2017年02月06日

EIOPAによる2016年度保険ストレステストの結果について(4)-EIOPAの報告書の概要報告-

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3―監督当局への勧告

今回のストレステストの結果を踏まえて、「2016 EIOPA保険ストレステスト報告書」の「第4章結論と次のステップ」に記載されているように、EIOPAは「2016 EIOPA保険ストレステスト 勧告」3を公表している。この章では、この勧告の内容について報告する。

1|勧告の概要
「今回の報告書の127項」で述べられているように、監督当局への勧告については、以下の3つの主要分野をカバーしている。

・リスク管理とビジネスモデルの持続可能性
・解約と最良推計のモデリング
・グループソルベンシーとグループサポートへの影響

ストレステストで明らかになった脆弱性は監督上の対応に値するとして、協調的な監督措置を確保するために、EIOPAは、NSAsに勧告を出している。これらの勧告に含まれているNSAsの行動には、必要に応じて、以下のものが挙げられている。

(1) 企業が内部リスク管理プロセスを直面している外部リスクと整合させることを確実にすること

(2) 経営陣及び保険契約者の行動に関する企業のモデルをレビュー及び評価すること

(3) 技術的準備金の評価が比例的で慎重であると考えることができるかどうかを評価するために、保持する保証条項、それらの類型及びオプションをレビューすること

(4) 最高保証又は提供されている持続不可能な利益配当の引き下げを要求すること

(5) ビジネスモデルの実行可能性が危険にさらされている場合に、配当の分配の中止又は延期を要求すること

(6) 単体レベルで特定された脆弱性が適切に認識され、グループレベルで処理されるようにすること

EIOPAは、調整役として、これらの勧告のフォローアップにおいて、NSAsと会社を支援する、としている。

2|勧告の詳細
1|で掲げた推奨される行動のより具体的な内容としては、以下の通りとなっている。

(1)の「企業が内部リスク管理プロセスを直面する外部リスクと整合させることを確実にする」ためには、短期的な措置として、以下のa)~c)に定める行動を取る。これには、(4)及び(5)が含まれる。

a.低金利シナリオが長期化するリスクと、ORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)の一環として、フォワード・ルッキングな分析において、リスク・プレミアムが突然増加するリスクを評価する

b.通常の監督プロセスにおいて、企業が、現在の低利回り環境によって誘発されて、リスク選好を改訂しているのか、又はリスク保有能力を超えたポートフォリオ配分を追求しているのか否かを評価する。

c.長期低利回りシナリオに対してより脆弱なビジネスモデルの実行可能性を評価する。この評価のプロセスでは、以下の措置を考慮する必要がある。
 •新契約において提供されている最高保証又は持続不可能な利益配当の削減を要求する。
 •配当の分配の中止又は延期を要求する。

(2)及び(3)に関連しては、比例原則に従い、ソルベンシーと金融安定性目標と保険契約者保護との間の適切なバランスを確保するための中期的な措置として、以下のa)及びb)の行動を取る。

a.権利能力とモデル化された意思決定を受け入れる意思を含む、経営者と保険契約者の行動に関する企業のモデルを見直し、評価する。技術的準備金の最良推計の値に重大な影響を及ぼす可能性のある動的モデルに特に注意を払うべきである。

b.会社が抱える保証の価値、関連するリスク及び技術的準備金の評価が比例的で保守的であると考えることができるかどうかを評価するために、保証条項、その類型及び抱えるオプションが分析されるべきである。

(6)については、短期的な措置として、以下のa)及びb)に定められた行動を取る。

a.単体レベルでの脆弱性(負債超過資産の喪失)に基づいて、グループに対するストレステストの影響の重要性を評価する。この文脈では、グループが関連する取り組みを支援するために取ることができる措置が評価されるべきである。

b.監督カレッジの活動の一環として、経営行動と分散化効果を考慮して、グループレベルでの影響と潜在的な支援に関する情報を収集する。グループ監督当局は、この評価の範囲を決定する際に比例原則を適用することが推奨される。

なお、この3つ目の勧告に関連して、グループ監督に対して責任のあるNSAsは、ストレステスト参加会社の結果がグループレベルで有する影響と、取られる可能性のある行動について、2017年10月31日までにEIOPAに通知するよう要求される、ことになる。

2016 EIOPA 保険ストレステスト 勧告

1|EIOPA規則第21条(2)(b)に基づく勧告
この勧告は、EU及びEEAのNSAsに向けられている。この勧告は、「2016 EIOPA保険ストレステスト報告書」の第3章に概説されているストレステストの結果に関連している。

EIOPAは、勧告のフォローアップにおいて、調整の役割を果たす。

2|勧告1
ストレスシナリオは、サンプルの重大な脆弱性を示している。ダブルヒットの結果、総資産は約6,160億ユーロ減少し、負債は4,500億ユーロ減少した。その結果、このシナリオは、EU / EEAレベルで企業の貸借対照表に約1,600億ユーロにのぼる悪影響を及ぼしている。長期低利回りシナリオの場合、負債の増加から生じる4,800億ユーロの負の影響は、資産サイドのキャピタルゲインよりも大きく、その結果、負債超過資産は約1,000億ユーロ減少する。

2016年保険ストレステスト報告書の附属書に詳細に記載されているように、ダブルヒットはもっともらしいが極端なシナリオであり、このプリズムの下で結論が引き出されるべきである。それにもかかわらず、結果はサンプル全体に均等に分散されておらず、企業をそのような出来事に対してより脆弱にする多くの条件及びポートフォリオ構造があるようである。

