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- ポイントプログラムとは何か~一層の消費者保護と健全な発展に向けて
2016年12月13日
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3――ポイントプログラムについての主務官庁などによるこれまでの検討経緯
1| 企業ポイント研究会による検討(2007年2月~6月)
ポイントプログラムを提供する業界のうち、小売、クレジットなどを主管する経済産業省においては、事業者の消費者向けビジネスでポイントプログラムが拡大するとともに、発行企業との間のみで使用できる従来の方式から、発行企業とは異なる企業との間でも使用できる方式に移行しつつある状況から、企業ポイント研究会(2007年2月23日~6月21日、全9回)を開催し、検討を行った。
同研究会は、商務流通審議官の私的研究会として、ポイントを提供する企業をメンバーの主体として構成され、検討方針について、委員から「本研究会の前提として、企業ポイントの利用規制ではなく、より経済活性化を促すために、企業ポイントの利用促進のため、どのような基盤整備をすべきかという発展の方向で議論をしていきたいと考えている」9との発言がされている。
こうした背景から、同研究会では、おもにポイントプログラムの企業から見た今後の利用促進や体制整備に向け、「企業ポイントのさらなる発展と活用に向けて」(2007年7月)を取りまとめた。
同報告書では、消費者保護の観点から配慮すべき事項として、ポイントプログラムでの個人情報保護に加え、消費者が正確かつ十分な理解を得られるよう、情報開示や告知を行うべきであるとした。
具体的には、ポイント交換の際には、交換の諸条件および交換レート(交換による価値の変動の有無)を明示することや、 交換ができなくなる場合など、消費者の不利益となる場合についても適切な事前開示を行うことを求めた。
また、ポイントの内容や利用条件などの重要事項を変更する際には、事前告知を行うことや、盗難、紛失、不正利用に際しては、被害の拡大防止に努めるとともに、消費者の期待が大きい場合であって届け出た消費者の本人性および蓄積ポイント数などの情報につき確認が取れた場合などは、消費者の救済を図ることなどが求められた。
ただ、こうした方策については、「各社の事業やポイント制度の内容に応じて、可能な範囲で配慮することが望ましい」と、努力義務とされている。
合わせて、ポイントの会計処理については、
「多くの企業ポイント発行企業においては、ある時点の発行残高に、想定される使用率を乗じた金額を流動負債(想定される企業ポイントの利用時期が1年以上先である場合には、固定負債)として引当てている」
として、
「今後ポイント制度を導入する企業においても、同様に会計処理が行われ、発行した企業ポイントが企業経営において適切に認識されることが重要と考えられる」
とポイント残高に応じた合理的な負債引き当てを提言している10。
2| 企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会による検討(2008年9月~12月)
ポイントプログラムの内容についての条件変更や、企業の倒産・合併に伴うポイントの消失などに対する、消費者からの苦情多発を背景に、同じく経済産業省において企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会(2008年9月19日~12月19日、全5回)が開催された。
同研究会も、先行の企業ポイント研究会と同様、商務流通審議官の私的研究会と位置づけられたが、消費者保護に向け、企業側ではなく、学識経験者6名と消費者代表2名の計8名を委員として構成された(オブザーバーとしてイオン、JAL、ヤフー、ヨドバシカメラの4社が参加)11。
第1回研究会においては、ポイントに対する消費者側の認識と企業側の認識の双方が示されている。
消費者側の認識として示されたのは、消費者1,000名へのインターネットアンケートの結果であり、ポイントを貯めている対象としては、家電量販店(68.3%)、アマゾン、ヤフー、楽天などECサイト事業者(64.8%)、クレジットカード会社(60.0%)、携帯電話会社(59.6%)などが挙げられている。
ポイントの位置づけとしては、商品・サービスに必ず利用できる権利のあるもので、その価値は保護されるべきであるとする消費者が半数を超えている12。
ただ、ポイント制度への加入時に規約・約款を読んでいない者が69.0%に達している。
また、ポイントの利用条件の変更は、ポイントの種類によっては半数を超える消費者が認めており13、ポイントの性質に関わらず、70%程度の消費者は、条件によるが、変更は仕方がないと考えている一方で、有効期限の短縮やポイントの付与レート改悪に対しては半数を超える消費者が変更は許されないと考えており、消費者の抵抗は強い。
不利益な変更が行われる場合、いつまでに通知されるべきかについては、半数の消費者が1か月以上半年未満前が望ましいと答える一方で、半年以上前が相応しいとする消費者も30%程度存在する。
ポイントについて被った被害についての自由回答(全189件)では、倒産・閉店・統合によるポイントの失効が57件、有効期限の短さ・期限通知の不備によるポイントの失効が56件、ポイント付与・利用条件の改悪22件などが示されている14。
一方、企業側の認識としては、大半の企業が、ポイントの法的関係について利用者との合意があるものと考えているが、ポイントの権利性を認めている企業は限られている(特典・おまけの提供と認識する企業が多い)。
