- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 財政・税制 >
- 日本型軽減税率制度~世帯ごとの還付金は?
(日本型軽減税率制度とは?)
現在の消費税率8%は2017年4月に10%まで引き上げられる予定であり、消費者は増税の2%分、負担が重くなる。その負担分の軽減措置として「日本型軽減税率制度」と呼ばれる案が財務省から提案された。各紙の報道によると、お店などで10%の消費税を支払った後に、増税分の2%を後から還付するという。
買い物の際にマイナンバーカードを提示すると、2%増税分の金額がデータセンターに蓄積され、インターネット等を通じて申請を行えば、事前に登録した口座に振り込まれる。対象品目は生活必需品である「酒類を除く飲食料品」としているほか、所得制限はなく、還付金には限度額を設け、4000円程度とされている。つまり、還付金が4000円となる最低の年間支出の金額は22万(税込)となる。仮に、1年間で税抜き20万円の飲料食品を購入すれば、消費税の10%(2万円)を加えた22万円を支払い、後から消費税10%(2万円)のうち払いすぎた2 %である4000円が消費者の手元に戻ってくる。22万円(税込)までの支出は実質8%の消費税負担のままとなり、22万円を超えた分は消費税10%を負担することになる。また、限度額は世帯で合算され、例えば夫婦と子ども2人の家庭であれば、1万6000円(4000円×4人)となる。
(各世帯における飲食料品の消費支出はどれくらいか)
総務省の家計調査(2014年)1を元に、酒類を除く飲食料品の年間支出を世帯ごとに試算し、還付の対象となる2%増税分の金額を算出した。まず、2人以上の世帯について年間収入の五分位階級別にみると、年間支出は一分位の64万円から五分位の107万円と開きがある。例えば、世帯数を3人(夫婦と子ども1人)とすると、低所得者である一分位の世帯の年間支出は66万円(22万円×3人)に達しないので、支出の全額に軽減措置が適用される(図表1)。2%増税分に占める還付金の比率を還付率と便宜的に呼ぶことにする。3人の世帯における還付率は、所得の増加に伴い低所得者の100%から低下していく(図表2)。一方、世帯人員が増えてくると、階級別に還付率の差は小さくなる。
単身世帯について年間収入の五分位階級別にみると、年間支出は一分位の38万円から五分位の69万円と開きがある。還付率は低所得者も60%未満にとどまる(図表3)。無職の高齢者世帯についても、単身や夫婦世帯に関わらず、還付率は60%程度となっている(図表4)。
以上から、支払った増税分が全額還付される世帯は、子どものいる低所得者世帯や子どもをたくさん持つ世帯に限られる。単身世帯については、低所得者の還付率でも60%未満となっており、逆進性の緩和に十分寄与していないといえる。
(制度設計の問題点)
日本型軽減税率制度は、すでに識者などから制度設計の問題点が数多く指摘されている。全国各地の小売店へのマイナンバーカード読み取り機器の導入やデータセンターの開発といったコスト問題に始まり、個人情報の漏洩を防ぐセキュリティ管理、マイナンバーカードの携帯や支払い時の提示などの利便性の問題などである。
将来的には日本でも消費税率10%以上への引き上げもありえよう。消費税の問題とされている低所得者への逆進性に日本型軽減税率制度が寄与しなくては、この先の消費税率引き上げに国民の理解は到底得られない。技術的な問題も山積しているが、逆進性対策に真に寄与する制度設計になるかが極めて重要なポイントだ。
(2015年09月15日「研究員の眼」)
白波瀨 康雄
研究・専門分野
白波瀨 康雄のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2019/04/05 | 都道府県別にみたホテルの稼働率予測ーインバウンド拡大に伴う建設が進み、一部地域では供給過剰も | 白波瀨 康雄 | 基礎研マンスリー |
2019/02/18 | 都道府県別にみた宿泊施設の稼働率予測~インバウンド拡大に伴うホテル建設が進み、一部地域では供給過剰も~ | 白波瀨 康雄 | 基礎研レポート |
2019/01/29 | 広がる物価の世代間格差~先行きは消費税率引き上げに伴い一段と拡大~ | 白波瀨 康雄 | 研究員の眼 |
2018/12/12 | 企業物価指数(2018年11月)~石油製品の下落を受けて前月比で8ヵ月ぶりの下落~ | 白波瀨 康雄 | 経済・金融フラッシュ |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年09月17日
今週のレポート・コラムまとめ【9/10-9/13発行分】 -
2024年09月13日
ECB政策理事会-予想通り利下げ、今後は引き続きデータ次第 -
2024年09月13日
自動車保険料率の引き上げに向けた動き-自動車保険と傷害保険の参考純率の改定 -
2024年09月13日
インド消費者物価(24年8月)~8月のCPI上昇率は小幅上昇も2ヵ月連続で物価目標を下回る -
2024年09月12日
外国株式ファンドが一時、売却超過に~2024年8月の投信動向~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
【日本型軽減税率制度~世帯ごとの還付金は?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
日本型軽減税率制度~世帯ごとの還付金は?のレポート Topへ