- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 「拡大」から「縮小」への都市戦略-“オリンピック・レガシー”活かす住宅・まちづくり
近年の五輪開催にあたり重視されるのが、オリンピック・レガシーだ。オリンピック・レガシーとは、五輪開催都市や開催国が長期にわたり継承・享受できるオリンピックの社会的・経済的・文化的恩恵のことである。
2020年東京五輪の立候補ファイルにも『ビジョン、レガシー及びコミュニケーション』という項目があり、『包括的な一連の物理的、社会的、環境的、国際的なオリンピック・レガシーの取組が、2020年大会の東京開催から生まれる』と記載されている。
64年のオリンピック当時、日本は高度経済成長の中にあり、当時建設された都市インフラはその後の日本の経済成長の基盤となった。2020年五輪は64年大会のレガシーである既存施設を有効活用し、コンパクトな大会を目指している。前回の五輪から半世紀が経過して社会経済環境も大きく変化した今日、2020年五輪が新たに創造するオリンピック・レガシーとはどのようなものだろう。
昨年10月、舛添要一東京都知事が2020年東京五輪・パラリンピックのために、2012年の五輪開催都市ロンドンを視察した。視察目的のひとつは、オリンピックで使用された様々な競技施設が大会後にどのように活かされているか、オリンピック・レガシーの最新の状況を把握することだった。
ロンドンでは、東京の新国立競技場と同じ設計者が手がけた水泳場(アクアティクス・センター)が、今年3月、大会中の17,500名の観客席を2,500名の規模に縮小して再オープンした。オリンピック・スタジアムも8万席から54,000席に改修して2016年に再オープンする予定だ。こうして施設の利用実態の適正化を図り、維持管理コストを低減、オリンピック・レガシーの継承を目指しているのだ。
2020年東京五輪においても、施設整備費を削減し、大会後の維持管理コストを低減するため、既存施設の代替によるバスケットボール会場など3施設の建設中止や仮設建築物の採用が決まっている。また、水泳場やホッケー場などは、ロンドン大会と同様、大会後に観客席を大幅に縮小する「減築」が計画に盛り込まれている。大会後に「負の遺産」を残さないように競技施設をあらかじめ「減築」するという計画は、前回の64年大会当時には見られなかった手法ではないだろうか。
重要な都市戦略のひとつである住宅づくりも、人口増加から人口減少へと新たな局面を迎えている。日本では空き家率が上昇しているが、これは主に世帯構造と住宅がミスマッチを起こしているからだ。世帯人員が縮小する時代に、部屋数の多い家は住みづらく、維持管理も大変だ。世帯規模に合わせて「減築」するなど、縮小する住宅計画が必要になっているのである。
今や人口減少時代の住宅・まちづくりには、縮小政策が不可欠だ。近年、建築でもライフサイクルマネジメントが注目されている。建築ストックの時代には、単に建物の維持保全や老朽化に伴う建て替えを行うだけでなく、社会環境の変化に対応して、建築の竣工から解体に至るまでの適切なマネジメントが必要なのだ。
人間も痩せれば洋服を体にフィットするようにリフォームするが、住宅やまちも人口規模に合わせてリニューアルすることが重要だ。
従来の「成長=拡大」一辺倒から、「成熟=縮小」も選択肢に含めた政策フレームの転換が求められる。2020年五輪に向けた“オリンピック・レガシー”を活かした住宅・まちづくりは、人口減少時代の「拡大」から「縮小」への新たな都市戦略の試金石になるのではないだろうか。
(2015年02月06日「基礎研マンスリー」)
このレポートの関連カテゴリ
土堤内 昭雄
研究・専門分野
土堤内 昭雄のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2018/12/20 | 「定年退社」します!-「生涯現役」という人生の「道楽」 | 土堤内 昭雄 | 研究員の眼 |
2018/11/28 | 「人生100年時代」の暮らし方-どう過ごす?! 定年後の「10万時間」 | 土堤内 昭雄 | 基礎研レポート |
2018/11/27 | 「平成」の30年を振り返って-次世代へのメッセージは、「レジリエントな社会づくり」 | 土堤内 昭雄 | 研究員の眼 |
2018/10/23 | 「幸せ」実感できぬ社会-豊かな時代のあらたな課題 | 土堤内 昭雄 | 研究員の眼 |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年10月04日
気候変動への耐久力を強化するために、保険を活用すること-欧州委員会における検討会の最終報告書の紹介 -
2024年10月04日
再保険に関する監督・規制を巡る最近の動向-資産集約型再保険の拡大とPE会社の保険セクターへの関与- -
2024年10月03日
暑さ指数(WBGT)と熱中症による搬送者数の関係 -
2024年10月03日
公的年金の制度見直しは一日にしてならず -
2024年10月03日
市場参加者の国債保有余力に関する論点
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
【「拡大」から「縮小」への都市戦略-“オリンピック・レガシー”活かす住宅・まちづくり】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「拡大」から「縮小」への都市戦略-“オリンピック・レガシー”活かす住宅・まちづくりのレポート Topへ