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- ポイントプログラムとは何か~一層の消費者保護と健全な発展に向けて
2016年12月13日
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1――はじめに
新規顧客を誘引したり、既存顧客を囲い込む手段として、購入履歴などにもとづき、割引サービスなど、対価性を持ち合わせたポイントプログラムを実施する事業者が増えてきている。
小売、クレジット、航空、通信など、さまざまな業種がポイントサービスを提供しており、中には「ポイントサービスが有利であるからこの事業者を選択した」とする消費者も少なくない。
実は、筆者もその1人であり、「当カードに加入すると商品・サービスと交換できる○○○ポイント進呈、その上年間手数料も無料」といった誘引により、別のカードを解約して、あるカードに加入した経験がある。
こうしたポイントプログラムは、本体である商品・サービスに付随する、対価性を有しない、単純な「おまけ」として一切保護されないのであろうか。
「おまけ」と考えれば、たとえば突然ポイントプログラムが廃止された場合や、ポイントカードを紛失した場合などでも、消費者に対する保護は弱くなりがちとなる。
しかしながら、ポイントプログロムは、本体である商品・サービス加入の際、重要な加入動機となっているケースも多く、消費者の期待も大きいことから、消費者保護のための方策が必要である。
商品・サービスと交換できる点でポイントプログラムと類似している商品券、ギフト券、プリペイドカードなどは、資金決済法上の「前払式支払手段」とされ、消費者保護のため、事業者に対し、発行額の2分の1以上の保証金供託義務などが課されているが、ポイントプログラムについては対価性がなく、無償で発行されているとして、こうした義務は課されていない。
主要企業のポイント発行額は2014年で8495億円で、2022年には約1兆1千億円に達するとの予測もある中、社会的に定着したポイントプログラムの現状やこれまでの検討経緯、課題と対応方向などを分析したい。
小売、クレジット、航空、通信など、さまざまな業種がポイントサービスを提供しており、中には「ポイントサービスが有利であるからこの事業者を選択した」とする消費者も少なくない。
実は、筆者もその1人であり、「当カードに加入すると商品・サービスと交換できる○○○ポイント進呈、その上年間手数料も無料」といった誘引により、別のカードを解約して、あるカードに加入した経験がある。
こうしたポイントプログラムは、本体である商品・サービスに付随する、対価性を有しない、単純な「おまけ」として一切保護されないのであろうか。
「おまけ」と考えれば、たとえば突然ポイントプログラムが廃止された場合や、ポイントカードを紛失した場合などでも、消費者に対する保護は弱くなりがちとなる。
しかしながら、ポイントプログロムは、本体である商品・サービス加入の際、重要な加入動機となっているケースも多く、消費者の期待も大きいことから、消費者保護のための方策が必要である。
商品・サービスと交換できる点でポイントプログラムと類似している商品券、ギフト券、プリペイドカードなどは、資金決済法上の「前払式支払手段」とされ、消費者保護のため、事業者に対し、発行額の2分の1以上の保証金供託義務などが課されているが、ポイントプログラムについては対価性がなく、無償で発行されているとして、こうした義務は課されていない。
主要企業のポイント発行額は2014年で8495億円で、2022年には約1兆1千億円に達するとの予測もある中、社会的に定着したポイントプログラムの現状やこれまでの検討経緯、課題と対応方向などを分析したい。
2――ポイントプログラムの現状
1| ポイントの発行残高
ポイントプラグラムの2014年度の年間最少発行額(判明した売上高など×ポイント適用率×ポイント還元率により計算)は8495億円、2022年度には1兆1000億円に達すると推定されている。
2014年度の8495億円の内訳は、クレジットカード(業界全体のショッピング取扱高がベース)が最も多く2313億円、次いで家電量販店(主要8社の売上高がベース)が2173億円、携帯電話(主要3社の売上高がベース)が1079億円などとなっている1。
2005年度は4520億円、内訳は、クレジットカードが1458億円、携帯電話が874億円、航空会社(主要2社)が750億円2などであったことから、9年間で2倍近くに拡大している。
2| ポイントプログラムに関する規定
各企業は、ポイントプログラムに関する規定を設け、ホームページに掲載して消費者に示している例が多い。
規定内容は企業によって区々で、消費者にとって重要な事項のひとつである有効期限についても、
・ポイントが付与される取引が行われた日から1年間(アマゾン、楽天など)、最終のポイント変動日(付与、使用)から1年間(Tポイントなど)
・有効期限2年(MUFJカード、JCBカードなど)
・有効期限3年(JALマイレージ、ANAマイレージなど)
・有効期限なし(セゾンカードなど)
などとなっている
また、大半の規定では、企業側がいつでもポイントプログラムを廃止したり、内容を変更できるとしているが、その際、消費者へ何らかの方法で周知するかどうかは各社の規定が分かれている3。
3| ポイントの個人税制上の取扱い
