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- アジア地域で大きなプレゼンスを有する外資大手生保の経営・営業の特徴点は何か?
2015年11月17日
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4――有能な人的資源の保有・活用
生保事業は、人の保障・貯蓄・投資ニーズに応えるサービスを、人(販売者)が提供するという性格を有するビジネスであり、生保各社は有能で信頼される人材の育成・活用に注力している(リーダー教育プログラムや、優秀な新規人材を採用し計画的に業務・各地拠点勤務経験を積ませて幹部に育成するプログラム等)。3社のアジア地域本部の幹部の多くは、自社や業界の競合有力社、アジア地域内を含めた海外の複数の場所で、経験を積んだものが多い。特に、経営トップ層や、戦略や販売・マーケティングの人材に、その傾向が強い。また、第三国籍者で有力企業の複数国の拠点をまたがる転職事例も多い。同時に3社はアジア地域における他の保険企業への高度人材の供給源にもなっている。 この点に関し、AIAは、「自社および競合他社で勤務した人材が有する経験のコンビネーションが、同社の事業戦略を推進しアジア市場における変化に迅速に対応できる広範な視点を与えてくれる」 として、異文化の受容・活用を積極的にとらえている。また、プルデンシャルも「有能な人材を採用し自社に統合できることは他社が容易には追随できない大きな競争優位である」と述べている。3社は、アジアにおける長い歴史と社名・ブランドの認知の高さ、事業規模の大きさ(スケール)により、競合社に比べて、有能な人材を採用しやすい有利な環境にあるとも考えられる。さらに、人材の自社グループ内の拠点間の異動を積極的に行い、能力向上や経験・ノウハウの共有化に努めている。
上記で述べた人的資源を巡る状況は、欧米や日本など先進地域に比べ相対的に生保事業の歴史が浅く有能な人材プールが少ないアジアの現状において必要とする人材の育成・確保を行うための取組みのあり方やその発展段階を示している。今後、市場の発展に伴い経営の現地化が進む中では、各社ともにリーダー教育に注力している成果が現れ、より多くのポストがアジア人材によって担われることになるものと推量される。
上記で述べた人的資源を巡る状況は、欧米や日本など先進地域に比べ相対的に生保事業の歴史が浅く有能な人材プールが少ないアジアの現状において必要とする人材の育成・確保を行うための取組みのあり方やその発展段階を示している。今後、市場の発展に伴い経営の現地化が進む中では、各社ともにリーダー教育に注力している成果が現れ、より多くのポストがアジア人材によって担われることになるものと推量される。
5――おわりに
上記のような取組みの結果、3社では、アジア地域の収入・利益の、企業(グループ)全体の業績に対する貢献度・重要度が増している。例えば、プルデンシャルは、2014年度において新規保険料(年払換算ベース)の48%、営業利益(IFRSベース)の36%をアジア地域から挙げている。さらに2006年からはアジアから親会社(在英国)への現金配当を開始し、その規模は2014年で4億ポンド(約760億円)に増加している。マニュライフも、2014年度において収入保険料の50%、中核利益2の33%が、アジアからのものとなっている。AIAはアジア太平洋地域のみで営業を行っているため、アジア地域が同社の収入・利益面のほとんど全てを占めている3。このような収入・利益の両面でのアジアのウェートの拡大は、アジア拠点の貢献度と期待・重要度の大きさを明確に認識させることになり、アジア地域への経営資源のさらなる積極投入やアジア地域本部・拠点への権限委譲の拡大につながっているものと考えられる 。
本稿では、代表的な外資3社を挙げて、その重要点と考えられる諸点について述べた。冒頭に述べたように、いずれもアジア地域において長い事業の歴史を有するが、それは、事業の歴史の浅い後発の企業にとってチャンスがないということを必ずしも意味しない。この点で、プルデンシャルが、アジア事業を本格化したのは、1994年にアジア地域統括拠点を設立して以来のことであるという事例が参考になろう。さらに、アジア各市場の成長と変化の中で、後発の進出企業が成功する余地は十分にあると考えられる。
そのために、重要と考えられるポイントは、(1)企業としてのアジア事業戦略の明確化、(2)「グローバル標準化」と「現地適応化」の観点から、自社の強み(商品、販売、経営管理の仕組み・ノウハウなど)を活かすこと、(3)多様な能力・知識と着想・経験を有する人材(本国人材、第三国籍人材、進出国人材)の育成・活用、(4)成功・失敗を次のステップや別の拠点での展開に活かせる組織学習能力である。加えて、企業やそのリーダーによる粘り強さは、様々な局面・課題を乗り越えて長期的な視点で海外市場において成功を収める上での最重要事項といえよう。
<主要参考文献>
AIA Group Limited (AIA) (2010), Prospectus for IPO, 18 November, 2010.
