2016年02月01日

EUソルベンシーⅡの動向- 各社のSCR算出のための内部モデルの適用申請等はどのような結果になったのか(2)-

中村 亮一

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4|Aegon
Aegonは、1月13日の Company's Investor Dayにおいて、ソルベンシーIIポジションについての説明会を行った。これによると、以下の通りとなっている。

(1)SCR比率等の状況
12月初めに、監督当局のDNB(オランダ中央銀行:De Nederlandsche Bank )から、部分内部モデル使用の承認が得られた。これに基づくと、2015年度末の概算値で、ソルベンシーIIによるSCR比率は約160%となり、目標範囲の140%~170%の上方範囲になる。自己資本が200億ユーロ、SCRが125億ユーロとなる。

自己資本のうち、Tier1が全体の80%(Tier1(無制限)が65%、Tier1(制限付)が15%)を占め、Tier3の大部分は米国における繰延税金資産となっている。

SCRの内訳は、EEA(欧州経済領域)の事業においては、信用リスク27%、金利リスク8%、その他の市場リスク18%、長寿リスク17%、解約・失効リスク11%、事業費リスク6%、その他リスク13%となっている。一方で、米国事業においては、信用リスク41%、変額年金市場リスク17%、株式リスク13%、引受けリスク14%、金利リスク10%、オペレーショナル・リスク5%となっている。
 
(2)SCR等の算出方法(内部モデルの適用状況等)
オランダと英国の事業に対して部分内部モデルを使用している。米国は同等性評価に基づき、その他の国々は標準的方式と当該国の規制制度に従っている。その結果として、SCRの約50%が同等性評価、残りの50%がソルベンシーII(45%が部分内部モデル)に基づいた形になっている。

グループ全体のソルベンシーに関する数値は、会社の事業ユニットと持株会社の合計数値として得られる。このうち、持株会社は、自己資本に対しては、キャッシュ・バッファー14億ユーロ、優位弁済債務▲19億ユーロ、SCRに対しては分散効果▲5億ユーロの影響を与えている。

米国事業については、CALの250%の転換率を用いて、約160%のSCR比率になる。これは、単にRBC比率を2.5で除して得られる数値ではない。米国の生命保険会社間の分散効果は考慮されていないが、従業員退職年金制度を含む米国の持株会社が、ソルベンシーIIベースで含まれている。

オランダのSCR比率は約150%で、いかなる長期保証措置も使用していない。なお、税の損失吸収効果が不確定要素であり、これにより、SCR比率が▲5pts~+10ptsの影響を受ける可能性があるが、これについては、第2四半期末までに最終的に明確化されることを期待している、としている。

英国のSCR比率は約140%で、年金がSCRの約40%を占めている。技術的準備金に関する経過措置を適用しているが、その比率に与える影響はあまり大きくない。さらに、MA(マッチング調整)とVA(ボラティリティ調整)を適用している。

その他の欧州事業においては、標準的方式を採用しており、SCR比率は様々であるが、全体では200%の比率を有している。

(3)SCR比率の感応度
UFRの100bpの引き下げは、SCR比率を6pts(オランダ事業のみでは▲18pts)引き下げる。 
各種の金融市場のショックに対するSCR比率の感応度(2015年度末(推定)ベース)については、以下の通りとなる。

(1)金利          +100bps  ▲ 2pts   ▲100bps  ▲4pts
(2)株式市場      +20%  +2pts    ▲20%  ▲4pts
(3)信用スプレッド   +100bps   +3pts
(4)長寿リスクショック(年金死亡率10%低下)  ▲9pts(オランダ▲21pts、英国▲12pts)
(5)オランダのモーゲージ・スプレッド +50bps ▲3pts(オランダのみでは▲10pts)
(6)米国の信用デフォールト ▲200pts ▲14pts(米国のみでは▲31pts)

(4)その他
会社のリスク・エクスポジャーは、ソルベンシーII適用会社と米国の両方において、分散化されている。今後は、例えばオランダにおいて、ALMを最適化し、長寿リスクをさらにヘッジすることで、SCRを削減することを考えている、としている。

