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日本の格差問題を考える-ピケティ著『21世紀の資本』からの示唆
土堤内 昭雄
■はじめに
トマ・ピケティ著『21世紀の資本』(みすず書房、2014年12月)が大きな話題になっている。長期にわたる経済データを駆使し、資本主義の進展と経済格差の関係を実証した700ページを超える大著である。アメリカで一躍ベストセラーになり、日本でも昨年12月の発売以来、6千円近い価格にもかかわらず、書店で平積みされるほどの人気ぶりだ。今、日本でこの本が注目される理由はいったい何だろう。
幸福度に関する研究で、『幸福のパラドクス』という説がある。「国民の幸福度は経済成長とともに高まるが、一定の水準を超えると相関関係がなくなる」というものだ。これは人間の主観的幸福度が、先進国では絶対的な生活水準だけでなく、相対的な社会生活環境に影響されるからである。
日本では80年代以降、一人当たり実質GDPが伸びているにも関わらず、国民の生活満足度は低下もしくは横ばい状態だ。60~70年代の高度経済成長期の日本は、現在に比べて生活水準は低かったが、「一億総中流社会」と言われた格差の小さな社会だった。しかし、その後に生活格差が拡がったことが、国民の生活満足度の低下をもたらしたひとつの要因になっているのではないだろうか。
ピケティは20カ国以上におよぶ経済データを収集・分析し、世界中で拡大する経済格差の状況を明らかにしたが、「格差」の様相は国ごとに異なる。社会が成熟すれば、当然、様々な「格差」が生じるが、それが正当な事由に基づき、大きな社会的不平等を惹起しなければ問題ないだろう。しかし、超富裕層が増えたアメリカの反格差運動“We are the 99%”に象徴されるように、多くの人々が資本主義による極端な富の偏在がもたらす“不平等”に疑問を感じているのである。
日本では、上位1%の富裕層の所得は全体の1割程度で、その格差はあまり顕著ではない。しかし、相対的貧困率は上昇し、貧困の拡大が進んでいる。また、国民の生活意識をみると、「苦しい」と感じる人が増加している。多くの人が自らを中流と意識していた時代から、中間層が衰退する時代を迎え、日々の生活に不安を覚える人々が増えつつあることが、「格差」が注目される理由ではないだろうか。
ピケティは、資本主義が格差を発生するメカニズムとしてr(資本収益率)>g(経済成長率)という仮説を提唱して、格差是正のためのグローバルな累進的資本課税の必要性を主張したが、日本の格差問題を考える上での示唆も多い。本稿は、ピケティの発するメッセージを踏まえ、今日、注目される日本の格差問題の現状と背景および課題を探り、問題解決の方向性を検討するものである。
土堤内 昭雄
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(2015年02月27日「基礎研レポート」)
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