AIA Group Limited (AIA) (2015), Annual Report 2014.
Prudential Corporation Asia (PCA) (2008), The Pru Story in Indonesia.
Prudential Plc (Prudential) (2010), Prospectus for Right Issue, 17 May, 2010.
Prudential Plc (Prudential) (2015), Annual Report 2014.
Manulife Financial Corporation (MFC) (2015), Annual Report 2014.
平賀富一(2013)「生命保険企業の国際事業展開に関する研究」『横浜国際社会科学研究』第17巻第6号。
同上(2015)「【アジア・新興国】アジア生命保険市場の動向・変化と今後の展望」『基礎研レター』ニッセイ基礎研究所、2015年7月21日。
2 株価・為替等の変動要素を除いたベースの利益指標。
3 他方、3社同様、国際的に有力な保険グループであるAllianz(ドイツ)、AXA(フランス)において、アジア地域の、グループ全体の収入に対する割合は、それぞれ5%、8%と僅少である。
本稿では、代表的な外資3社を挙げて、その重要点と考えられる諸点について述べた。冒頭に述べたように、いずれもアジア地域において長い事業の歴史を有するが、それは、事業の歴史の浅い後発の企業にとってチャンスがないということを必ずしも意味しない。この点で、プルデンシャルが、アジア事業を本格化したのは、1994年にアジア地域統括拠点を設立して以来のことであるという事例が参考になろう。さらに、アジア各市場の成長と変化の中で、後発の進出企業が成功する余地は十分にあると考えられる。
そのために、重要と考えられるポイントは、(1)企業としてのアジア事業戦略の明確化、(2)「グローバル標準化」と「現地適応化」の観点から、自社の強み(商品、販売、経営管理の仕組み・ノウハウなど)を活かすこと、(3)多様な能力・知識と着想・経験を有する人材(本国人材、第三国籍人材、進出国人材)の育成・活用、(4)成功・失敗を次のステップや別の拠点での展開に活かせる組織学習能力である。加えて、企業やそのリーダーによる粘り強さは、様々な局面・課題を乗り越えて長期的な視点で海外市場において成功を収める上での最重要事項といえよう。
<主要参考文献>
AIA Group Limited (AIA) (2010), Prospectus for IPO, 18 November, 2010.
AIA Group Limited (AIA) (2015), Annual Report 2014.
Prudential Corporation Asia (PCA) (2008), The Pru Story in Indonesia.
Prudential Plc (Prudential) (2010), Prospectus for Right Issue, 17 May, 2010.
Prudential Plc (Prudential) (2015), Annual Report 2014.
Manulife Financial Corporation (MFC) (2015), Annual Report 2014.
平賀富一(2013)「生命保険企業の国際事業展開に関する研究」『横浜国際社会科学研究』第17巻第6号。
同上(2015)「【アジア・新興国】アジア生命保険市場の動向・変化と今後の展望」『基礎研レター』ニッセイ基礎研究所、2015年7月21日。
2 株価・為替等の変動要素を除いたベースの利益指標。
3 他方、3社同様、国際的に有力な保険グループであるAllianz(ドイツ)、AXA(フランス)において、アジア地域の、グループ全体の収入に対する割合は、それぞれ5%、8%と僅少である。
(2015年11月17日「基礎研レター」)
平賀 富一
平賀 富一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2018/01/30 | 若者の「内向き志向」は本当か?-潜在する動機・意欲を引き出す早期教育の必要性- | 平賀 富一 | 研究員の眼 |
2017/12/28 | 日本経済・社会を活性化する起業の促進のために最も必要なこと | 平賀 富一 | 研究員の眼 |
2017/11/30 | 世界のビジネスモデルを変革する起業家の出現を期待! | 平賀 富一 | 研究員の眼 |
2017/11/21 | CLM諸国の保険市場動向-最近の各市場における変化を中心として- | 平賀 富一 | 保険・年金フォーカス |
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