2017年01月24日

EIOPAによる2016年度保険ストレステストの結果について(1)-EIOPAの報告書の概要報告-

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3―ストレステストのフレームワーク

この章では、報告書の第1章の「2016保険ストレステストのフレームワーク」について報告する。

1|全体の状況
EIOPAは、その規制第21条に従って、ESRBと協力して、不利な市場の進展に対する保険会社の耐性力を評価するために、この欧州全体でのストレステストに着手し、調整した。

結論を導くべき国境を越えた比較可能な結果の関連性を意識して、一貫した方法がこのテストの全ての参加者に適用されることを確実にすることに、特別の焦点が置かれた。

市場の状況に基づいて、テストの集中的な性格ゆえに、EIOPAはこの2016年版において、市場リスクに対する保険業界の耐性力の調査を優先した。 

EIOPAは、2013年に「長期継続する低金利に対する監督上の対応についての意見」を発行したが、金利は低水準にとどまるだけでなく、意見が発行されてからさらに低下しているため、この意見は引き続き高い関連性を有したものとなっている。

以前のストレステストの結果は、EIOPAが低利回り環境下でNSAs(National Supervisory Authorities:国家監督当局)に対して発行する一般勧告の基礎となった。

2|リスクの概要と優先度
ソルベンシーIIを適用した2016年は、欧州の保険及び再保険会社に対する規制の画期的な出来事があった年だった。

テストの基準日のマクロ経済環境は、欧州の保険業界に深刻な問題を提起している。

テストされたシナリオは、極端ではあるが、具体的な説明を背景にして考えられる状況下で、将来的な視点で脆弱性を評価することを目的としている。

長期負債に基づく生命保険会社は、低金利環境に対してより脆弱であるとみなされる。

3|マクロ経済状況の説明
(1)テストの参照日における状況
欧州の経済成長は、ストレステストの計算基準日(参照日:2016年1月1日)で徐々に改善しているものの、大規模な公的債務を特徴とする経済は、弱く不均質に見え、危機以前の時期から回復するのに苦労している。

十分な資金供給が金利の引き下げに貢献し、「利回りの追求」行動を促し、評価リスクを高めている。

市場における超過流動性は、ソブリン債及び投資適格社債の利回り低下につながるが、これは信用リスクのファンダメンタルズが示唆しているものと一致しない可能性がある。

(2)分析時点(2016年11月)における状況
欧州の経済成長は、依然として脆弱で、多くの場合、GDP(国民総生産)は危機以前の水準を下回っており、明らかな市場の分断が持続している。

ECB(欧州中央銀行)の非伝統的な市場刺激の継続にもかかわらず、インフレ期待は基準日に比べて変化せず、イールドカーブはさらに下降した。

国債と社債の利回りは、保険会社がポートフォリオをよりリスクの高い市場又はよりリスクのある資産に再配分するインセンティブを与え、厳しい市場の発展に対する保険業界の脆弱性を増加させることで、さらに低下した。

4|手法のアプローチ
(1)テストされたシナリオ
テストでは、長期低利回りシナリオとダブルヒットシナリオの2つのストレスシナリオがテストされた。これらの2つのストレスシナリオの考え方については、「22|ストレスシナリオ」で述べた通りである。

両方のストレスシナリオにおいて、瞬間的なショックアプローチが、規制上の貸借対照表及び資産と負債の構成及びキャッシュフロー予測などの関連報告数値に適用される。また、ストレスは、2016年1月1日に参加会社が実質的に保有する資産及び負債のポートフォリオに適用される。

今回のテストは、複数期間のストレステストではなく、したがって、保険者の貸借対照表の将来のロールオーバーを含まない。

ソルベンシーIIは、将来法の市場整合的基準で資産と負債の両方を評価するため、現在の資産と負債のポートフォリオからの全ての将来利益は、貸借対照表にストレスを与える際に考慮される。

ストレス後の資本要件(SCRまたはMCR)の再計算は行わない。

所定のシナリオに続く潜在的な2次的効果の完全な定量分析は行われなかった。2次的効果の一部を捕捉するために、定性的アンケートが設定された。

(2)規制上のフレームワーク(ソルベンシーIIに基づく算出)
ストレステスト前後の貸借対照表の評価は、ソルベンシーIIに基づいている。

2016年1月1日のストレス前の状況を正確に反映するため、参加会社は、1日目の報告(day-one-reporting)に照らして、監督者が明示的に承認したソルベンシーIIの措置及び特徴を使用する義務があった。

ストレスの有意義な分析を可能にするために、会社はLTG(Long-term Guarantee:長期保証)及び移行措置の影響に関する追加情報を提供しなければならなかった。

ボラティリティ調整(VA)及びマッチング調整(MA)は、一般的なソルベンシーIIルールに沿って含まれ、規定されたストレスシナリオに沿って動くことが想定されていた。

リスクフリー金利と技術的準備金の両方の移行措置から得られる調整は、ストレスシナリオ前で計算され、ストレスシナリオ後で一定に保たれなければならなかった。

負債キャッシュフロー予測の導出に使用された前提については、ソルベンシーIIのフレームワークも課せられた。

(3)他の手法の側面
貸借対照表の設定はソルベンシーIIのルールと仕様を使用していたが、規制目的のために、規定されたショック後の最終的な損失を計算することを目的とはしていない。 特定のシナリオが実現する場合の保険会社の貸借対照表における影響がどのようなものかについての理解を高めることを目的としている。それゆえ、開発されたストレスの方法論がソルベンシーIIのSCR標準式の計算と少なくとも以下の点で異なっていることを説明することは価値がある。

i. ストレスシナリオでは、株式、不動産、スプレッド、金利などのいくつかの要素が含まれるたびに、それらは同時に衝撃を受け、相関行列の使用は必要なかった。

ii. 全ての資産はストレス後に再評価された。例えば、標準式の範囲において、ソルベンシーIIの規則に従って、リスク緩和手法として適格ではない特定のデリバティブは、ショック・シナリオ後に価値が上昇することを認められていない。

iii. ストレステストのシナリオショックは、しばしば標準式のSCR仕様と比較して異なる方法で定義された。

最後に、EIOPAのストレステスト仕様書に明示的に開示されている前提条件と要件とは別に、EIOPAが、参加会社にさらなるガイダンスを提供するために、公式の質疑応答プロセスを設定していることを理解することが重要である。
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中村 亮一

研究・専門分野

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