さらに、ポイントに関する契約内容の変更は、全ての企業がポイントが実際に利用される前ならば企業側の都合で可能とする一方、重大な変更についてはほとんどの事業者が事前告知を行っている。また、約款においても、ポイントの権利性を明記している事業者はなく(逆に、確定した権利ではない旨明記している事業者も一部あり)、ポイントの保護・補償に関する規定をおいているのはごく一部の事業者に限られる15。
こうした消費者側の認識と事業者側の認識のギャップについては、委員から、
『ポイント付与を見せ玉に勧誘しているため、消費者は「オマケ」というより購入の前提のような意識になる。故に期待とのギャップは発生し易い』16
との意見が示されており、筆者も同感である。
9 「企業ポイント研究会(第4回)議事要旨」(2007年4月12日)、経済産業省ホームページ。
10 企業ポイント研究会「企業ポイントのさらなる発展と活用に向けて」(2007年7月2日)、国立国会図書館デジタルコレクション、国立国会図書館ホームページ。
11 「企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会委員名簿」『企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会(第1回)』(2008年9月19日)、経済産業省ホームページ。
12 航空会社のマイレージについては56.8%、家電量販店のポイントなど1ポイント1円単位で1ポイントから利用可能なものについては59.0%、クレジット会社のポイントなど、一定数以上のポイントを貯めて商品やサービスに交換するものについては57.9%(利用したことがないので分らないとした消費者を除いた数値)。
13 ポイントに関する考え方として、「A.ポイント発行企業は、そのポイントが確実に理由できるようにする義務を負っている」と、「B.発行企業がおかれた状況次第では、ポイントの利用条件の変更や制度そのものの廃止もやむをえない」という2つの考え方を示し、「A.のようなポイントもあれば、B.のようなポイントもある」とした者が54.5%、「すべてのポイントは、例外なくA.のようなポイントである」とした者が36.6%「すべてのポイントは、例外なくB.のようなポイントである」とした者が8.9%。
14 「参考資料2 ポイントに関するアンケート(分析結果)」『企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会(第1回)』(2008年9月19日)(経済産業省ホームページ)。
15 「参考資料3 主要事業者の現状認識(各社へのヒアリングより)」『企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会(第1回)』(2008年9月19日)、経済産業省ホームページ。
16 「企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会(第1回)議事要旨」(2008年9月19日)、経済産業省ホームページ。
ポイントプログラムを提供する業界のうち、小売、クレジットなどを主管する経済産業省においては、事業者の消費者向けビジネスでポイントプログラムが拡大するとともに、発行企業との間のみで使用できる従来の方式から、発行企業とは異なる企業との間でも使用できる方式に移行しつつある状況から、企業ポイント研究会(2007年2月23日~6月21日、全9回)を開催し、検討を行った。
同研究会は、商務流通審議官の私的研究会として、ポイントを提供する企業をメンバーの主体として構成され、検討方針について、委員から「本研究会の前提として、企業ポイントの利用規制ではなく、より経済活性化を促すために、企業ポイントの利用促進のため、どのような基盤整備をすべきかという発展の方向で議論をしていきたいと考えている」9との発言がされている。
こうした背景から、同研究会では、おもにポイントプログラムの企業から見た今後の利用促進や体制整備に向け、「企業ポイントのさらなる発展と活用に向けて」(2007年7月)を取りまとめた。
同報告書では、消費者保護の観点から配慮すべき事項として、ポイントプログラムでの個人情報保護に加え、消費者が正確かつ十分な理解を得られるよう、情報開示や告知を行うべきであるとした。
具体的には、ポイント交換の際には、交換の諸条件および交換レート(交換による価値の変動の有無)を明示することや、 交換ができなくなる場合など、消費者の不利益となる場合についても適切な事前開示を行うことを求めた。
また、ポイントの内容や利用条件などの重要事項を変更する際には、事前告知を行うことや、盗難、紛失、不正利用に際しては、被害の拡大防止に努めるとともに、消費者の期待が大きい場合であって届け出た消費者の本人性および蓄積ポイント数などの情報につき確認が取れた場合などは、消費者の救済を図ることなどが求められた。
ただ、こうした方策については、「各社の事業やポイント制度の内容に応じて、可能な範囲で配慮することが望ましい」と、努力義務とされている。
合わせて、ポイントの会計処理については、
「多くの企業ポイント発行企業においては、ある時点の発行残高に、想定される使用率を乗じた金額を流動負債(想定される企業ポイントの利用時期が1年以上先である場合には、固定負債)として引当てている」
として、
「今後ポイント制度を導入する企業においても、同様に会計処理が行われ、発行した企業ポイントが企業経営において適切に認識されることが重要と考えられる」
とポイント残高に応じた合理的な負債引き当てを提言している10。
2| 企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会による検討(2008年9月~12月)