ポイントの税制については、個人が商品購入履歴などにもとづき付与されるポイントは、法人からの贈与により取得する金品として、ポイントを使用した時点で、一時所得の対象となり、アンケートの回答などにもとづき付与されるポイントは、役務提供の対価として、同様にポイントを使用した時点で、雑所得となるという見解が示されている。
なお、一時所得には、50万円の特別控除額があるため、ほとんどの納税者は申告する必要はない。雑所得についても、年末調整によって所得税額が確定する、大部分の給与所得者については、給与所得、退職所得を除く各種の所得金額の合計額が20万円以下の場合、申告不要となる。
これは、ポイントの法的性質について、「ポイントプログラム契約により消費者が得る債権とは、・・・停止条件付き贈与契約(筆者注:消費者側がポイントを商品やサービスとの交換などの方法で請求するまでは、効力を生じない、対価を支払うことなく給付を受けることができる契約)による債権である」と位置づけた上で、所得税法第36条に規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」に該当し、課税されるべきであるとの整理4であり、妥当な見解であるものと考えられる。
1 ニュースリリース「ポイント・マイレージの年間発行額は2022年度に約1兆1,000億円に到達~国内11業界の年間最少発行額について、2014年度の推計と2022年度までの予測を実施~」(2016年10月5日)、野村総合研究所ホームページ。
2 ニュースリリース「日本国内の『企業通貨』発行総額は4,500億円超~主要9業界の2005年度の発行金額を推計~」(2006年8月16日)、野村総合研究所ホームページ。
3 各会社ホームページ。
4 「企業が提供するポイントプログラムの加入者(個人)に係る所得税の課税関係について」『税大論叢』第78号、2014年6月、国税庁ホームページ。
ポイントプラグラムの2014年度の年間最少発行額(判明した売上高など×ポイント適用率×ポイント還元率により計算)は8495億円、2022年度には1兆1000億円に達すると推定されている。
2014年度の8495億円の内訳は、クレジットカード(業界全体のショッピング取扱高がベース)が最も多く2313億円、次いで家電量販店(主要8社の売上高がベース)が2173億円、携帯電話(主要3社の売上高がベース)が1079億円などとなっている1。
2005年度は4520億円、内訳は、クレジットカードが1458億円、携帯電話が874億円、航空会社(主要2社)が750億円2などであったことから、9年間で2倍近くに拡大している。
2| ポイントプログラムに関する規定
各企業は、ポイントプログラムに関する規定を設け、ホームページに掲載して消費者に示している例が多い。
規定内容は企業によって区々で、消費者にとって重要な事項のひとつである有効期限についても、
・ポイントが付与される取引が行われた日から1年間(アマゾン、楽天など)、最終のポイント変動日(付与、使用)から1年間(Tポイントなど)
・有効期限2年(MUFJカード、JCBカードなど)
・有効期限3年(JALマイレージ、ANAマイレージなど)
・有効期限なし(セゾンカードなど)
などとなっている
また、大半の規定では、企業側がいつでもポイントプログラムを廃止したり、内容を変更できるとしているが、その際、消費者へ何らかの方法で周知するかどうかは各社の規定が分かれている3。
3| ポイントの個人税制上の取扱い
ポイントの税制については、個人が商品購入履歴などにもとづき付与されるポイントは、法人からの贈与により取得する金品として、ポイントを使用した時点で、一時所得の対象となり、アンケートの回答などにもとづき付与されるポイントは、役務提供の対価として、同様にポイントを使用した時点で、雑所得となるという見解が示されている。
なお、一時所得には、50万円の特別控除額があるため、ほとんどの納税者は申告する必要はない。雑所得についても、年末調整によって所得税額が確定する、大部分の給与所得者については、給与所得、退職所得を除く各種の所得金額の合計額が20万円以下の場合、申告不要となる。
これは、ポイントの法的性質について、「ポイントプログラム契約により消費者が得る債権とは、・・・停止条件付き贈与契約(筆者注:消費者側がポイントを商品やサービスとの交換などの方法で請求するまでは、効力を生じない、対価を支払うことなく給付を受けることができる契約)による債権である」と位置づけた上で、所得税法第36条に規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」に該当し、課税されるべきであるとの整理4であり、妥当な見解であるものと考えられる。
1 ニュースリリース「ポイント・マイレージの年間発行額は2022年度に約1兆1,000億円に到達~国内11業界の年間最少発行額について、2014年度の推計と2022年度までの予測を実施~」(2016年10月5日)、野村総合研究所ホームページ。
2 ニュースリリース「日本国内の『企業通貨』発行総額は4,500億円超~主要9業界の2005年度の発行金額を推計~」(2006年8月16日)、野村総合研究所ホームページ。
3 各会社ホームページ。
4 「企業が提供するポイントプログラムの加入者(個人)に係る所得税の課税関係について」『税大論叢』第78号、2014年6月、国税庁ホームページ。
(2016年12月13日「基礎研レポート」)
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