長期低利回りシナリオでは、異なるタイプの結果解釈とフォローアップ監督行動が必要となる。影響は、ダブルヒットシナリオよりも小さいものの、EUレベルでは依然として重要なままである。さらに、金利の先行きについての議論は、金利上昇シナリオよりも、長期低利回りシナリオの方が、会社にとってより関係して最も挑戦的であることを示しているようである。この文脈では、特に非常に長い満期まで、金利が長期間低いままであるシナリオの実現を排除することはできない。

NSAs(国家監督当局)は、企業が内部リスク管理プロセスを直面する外部リスクと整合させることを確実にするために、短期的な措置として、以下のa)~c)に定める行動を取ることが推奨される。

a.企業に対して、関連する場合、低金利シナリオが長期化するリスクと、ORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)の一環として、フォワード・ルッキングな分析において、リスク・プレミアムが突然増加するリスクを評価することを促す。

b.通常の監督プロセスにおいて、企業が、現在の低利回り環境によって誘発されて、リスク選好を改訂しているのか、又はリスク保有能力を超えたポートフォリオ配分を追求しているのか否かを評価する。

c.長期低利回りシナリオに対してより脆弱なビジネスモデルの実行可能性を評価する。この評価は、このシナリオの影響が、シナリオの遅い燃焼特性のために、関与するリスクを無視することなく、多分10年を超える年数にわたって広がっていることを考慮して、リスク評価フレームワーク内で行われる可能性がある。このプロセスでは、以下の措置を考慮する必要がある。
 • 新契約において提供されている最高保証又は持続不可能な利益配当の削減を要求する。
 • 配当の分配の中止又は延期を要求する。

3|勧告2
国別または商品タイプレベルでの異なる貸借対照表の特性をよりよく反映するために、2016年保険ストレステスト報告書は、報告されたキャッシュフローに基づいて、長期にわたるシナリオにおける負債の分析を詳述している。 マこーレー・デュレーションに基づく負債の平均満期に関する結果は、2014年のストレステストの結果と一致している。金利の変化に対する負債の感応度を分析するために、保険契約に組み込まれたオプションを考慮しようとして、2016年のテストでは実効デュレーションの近似法が初めてテストされた。技術的準備金の評価において考慮されるかなりの数の前提は、保険商品に埋め込まれたまたは経営戦略に起因する様々なオプションを考慮する必要がある。これらの前提は、保険会社及び国全体の有効性及び結果の一貫性を保証するために、監督上の評価が必要とされる。

2016年保険ストレステスト報告書に表示された結果は、最良推定に影響を与える可能性のある分散化ツールの重要性を示している。 プロジェクション手法は、特に、マイナス金利、経済シナリオジェネレータの信頼性、または全てのシミュレーションに使用される将来の経営行動の信頼性をモデル化する能力について、最良推定の値に重要な影響を及ぼす。

NSAsは、比例原則に従い、ソルベンシーと金融安定性目標と保険契約者保護との間の適切なバランスを確保するための中期的な措置として、以下のa)及びb)の行動を取ることが推奨される。

a.権利能力とモデル化された意思決定を受け入れる意思を含む、経営者と保険契約者の行動に関する企業のモデルを見直し、評価する。技術的準備金の最良推計の値に重大な影響を及ぼす可能性のある動的モデルに特に注意を払うべきである。

b.会社が抱える保証の価値、関連するリスク及び技術的準備金の評価が比例的で保守的であると考えることができるかどうかを評価するために、保証条項、その類型及び抱えるオプションが分析されるべきである。

4|勧告3
2016年保険ストレステストは脆弱性分析として設計されており、ショック後の業界の資本要件を評価しようとしていない。ソルベンシーIIの適用初年度では、範囲は単独事業に限定され、ストレス後のソルベンシー資本要件又は最低資本要件の再計算は必要なかった。

不利なシナリオがどのようにセクターに影響するのかについての指標を提供するために、負債超過資産の影響が評価される。ダブルヒットシナリオでは、サンプルの40%以上を構成する104社が、負債超過資産額の3分の1以上を失うことになる。長期低利回りシナリオでは、サンプルの16%にあたる38の会社が、負債超過資産額の3分の1以上を失うことになる。これらの数字は、グループレベルでも注目すべき脅威である可能性がある。ストレステストは単体レベルに対してのものであるが、グループの潜在的な影響は見過ごされるべきではない。

NSAsは、短期的な措置として、以下のa)及びb)に定められた行動を取ることが推奨される。

a.単体レベルでの脆弱性(負債超過資産の喪失)に基づいて、グループに対するストレステストの影響の重要性を評価する。この文脈では、グループが関連する取り組みを支援するために取ることができる措置が評価されるべきである。

b.監督カレッジの活動の一環として、経営行動と分散化効果を考慮して、グループレベルでの影響と潜在的な支援に関する情報を収集する。グループ監督当局は、この評価の範囲を決定する際に比例原則を適用することが推奨される。

5|規制法第35条に基づく情報請求
勧告3と関連して、グループ監督に対して責任のあるNSAsは、ストレステスト参加会社の結果がグループレベルで有する影響と、取られる可能性のある行動について、2017年10月31日までにEIOPAに通知するよう要求される。

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中村 亮一

研究・専門分野

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