ソルベンシーIIの適用会社においては、SCR比率の目標範囲を130%~150%とし、米国においては、RBC比率の目標範囲を350%~450%(これはソルベンシーIIベースでは120%~160%に相当)としている。持株会社の10億~15億ユーロのキャッシュ・バッファーと合わせて、グループのSCR比率の目標範囲が140%~170%となる。もし、比率がこの上限を上回る場合には、株主に追加資本を返還するか、戦略的な優先度に基づく投資を促進する。一方で、比率が120%~140%の警戒ゾーンに低下した場合には、追加的な資本保護手段を取ることになる。

5Munich Re
Munich Re は11月30日にAnalysts Briefingを行い、ソルベンシーIIに関して、説明を行った。これによると、以下の通りとなっている。

(1)SCR比率等の状況
11月25日に、ドイツの保険監督当局であるBaFinから、内部モデル使用の承認が得られた。これに基づく9月末のソルベンシーIIによるSCR比率が約260%になる。会社の目標比率は175~220%に設定されている。なお、2014年度末のSCR比率は277%となり、その内訳として、自己資本が382億ユーロ、SCRが138億ユーロとなる。

自己資本のうち、Tier1が89%を占めているが、そのうちTier1(無制限)が325億ユーロで全体の85%、無期限劣後債務であるTier1(制限付)が15億ユーロで4%を占めている。

SCRの内訳は、生命保険引受けリスク48億ユーロ、損害保険引受けリスク57億ユーロ、市場リスク88億ユーロ、信用リスク46億ユーロ、オペレ-ショナル・リスク10億ユーロで、これらの分散効果が▲91億ユーロ、繰延税金資産の損失吸収効果▲22億ユーロ等となっている。

(2)SCR等の算出方法(内部モデルの適用状況等)
グループの自己資本とSCRは連結ベース手法に基づいている。

割引率や技術的準備金に対する経過措置は適用していない。

この内部モデルは、グループの全てのリスクをカバーする完全内部モデルである。欧州における選択された会社(MR-AG、 MR of Malta、DKV、ERGO Property-casualty、ERGO Direkt、New Re)が、単体レベルでも内部モデルを使用する(ただし、New ReはSST(スイス・ソルベンシー・テスト)に基づいている)。その他の欧州の会社は標準モデルを使用する。資本の多数は、内部モデルを使用する会社のものである。
(3)SCR比率の感応度

UFRの引き下げは、SCR比率に大きな影響を与えない。

各種の金融市場のショックに対するSCR比率の感応度(2014年度末ベース)については、以下の通りとなる。

(1)金利       +100bps  +45pts     ▲100bps  ▲42pts
(2)株式市場    +30%    +13pts   ▲30%  ▲12pts
(3)スプレッド     +100bps ▲38pts 
(4)FX(為替)     ▲10%  ▲ 4pts
(5)ハリケーン(200年に1回の規模)  ▲4pts

(4)その他
Munich Reは、非常に早い段階から、リスクモデリングの基礎として、エコノミック・アプローチを採用し始め、約10年間にわたって、完全内部モデルを作成・開発してきた。申請の準備のためのパッケージとして、約15,000ページからなる資料を提出したとしている。

なお、2014年末のソルベンシーI比率は242%であり、新しいソルベンシーIIへの移行により277%へと比率が上昇することになるが、これは「Munich Reによって使用されてきた内部モデルが、総合的かつリスクに相応したキャリブレーションを反映してきたことによるもの」であると説明している。

 

5―まとめ

今回、内部モデルの使用に関して、主要各国の監督当局による承認が行われ、一歩進んだ形になった。ただし、各社がプレス・リリース資料等で述べているように、細部の解釈等については、未だ不確実な要素を有している。

加えて、課題とされていた各国監督当局間の整合性の問題も、完全には解決せずに、引き続き未解決のまま残されている項目がある状況となっている。

さらには、今回の各社のプレス・リリース等はあくまでも、内部モデル使用の承認を得た、との事実の公表が中心で、SCRの算出方法等の説明は行われているが、具体的な内部モデルの説明等については十分には行われていない状況にある。

こうした点については、今後、2015年度末を含めた四半期毎の業績公表時に、徐々に内容の確定等も踏まえて、さらなる情報提供の充実が行われていくことが期待される。

いずれにしても、欧州の大手保険グループを中心とした各社の内部モデル等に基づくSCRの算出方法等については、今後の日本におけるソルベンシー規制やその中での各社のソルベンシー管理等を検討していく上において、大変参考になるものがあることから、継続的にウォッチしていくこととしたい。
 
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中村 亮一

研究・専門分野

(2016年02月01日「基礎研レター」)

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