2015年11月17日

アジア地域で大きなプレゼンスを有する外資大手生保の経営・営業の特徴点は何か?

平賀 富一

文字サイズ

はじめに

アジア各国の生命保険市場の急速な発展と今後さらなる拡大が見込まれる中、欧米日の大手企業に加え、近年は、韓国・台湾・アセアンの有力企業も参入しての競合する状況が生じている(図表-1参照)。
 
図表-1 アセアン主要6カ国の生保市場における上位10社のマーケットシェア(保険料合計ベース)

本レポートでは、アジアの多くの市場で大きなマーケットシェアを有する、プルデンシャル(Prudential、本拠:英国1)、AIA(本拠:香港、かつては米AIG系)、マニュライフ(Manulife、本拠:カナダ)の3社を中心に考察し、外資企業によるアジア生保市場での事業活動の特徴点と成功要因等について、筆者の見解を述べたい(本稿の論点の詳細や国際ビジネス理論の観点からの考察については、平賀(2013)および2016年1月に刊行予定の拙著「生命保険企業のグローバル戦略-欧米系有力企業のアジア展開を中心として-」(文眞堂)をご参照いただきたい)。

 
 
1 Prudentialを社名とする有力保険企業グループは、英国、米国にあるが、本稿では英国に本拠を置く企業グループを念頭に置いて述べている。

1――長い営業の歴史と先行者利益の享受、自社主導の経営志向、社名・ブランド認知の取組み

アジア地域での事業開始は、マニュライフが1897年、AIA が1919年、プルデンシャルが1923年と古い。このことにより、現地市場の特性・慣行・文化についての組織学習や、官民各層等における人脈構築等における利点を享受していると推量される。また、3社は監督官庁や保険業界への情報提供・技術支援や、CSR活動等により進出先各国の各層への貢献を積極的に行っている。それらの取組みや各機関・人材との関係性の構築による成果と思われる事例を挙げれば、AIAの、中国における外資企業の中で最初の免許取得や、外資出資の上限が50%とされる同国で唯一の例外として、支店形態での参入を認められていることが挙げられよう。また、図表-2にあるように、3社はタイ・インドネシアなどでも、通常の外資出資規制の水準を上回る比率での出資が認められている。
 
図表2 3社のアジア主要営業拠点の出資比率等(所有コントロール)の現況

3社はともに、単独出資・メジャー(過半)出資の志向が強いが、それは自社の方針・戦略・ビジネスモデルによる、経営・営業の遂行とコントロールを意図していると考えられる。この点に関し、AIAは、その株式上場目論見書(AIA、2010)において、「先行して多くの市場へ参入したことにより、競合社が追随困難な所有構造や事業インフラを確立する上での歴史的な優位を与えられ、かつ、各国での保険事業のパイオニアとして貴重な経験を得て、多くの保険市場の発展に貢献してきた」と述べている。

また、ブランド力強化が、販売網を支援し業績を拡大することや、有能な人材を採用するために重要なものと認識し各社共に積極的な取組みを行っている。その典型例と見られるプルデンシャルのインドネシア拠点では、広告・宣伝に加えCSR活動も含む集中的なブランド浸透の取組みにより、15年間余りの短期間で、創立から約100年の歴史を有する地場有力企業(「Bumiptra 1912」社)を凌駕する高い認知度を達成している。

2――専属エージェントを中核基盤としつつ、その他の販売チャネルを拡大

3社は固有の強みとして、地場企業の知識・能力水準を超える専属エージェントを販売チャネルの中核として重視し、時間をかけて育成・強化しており、高収益な商品を安定的に販売できる重要な基盤を構築している。そのベースの上に、バンカシュアランス(銀行チャネルによる販売)やダイレクト・マーケティング等による販売網を拡大しつつある。新規販売チャネルにおいて重要度を増すバンカシュアランスでも、有力な銀行との間の提携関係を有している。とりわけ、プルデンシャルと英スタンダード・チャータード銀行(Standard & Chartered Bank)、AIAとシティバンク(Citibank)、マニュライフライフとDBS(シンガポール開発銀行、アセアン最大の銀行) というアジア域内の各市場を対象とする包括的な提携(次項で述べる地域本部が主導して実施と推量)はその典型的な事例である。
 

3――地域本部やグループ内企業と各国の拠点間の有機的な関係

アジア事業に関する組織機構は、アジア地域本部(アジア太平洋地域のみで営業するAIAの場合はグループの本部拠点であるが、以下では「地域本部」と総称する)と各国・地域の拠点という構成になっている。地域本部の所在地は、いずれも香港である。地域本部の機能は企業(グループ)全体としての目標・方針の明確化、IT等バックオフィス業務や資産運用の標準化・集約化による効率化であり、「グローバル標準化」と「現地適応化」のあり方が重要なポイントになる。

図表-3はプルデンシャルの事例であるが、地域本部とグループ企業(資産運用等)による各国拠点への支援のあり方が、具体的に示されている。アジア域内における事業の目標や戦略の決定、資本配分や業務成績の近代的な管理、商品開発・販売網構築や育成の支援、IT・統合的なバックオフィス業務の実施やサポート、域内全体を単位とする事業の遂行(包括的な銀行との事業提携など)、上席者を中心とする人材の管理等について、グループ全体でのシナジー効果による付加価値がもたらされていると考えられる。地域本部・拠点間の人事交流により、業務上のノウハウ・スキル・人脈などが相互に伝えられることになり、人材の育成にも寄与する。またアジア拠点の責任者であるCEOは、親会社の上席役員を兼務しており、親会社とアジア地域本部・拠点の連携がうまく機能する仕組みにもなっている。同様の拠点連携や人的交流、知の共有は、3社に共通している。上記の様な体制整備が出来て効果を挙げられる理由は、各地に多くの拠点を保有することによって、規模の利益や範囲の利益を追求し享受しうる環境にあることが大きいものと考えられる。

以上に加えて、3社は、自社の国際的なネットワークを活用して、商品開発や販売網構築、再保険手配、資産運用、事務・ITや顧客対応などについて、欧米を含めたアジア域内外の優れた手法や人材を効果的に投入・実施したり、規模の利益やリスクの分散効果を享受できるという強みを有する。
 
図表3 地域的なシナジーの発揮(アジア地域本部とグループ企業・他拠点によるインドネシア拠点への支援例)
Xでシェアする Facebookでシェアする

平賀 富一

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【アジア地域で大きなプレゼンスを有する外資大手生保の経営・営業の特徴点は何か?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

アジア地域で大きなプレゼンスを有する外資大手生保の経営・営業の特徴点は何か?のレポート Topへ