コラム
2014年12月08日

解散総選挙と万歳三唱-「大義」めぐる国民感情

土堤内 昭雄

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11月21日、衆議院が解散した。第47回衆議院議員総選挙が12月2日公示、14日に投開票される。解散の大義をめぐっては、さまざまな意見がある。来年10月に控えていた消費税率引き上げを1年半延期する以上は「国民の信」を問うべきだとする人、消費税率引き上げには「景気条項」があるのだから延期には「国民の信」を問うだけの大義はないとする人。新聞各社の社説の扱いもさまざまである。

今回の解散に当たっては、国民の中に『なぜ、この時期に解散総選挙なのか』と素朴に疑問を抱く人も多くいた。2年前に政権交代が起こり、あと2年の任期を残した時点で解散総選挙を行う大義をもっと丁寧に説明する必要があったのではないか。一般的な国民感情として、消費増税先送りによる財政再建や社会保障の行方に対する不安、そして解散総選挙に多くのデメリットも想定されるからだ。

例えば、安倍内閣の看板政策であった『女性の活躍』を推進するための「女性活躍推進法案」はじめ数々の重要法案が廃案になった。これまでに費やした時間、労力、コストの損失は決して少なくない。また、選挙には多額の国費が必要だ。政府は今年度の予備費から632億円ほどの選挙費用支出を閣議決定した。消費税率引き上げ先送りのため、「待機児童解消加速化プラン」の実現にも赤信号が点り始めている。これだけの財源があれば、少しでも少子化対策が進められるのではないかと多くの国民の目には映ってしまう。選挙が景気刺激のための形を変えたムダな公共事業であってはならないのだ。

衆議院の解散時には議長が解散詔書を読み上げた直後、議場には「万歳三唱」が起こる。以前から、なぜ解散時に「万歳三唱」するのか不思議に思っていたが、現下の経済社会情勢において、「万歳三唱」する国会議員の姿に違和感を覚えるのは私だけだろうか。東日本大震災からの復興、原発事故の収束に向けて多くの人が大変苦労する中、来年度予算の編成を控えた年末に1ヶ月近い政治の空白期間が生じるのだ。私には解散に際して「万歳三唱」という感覚がよくわからないが、議員の中にも与野党を問わず、解散どころではないと「万歳三唱」を控えた人もいたという。

議員の重要な資質のひとつは、国民感情にいかに寄り添えるかだ。民主主義の遂行には時間と労力とコストが掛かることはやむを得ないが、財政健全化のためにはわずかな歳出のムダも減らす努力が必要だという意識が不可欠だ。国語辞典には「万歳」とは、『祝福の意を表すために両手をあげて唱える語』とあるが、『転じて、お手上げの状態』(広辞苑)とも書かれている。今回の消費増税先送りを大義とした解散の「万歳」が、財政再建に向けて『お手上げの状態』の意味でないことを願うばかりだ。

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土堤内 昭雄

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