縮の分岐点とされる。ここもと17年1月は54.6%、2月は54.2%と、16年10-12月期の平均(54.4%)とほぼ同水準で推移している。予想指数が60%を挟んでやや不安定なことが気になるものの、依然として高水準なため大きく落ち込む恐れはないだろう(図表-7)。
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、ニッセイ基礎研究所で中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
2需要面の3指標
(図表-8)業種別に見た小売売上高(限額以上企業)の動き 【小売売上高】
個人消費の動きを示す代表指標が小売売上高である。17年1-2月期の小売売上高は前年同期比9.5%増と16年通期の同10.4%増を0.9ポイント下回った。内訳を見ると、飲食や化粧品は16年通期の伸びを上回っているものの、家電や日用品は下回っており、特に自動車は小型車減税の縮小を受けて16年通期の同10.1%増から17年1-2月期は同1.0%減へ落ち込んだ(図表-8)。また、前四半期と比べると、名目では0.9ポイント低下、価格要因を除いた実質でも0.9ポイント低下しており、個人消費は17年1-3月期の成長率を押し下げる要因となる可能性が高いと見られる。
(図表-9)固定資産投資(農家の投資を除く) 【固定資産投資】
一方、投資の動きを示す代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)は、17年1-2月期に前年同期比8.9%増と16年通期の同8.1%増を0.8ポイント上回った。内訳を見ると、製造業の伸びは4%台前半で横ばいに留まったものの、不動産開発投資が16年通期の同6.9%増から17年1-2月期には同8.9%増へと2.0ポイント上昇、インフラ投資が同17.4%増から同27.3%増へと大幅に伸びを高めた(図表-9)。また、前四半期と比べると、16年10-12月期の同7.8%増(推定)から1.1ポイント上昇しており、投資は17年1-3月期の成長率を押し上げる要因となる可能性が高いと見られる。
(図表-10)輸出の先行指標 【輸出】
世界の工場といわれる中国では輸出が生産を左右する。17年1-2月期の輸出額(ドルベース)は前年同期比4.0%増と16年通期の同7.7%減から回復、輸出の先行指標も引き続き上昇傾向にある(図表-10)。輸出相手先別の内訳を見ると、米国向けが同4.4%増、欧州(EU)向けが同1.9%増、日本向けが同2.4%増、ASEAN向けが同7.5%増と軒並み増加している。但し、原油高などを受けて輸入が輸出以上に急増していることから、ネットした貿易黒字は前年同期の約半分に減少している。純輸出は17年1-2月期の成長率を押し下げる要因となる可能性が高いと見られる。
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