ポイントプログラムの内容についての条件変更や、企業の倒産・合併に伴うポイントの消失などに対する、消費者からの苦情多発を背景に、同じく経済産業省において企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会(2008年9月19日~12月19日、全5回)が開催された。
同研究会も、先行の企業ポイント研究会と同様、商務流通審議官の私的研究会と位置づけられたが、消費者保護に向け、企業側ではなく、学識経験者6名と消費者代表2名の計8名を委員として構成された(オブザーバーとしてイオン、JAL、ヤフー、ヨドバシカメラの4社が参加)11。
第1回研究会においては、ポイントに対する消費者側の認識と企業側の認識の双方が示されている。
消費者側の認識として示されたのは、消費者1,000名へのインターネットアンケートの結果であり、ポイントを貯めている対象としては、家電量販店(68.3%)、アマゾン、ヤフー、楽天などECサイト事業者(64.8%)、クレジットカード会社(60.0%)、携帯電話会社(59.6%)などが挙げられている。
ポイントの位置づけとしては、商品・サービスに必ず利用できる権利のあるもので、その価値は保護されるべきであるとする消費者が半数を超えている12。
ただ、ポイント制度への加入時に規約・約款を読んでいない者が69.0%に達している。
また、ポイントの利用条件の変更は、ポイントの種類によっては半数を超える消費者が認めており13、ポイントの性質に関わらず、70%程度の消費者は、条件によるが、変更は仕方がないと考えている一方で、有効期限の短縮やポイントの付与レート改悪に対しては半数を超える消費者が変更は許されないと考えており、消費者の抵抗は強い。
不利益な変更が行われる場合、いつまでに通知されるべきかについては、半数の消費者が1か月以上半年未満前が望ましいと答える一方で、半年以上前が相応しいとする消費者も30%程度存在する。
ポイントについて被った被害についての自由回答(全189件)では、倒産・閉店・統合によるポイントの失効が57件、有効期限の短さ・期限通知の不備によるポイントの失効が56件、ポイント付与・利用条件の改悪22件などが示されている14。
一方、企業側の認識としては、大半の企業が、ポイントの法的関係について利用者との合意があるものと考えているが、ポイントの権利性を認めている企業は限られている(特典・おまけの提供と認識する企業が多い)。
さらに、ポイントに関する契約内容の変更は、全ての企業がポイントが実際に利用される前ならば企業側の都合で可能とする一方、重大な変更についてはほとんどの事業者が事前告知を行っている。また、約款においても、ポイントの権利性を明記している事業者はなく(逆に、確定した権利ではない旨明記している事業者も一部あり)、ポイントの保護・補償に関する規定をおいているのはごく一部の事業者に限られる15。
こうした消費者側の認識と事業者側の認識のギャップについては、委員から、
『ポイント付与を見せ玉に勧誘しているため、消費者は「オマケ」というより購入の前提のような意識になる。故に期待とのギャップは発生し易い』16
との意見が示されており、筆者も同感である。
9 「企業ポイント研究会(第4回)議事要旨」(2007年4月12日)、経済産業省ホームページ。
10 企業ポイント研究会「企業ポイントのさらなる発展と活用に向けて」(2007年7月2日)、国立国会図書館デジタルコレクション、国立国会図書館ホームページ。
11 「企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会委員名簿」『企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会(第1回)』(2008年9月19日)、経済産業省ホームページ。
12 航空会社のマイレージについては56.8%、家電量販店のポイントなど1ポイント1円単位で1ポイントから利用可能なものについては59.0%、クレジット会社のポイントなど、一定数以上のポイントを貯めて商品やサービスに交換するものについては57.9%(利用したことがないので分らないとした消費者を除いた数値)。
13 ポイントに関する考え方として、「A.ポイント発行企業は、そのポイントが確実に理由できるようにする義務を負っている」と、「B.発行企業がおかれた状況次第では、ポイントの利用条件の変更や制度そのものの廃止もやむをえない」という2つの考え方を示し、「A.のようなポイントもあれば、B.のようなポイントもある」とした者が54.5%、「すべてのポイントは、例外なくA.のようなポイントである」とした者が36.6%「すべてのポイントは、例外なくB.のようなポイントである」とした者が8.9%。
14 「参考資料2 ポイントに関するアンケート(分析結果)」『企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会(第1回)』(2008年9月19日)(経済産業省ホームページ)。
15 「参考資料3 主要事業者の現状認識(各社へのヒアリングより)」『企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会(第1回)』(2008年9月19日)、経済産業省ホームページ。
16 「企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会(第1回)議事要旨」(2008年9月19日)、経済産業省ホームページ。
(2016年12月13日「基礎研レポート」)
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