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労働関連統計にみられる人口減少と高齢化の影響 ~九州地域の場合~
日本大学経済学部教授 小巻 泰之
本稿は、少子高齢化や人口流出などの人口の変化が及ぼす地域経済への影響を労働関連の経済統計から検討する。人口の変化は直接的に労働力人口に影響を与えると考えられる。全国ベースでは均されて確認が難しいことから1、分析の対象は地理的に一つの経済圏と捉えられる九州7県(福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島)としている。
ここでの分析は、都道府県ベースのデータ数の不足から初歩的な観察にとどまっている。しかしながら、いくつかのファクトファインディングを得た。九州7県の労働力人口の変動をみると、以下のとおり労働力人口が維持されている県と大幅減少する県が混在し、福岡県へ若年人口の移動がみられる。
(1) 福岡県の人口は微増を続け労働力人口は総じて維持されている。1985年と比較すると3190万人から2014年3125万人である。しかし、他の6県では人口減少が続き、労働力人口の減少は総人口の減少より早い時期(1980年頃)から確認できる。特に、長崎県、宮崎県及び鹿児島県の労働力人口の減少率は大きい。1985年比で長崎県22.6%減、宮崎県16.1%減、鹿児島県17.5%減となっている。
(2) 人口移動については、九州各県は高度成長期に首都圏及び関西圏に対して大きく転出超であり、特に地理的な影響もあるのか首都圏より関西圏への転出超が大きい。ただし、1980年以降について九州6県は福岡県への流出超が最大となっている。
(3) 年齢階層別に人口移動をみると、福岡県を除くすべての地域で15歳から29歳まで若年層の流出が大勢を占めている。これは大学への就学、就職が要因とみられる。実際、高等学校卒業者の就職先をみると、九州の4県(宮崎県、鹿児島県、長崎県、佐賀県)の県内企業への就職率が全国的にみても最下位のレベルとなっている。
他方、九州各県の労働関連統計の動きをみると、以下のとおり、有効求人倍率と就業者など統計間での関係が確認できず、求人の増加が就業に結びついていない状況が確認できる。
(1) 失業率(労働力調査ベース)と有効求人倍率の関係をみると、全国ベースでは-0.73と有意な負の相関関係が確認できる。しかし、九州各県の失業率と有効求人倍率との関係は弱い。特に、鹿児島県は-0.39と相関関係は弱い。
(2) 有効求人倍率の改善が雇用に結びついているのかについて、有効求人倍率と常用雇用をみると、有効求人倍率が労働需給の改善を意味し、全国ベースでは0.64と正の相関関係が確認できる。しかし、九州の各県ベースではほとんど無相関に近い状況にある。
(3) 有効求職者と常用雇用についても全国ベースは-0.72と求職者の減少は常用雇用の増加、つまり就業に結びついていることがわかる。しかし、九州各県とも符合こそマイナスであるが関係が弱い。特に、宮崎県、鹿児島県は無相関といえる。
(4) 求職者と就業者の関係をより詳細にみるために就業構造基本調査(総務省)を用いてみると、1992年から97年では、福岡県、長崎県、熊本県で求職者と就業者がともに増加している。その後はその関係が認められない。また、大分県、宮崎県、鹿児島県では求職者数が増加しているにも関わらず就業者数が増加していない。
(5) 新規の求人数をみると、1990年代前半までは建設業と製造業が新規求人の40%前後を占めていたが、この比率は徐々に低下している。増加したのは第三次産業であり、特に2000年以降は医療・福祉の増加が顕著であり、宮崎県、鹿児島県では30%前後を占めるまでになっている。
以上のことから、九州域内については若年層を中心に人口流出による労働力人口の減少が直接的に求職者の減少につながっている。他方、近年、求人は建設業や製造業は減少傾向にあるものの医療・福祉を中心に増加しているが、就業の増加につながっていない。つまり、求人増が求職者のニーズに合致していない形で増加していることから、求職者の減少及び求人の増加の両面から有効求人倍率は改善を示している可能性が考えられる。特に、今次の改善では求職者の減少の寄与が大きくなっており、労働需給におけるミスマッチが九州各県の有効求人倍率を見かけ上改善させている可能性が指摘できる。
平成28年熊本地震により被災地域における復興が急務の課題となっている。しかし、人口の変化による労働力人口の減少は震災以前から生じてきた長期的な傾向である。被災地域の復興に加え、九州各県における労働環境の維持可能な状況を考慮した対応策が求められる。
※ 福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島の各労働局から資料を提供頂いた。記して感謝したい。
1 全国ベースでは2005年国勢調査の速報人口(2005年12月公表)により人口減少社会に入ったとの認識が広まったものの、その後改定されている。2010年国勢調査でも人口が微増となっており、人口の減少は2011年以降となっている。ただし、労働力人口は国勢調査ベースで2005年をピーク(2010年比で-4.95%減少)、労働力調査ベースでは1998年をピーク(2015年比で-2.87%減少)に減少傾向にある。
■目次
1.はじめに
2.人口の変化の影響と統計との関係
2.1人口の変化の労働市場への影響
2.2労働力人口の減少の影響
3.人口の変化と労働関連統計の動向
3.1九州地域の労働力人口と人口移動
3.2労働関連統計への影響
3.3労働統計間の関係
4.有効求人倍率の改善における人口変化の影響
4.1有効求人倍率の改善要因
4.2求職者数の減少の背景
4.3産業別にみた新規求人の動向
5.まとめ
(2016年05月13日「基礎研レポート」)
日本大学経済学部教授 小巻 泰之
研究・専門分野
日本大学経済学部教授 小巻 泰之のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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