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- 欧州年金基金の投資方針原則に対するEIOPAの提言-8つの最善策と3つの勧告
2016年11月22日
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3|3つの勧告
最終的には、以下のような3つの勧告がなされている。
各国の監督の実態や、個々の年金基金で課題となっている事項を具体的にみないと、こうした勧告の意味が外部からわかりにくい面があるが、すでに実際に改善を要する国には、個別に具体的な勧告がなされている模様である。
最終的には、以下のような3つの勧告がなされている。
- EIOPAは、投資方針原則の定性的評価をさらに実施し監督実施を強化するための、投資方針原則の構成に関するガイダンスを開発するために、次の作業を考えていく必要がある。
この作業は、特に以下のようなガイダンスを含むべきである。
・投資方針は、加入者構成に合わせてどのように調整されるのか
・加入者の特性によって、リターン目標をどう設定するのか
・スポンサーの立場、リスク対象を設定する方法、リスク選好、退職DC年金、といった個々の事情に焦点をあててみたとき、どこに有効なものか
- IORPII指令に向けて、監督の統一を促進するために、EIOPAはいくつかのガイダンスの作成を検討すべきである。そのことにより、IORPII指令中の新しいガバナンスとリスク管理要件に対してなされる監督と実施要領や、投資方針原則が監督に果たす役割を明らかにする必要がある。例えば、ガイダンスは、投資方針原則とORSAの2つの文書の重複部分における関係を明らかにすることが望ましい。これにより、年金基金にとって不要な追加的負担をかけるリスクを減らすことができる。この時、投資方針原則の構成と内容に加え、各国監督による現在の正式なガイダンスを考慮すべきである。
- ピアレビューでは、投資方針原則と、特に投資リスクに完全にさらされたDC年金の加入者に投資政策を伝えることが、潜在的に重要な課題であることを明らかにした。IORPII指令との関係では、EIOPAは、指令の新たな情報開示要件が、タイムリーかつ明確にDC加入者に伝えられるための改善方法につき、さらに作業を進めるべきと考える。
このピアレビューではじめて強調された調査結果に加えて、関連するこれまでのEIOPAの作業も、参考にする必要がある。
各国の監督の実態や、個々の年金基金で課題となっている事項を具体的にみないと、こうした勧告の意味が外部からわかりにくい面があるが、すでに実際に改善を要する国には、個別に具体的な勧告がなされている模様である。
2――今後の状況
EIOPAのガブリエル・ベルナルディーノ議長はこう述べている。
「投資方針原則には多様な利用方法があるが、欧州の年金制度の加入者や受益者の利益のために、新しいIORPII指令が実施される初期段階で、それに基づき、できる限り早く監督方針が統一される必要があることを認識できた。」
保険会社を対象とするソルベンシーIIの実施からまもなく1年経とうとしているが、年金基金のほうでも、健全性の動きのみならず、こうした投資原則の確立が進められているようである。これも大きな意味ではERMの一環といえるだろう。
先に触れたように、IORP指令は間もなくIORPII指令といわれるものに改訂される予定である。ただしもともと想定されていたところまでは行き着かず、ソルベンシーIIで導入されたような定量的な資本要件や、「包括的バランスシート」(これまで何度か紹介した2、いわば資産・負債とも時価ベースにしたバランスシート)の考え方は、現段階では検討途上で導入されない。
その意味で、大枠としては、これまでと変わらないもので、EU内の国を超えた共通の規制を少し進めたものとなっているようである。
ともあれ、そうしたIORPⅡ指令の原案は、2016年6月30日には関係者(欧州理事会、議会、委員会)で実質合意された。今後正式な議会の承認を経て2016年内には決定され、その後2年間で各国の法律に反映されて実施される見込みとされている。ただし同時期に英国のEU離脱交渉があるので、英国に関してどういう扱いとなるかは不透明である。
包括的バランスシートの導入などの、「本格的な」IORPⅡ指令といった年金基金の健全性規制の動きにつき、今後の進展に注目していきたい。
2 基礎研レター「年金基金版?ソルベンシーII-欧州EIOPAがストレステストと定量調査を実施中」(2015.9.29)参照
http://www.nli-research.co.jp/files/topics/42771_ext_18_0.pdf?site=nli
「投資方針原則には多様な利用方法があるが、欧州の年金制度の加入者や受益者の利益のために、新しいIORPII指令が実施される初期段階で、それに基づき、できる限り早く監督方針が統一される必要があることを認識できた。」
保険会社を対象とするソルベンシーIIの実施からまもなく1年経とうとしているが、年金基金のほうでも、健全性の動きのみならず、こうした投資原則の確立が進められているようである。これも大きな意味ではERMの一環といえるだろう。
先に触れたように、IORP指令は間もなくIORPII指令といわれるものに改訂される予定である。ただしもともと想定されていたところまでは行き着かず、ソルベンシーIIで導入されたような定量的な資本要件や、「包括的バランスシート」(これまで何度か紹介した2、いわば資産・負債とも時価ベースにしたバランスシート)の考え方は、現段階では検討途上で導入されない。
その意味で、大枠としては、これまでと変わらないもので、EU内の国を超えた共通の規制を少し進めたものとなっているようである。
ともあれ、そうしたIORPⅡ指令の原案は、2016年6月30日には関係者(欧州理事会、議会、委員会)で実質合意された。今後正式な議会の承認を経て2016年内には決定され、その後2年間で各国の法律に反映されて実施される見込みとされている。ただし同時期に英国のEU離脱交渉があるので、英国に関してどういう扱いとなるかは不透明である。
包括的バランスシートの導入などの、「本格的な」IORPⅡ指令といった年金基金の健全性規制の動きにつき、今後の進展に注目していきたい。
2 基礎研レター「年金基金版?ソルベンシーII-欧州EIOPAがストレステストと定量調査を実施中」(2015.9.29)参照
http://www.nli-research.co.jp/files/topics/42771_ext_18_0.pdf?site=nli
(2016年11月22日「保険・年金フォーカス」)
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経歴
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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