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労働関連統計にみられる人口減少と高齢化の影響 ~九州地域の場合~

日本大学経済学部教授 小巻 泰之
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産業別の新規求人については、県毎の産業構造の違いを反映したものとなっている(図表13)。福岡県は1990年には建設業と製造業で新規求人の40%強を占めていたが、その後この比率は徐々に低下し両業種で12%程度しかない。2013年には小売業・飲食店及び医療・福祉で40%を占めている。佐賀県を除いた5県は福岡県同様に建設業、製造業の比率が低下し、サービス業のウエイトが大きくなっている。ただし、熊本県は1990年対比で建設業と製造業の低下幅が福岡県より大きい。また、宮崎県、鹿児島県では医療・福祉(29%前後)が最も比率が高い。佐賀県は建設業と製造業の比率はやや低下しているものの30%弱を占めているものの大きく低下していない。最も求人が多いのは医療・福祉(26%)となっている。
5.まとめ
今次における九州各県における有効求人倍率の改善は、バブル期における改善とは大きく異なり、求職者の減少が大きく寄与している。しかし、求職者の減少は必ずしも、就業者の増加には結びついているわけではないことが確認できる。また、九州各県の失業率、有効求人倍率、就業者など労働関連統計間の相関関係については、全国レベルの統計間で観察できる有意な関係は確認できない。九州各県の有効求人倍率の改善が就業や失業率の改善に結びつくなど、他の統計では確認できない。
福岡県を除き、九州各県では若年層の流出超が確認でき、若年層を中心に求職者自体の減少が確認できる。このような状況が生じる原因として適切な就職先がないことがあると考えれば、各県における製造業ウエイトの低下や医療・福祉のウエイト増加が影響していると考えられる。求人の状況からみれば、人口減少などから県内の製造業が減少し雇用の受け皿として機能が低下していることが窺える。他方、地域における高齢化を反映して、新規求人における医療・福祉は単独の産業でみて最大のシェアを占めているものの、労働環境の問題などから敬遠されている可能性が考えられる。
以上のことから、若年層を中心に人口流出による労働力人口の減少が直接的に求職者の減少につながっている。他方、求人は医療・福祉を中心に増加しているものの、就業の増加につながっていない。つまり、求人増が求職者のニーズに合致していない形で、求職及び求人の両面から有効求人倍率は改善を示している可能性が考えられる。労働需給によるミスマッチが見かけ上、九州各県の有効求人倍率を改善させている可能性が指摘できる。
現時点で日本全体では人口減少や高齢化の影響は現時点では確認できない。しかし、今後についても周辺地域の県では若年層を中心に県外移動する者が増加するとみられる。このため、地域によっては求職者数の減少により有効求人倍率が改善する場面がみられよう。
- 上野有子(2013)「求人」、日本労働研究雑誌、No.633、2013年4月、pp.34-37.
- 斎藤太郎(2002)「高齢者の求人倍率の改善をどう見るか」、ニッセイ基礎研REPORT 2002年9月、pp.24-25.
- 日本銀行鹿児島支店(2015)長期的な視点からみた鹿児島県の雇用情勢~若い世代の繋ぎ留めに向けて~」
- 日本銀行宮崎事務所(2015)「長期的な視点からみた宮崎県の雇用情勢~若い世代の繋ぎ留めに向けて~」
- 労働政策研究・研修機構(2004)「雇用失業情勢の都道府県間格差に関する研究」、労働政策研究報告書 No. 9
(2016年05月13日「基礎研レポート」)
日本大学経済学部教授 小巻 泰之
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