2016年04月12日

海外資金による国内不動産取得動向(2015年)~リスク回避の動きが不動産取引にも影響~

増宮 守

文字サイズ

4.海外資金の東京への集中

次に、海外資金による日本国内の不動産取得額を取得物件の所在地別(東京とそれ以外)にみたところ、2015年には東京の占める比率が過去最高水準に高まっていた(図表-7)。
 
図表-7 海外資金による東京の不動産取得額と全体に占める比率
そもそも投資対象となる国内の不動産ストックは、オフィスが大半を占めていた以前に比べ、物流施設やヘルスケア関連施設などの増加により、近年多様化が進んできている。これらのセクターでは東京以外に立地する物件が多く、エリア分散も進んできたと考えられる。こうした投資対象のエリア分散にもかかわらず、海外資金の取得に占める東京の比率が高まっていることから、海外資金の東京への集中は数値以上に強い傾向とみることができる。
海外投資家が日本をみる場合、全国的には長期的な人口減少と経済停滞への懸念が根強い。一方、東京については、オリンピックの開催も控え、インフラ改善による国際競争力の向上が見込める。ただし、東京についても、オリンピック開催を目途とした短い投資期間で検討している投資家は少なくない。そのため、東京のアジアの主要都市としての地位を長期的に維持、強化していくことが重要である。
 

5.米国およびアジア資金による取得

5.米国およびアジア資金による取得

最後に、海外資金による日本国内の不動産取得額を資金の国別でみた。リーマンショック後の落ち込みから回復しつつあった米国資金、およびリーマンショック前を大きく上回る水準に拡大してきたアジア資金ともに、2015年の取得額は約3割の縮小であった(図表-8、9)。上記のホテルの取得を積極化したアジア資金がやや比率を高めたものの、概して、海外資金による日本国内の不動産取得は、資金の出所にかかわらず縮小したといえる。
リーマンショック時には、ほとんど動きが止まった米国資金に対し、アジア資金の動きは継続していたことから、両者の違いが明確となっていた。しかし、2015年は、リーマンショック時のように極端な米国資金によるリスク回避はみられず、また、中国経済の失速懸念を受けて、成長著しいアジア資金の動きも鈍化したことから、双方が同様に縮小する形となった。
 
図表-8 米国資金による国内不動産取得額と全体に占める比率/図表-9 アジア資金による国内不動産取得額と全体に占める比率

6. わりに

6.おわりに

国内の不動産市場においては、株価が下落した2015年下期以降も、金融市場のようにリスク回避の動きは明確に認識されていない。たとえば、賃貸市況を代表する東京の賃貸オフィス市場では、三鬼商事によると、募集賃料の上昇が継続している(図表-10)。また、不動産投資市場でも、金融市場とはある程度隔絶した市場として、株価が下落した後も当面は不動産価格が上昇し続けるとの楽観的な見方が少なくない(図表-11)4。さらに、2016年2月のマイナス金利政策の施行以降、国内投資家にとって運用利回りの確保が一層難しくなっており、一部の投資資金が消去法的に不動産に向かうとの期待もある。
しかし、取引所で日々値付けされる株式とは異なり、不動産の取引データは十分ではないため、不動産価格動向の把握は難しい5。そのため、不動産投資市場の把握においては、取引額の推移から市場の活性を確認することが重要であるが、上記のように、取引額は2015年に縮小に転じ、なかでも、海外資金による取得額の縮小が顕著であった。
 
図表-10 東京のオフィス空室率と募集賃料/図表-11 東京の不動産価格のピーク時期予想
当面、新興国経済の失速や米国景気の回復ペースに対する懸念、加えて、円安による割安感も薄れつつあることから、海外資金による日本国内の不動産取得は伸び悩む可能性が高い。今後は、不動産価格を支える投資主体は国内資金が中心となり、マイナス金利政策によって行き場を失った資金が、どの程度不動産投資に向かうかがポイントになるとみられる。
ただし、アジア資金が牽引してきた海外資金による日本国内での不動産取得の拡大は一旦途絶えたものの、インバウンド需要が拡大するホテルのように、アジア資金による取得拡大が続いた分野もある。今後も、構造的な成長や東京の国際競争力向上の恩恵が見込める投資対象などについては、海外資金による取得拡大が続くものと見込まれる。
Xでシェアする Facebookでシェアする

増宮 守

研究・専門分野

(2016年04月12日「不動産投資レポート」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【海外資金による国内不動産取得動向(2015年)~リスク回避の動きが不動産取引にも影響~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

海外資金による国内不動産取得動向(2015年)~リスク回避の動きが不動産取引にも影響~のレポート Topへ