- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- ジェロントロジー(高齢社会総合研究) >
- 高齢者の医療・介護 >
- 救急車から見えた高齢社会・日本-“おひとりさま時代”の安全・安心ネット、どうつくる
私は今年になってから、2回救急車の出動要請をした。同居する高齢の母親が倒れたからだ。いずれの場合も、119番通報から10分ほどで救急車が到着、救急隊員の応急処置後、収容先の病院探しが始まった。しかし、休日や夜間ということもあり、なかなか受容れ先が見つからなかった。ようやく搬送先が決まっても、自宅からかなり離れた場所で、病院に到着したのは、救急要請から2時間近く経っていた。救急車が1分1秒を争って駆けつけても、実際に搬送先の病院に到着するには、相当の時間がかかるのだ。それだけ救急患者が多数発生しているということだろうか。
総務省消防庁の「平成25年版 救急・救助の現況」(平成25年12月)によると、平成24年中の救急車の出動件数は約580万件、搬送人員は約525万人と過去最多だ。救急車は約5.4秒ごとに出動し、国民の24人に一人が搬送されているのである。出動件数のうち約6割は「急病」、次いで「一般負傷」で、ともに増加している。搬送人員は高齢者が53.1%と過半数を占め、その割合が毎年上昇し、傷病程度は「軽傷」がほぼ半数と最も多い。救急車の現場到着所要時間は全国平均で8.3分、病院等収容までの所要時間は38.7分で、いずれも管外搬送人員の増加などにより長くなる傾向が見られるという。
最近では本当によく救急車を見かけるようになったが、このように出動件数が増加した要因として、全国767の消防本部の75.1%が「高齢の傷病者の増加」を挙げている。安易な出動要請は厳に慎むべきだが、一人暮らしの高齢者が著しく増えた結果、そのようなお年寄りは、緊急時に他に対応する手段が見当たらないことも事実だろう。同居家族がいれば、自宅で様子をみるのか救急車を呼ぶのかなど、ある程度の判断もできる。また、コミュニティの見守り機能があれば、地域内での異なる対処も可能かもしれない。救急車の出動要請増加の背景には、日本社会の高齢化の進展と単身世帯の急増という人口および世帯構造の変化が如実に反映されているのである。
私が住む市では、65歳以上の一人暮らしの高齢者を対象に、自宅に緊急通報装置を無料で設置する事業を行っている。民間事業者にも同様の有料サービスがある。今後、救急車を有効に活用するには、家族や地域、事業者や行政などによる多重の見守りネットワークの構築が必要である。私は母を運ぶ救急車に同乗して以降、その聞き慣れたサイレン音がとても他人事とは思えなくなった。超高齢社会を迎える日本で、だれもが最期まで安心して歳を重ねてゆくためには、“おひとりさま時代”の安全・安心ネットをどうつくるのか、それが極めて喫緊の課題だと思われる。
(2014年07月28日「研究員の眼」)
土堤内 昭雄
研究・専門分野
土堤内 昭雄のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2018/12/20 | 「定年退社」します!-「生涯現役」という人生の「道楽」 | 土堤内 昭雄 | 研究員の眼 |
2018/11/28 | 「人生100年時代」の暮らし方-どう過ごす?! 定年後の「10万時間」 | 土堤内 昭雄 | 基礎研レポート |
2018/11/27 | 「平成」の30年を振り返って-次世代へのメッセージは、「レジリエントな社会づくり」 | 土堤内 昭雄 | 研究員の眼 |
2018/10/23 | 「幸せ」実感できぬ社会-豊かな時代のあらたな課題 | 土堤内 昭雄 | 研究員の眼 |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年10月04日
気候変動への耐久力を強化するために、保険を活用すること-欧州委員会における検討会の最終報告書の紹介 -
2024年10月04日
再保険に関する監督・規制を巡る最近の動向-資産集約型再保険の拡大とPE会社の保険セクターへの関与- -
2024年10月03日
暑さ指数(WBGT)と熱中症による搬送者数の関係 -
2024年10月03日
公的年金の制度見直しは一日にしてならず -
2024年10月03日
市場参加者の国債保有余力に関する論点
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
【救急車から見えた高齢社会・日本-“おひとりさま時代”の安全・安心ネット、どうつくる】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
救急車から見えた高齢社会・日本-“おひとりさま時代”の安全・安心ネット、どうつくるのレポート Topへ