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- Aクラスビル賃料上昇でオフィス市場は本格回復へ-不動産クォータリー・レビュー2014年第1四半期
2014年第1四半期の不動産市場は、公示地価の上昇地点の増加、Aクラスオフィスの賃料上昇、訪日外客数の増加によるホテル高稼働、物流施設への強い需要など、好調を示すデータが多く見られた。一方で分譲住宅については消費税率引き上げによる駆け込み需要の反動が既に出始めている。
1―住宅市場
2014年3月の新設住宅着工戸数は、前年同月比▲2.9%となり19ヶ月ぶりにマイナスに転じた。また、2月および3月の首都圏マンション新規発売戸数は、各月とも前年同月比で減少となった。住宅市場は、消費税引上げによる駆け込み需要の反動が現れてきている。
建築工事費が右肩上がりに上昇する中、それが価格に影響する新築マンションから中古マンションに関心を移すユーザーも少なくない。中古マンションの取引は増加傾向となっており、東日本不動産流通機構がまとめた2014年第1四半期の首都圏中古マンションの成約件数は9,993件(前年同期比3.4%増)で、10期連続で前年同期比を上回った。
2―地価動向
3月18日に公表された地価公示では、全国全用途が▲0.6%と引き続き下落したものの下落率は縮小し上昇地点が顕著に増加した。三大都市圏では住宅地、商業地ともに2008年以来のプラスに転じ、51.3%の地点が上昇した。しかしながら、地方圏では76.1%の地点で下落しており、全国の上昇地点割合は、住宅地、商業地とも2007年および2008年の水準には達していない(図表1)。東京圏で上昇率が高かった商業地は、新規開発エリアの川崎駅、武蔵小杉駅周辺、高額消費が好調であった銀座などであった。住宅地については、東京都中央区勝どき、佃、月島などでオリンピック効果による湾岸エリアの地価上昇が顕在化した。
3―不動産サブセクターの動向
1│オフィス
東京のオフィス市場は、拡張移転の動きが継続、空室率は低下基調となっている。三幸エステートによれば、東京23区では2014年第1四半期は各規模別ですべて空室率が低下した。これまで空室を埋めるため賃料が抑制されてきた面が強かったが、まだら模様ながら賃料上昇が見え始めている。同社とニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料データに基づくオフィスレント・インデックスによると、「東京都心部・Aクラスビル」の賃料は、29,482円/坪、前期比6.1%と2四半期連続で上昇し本格回復に向かっている(図表2)。それより標準的なグループといえる「都心3区・大規模」では需給バランスの改善は進んでいるものの、その動きはAクラスに比べ緩やかなペースにとどまっていて賃料回復が遅れている。三鬼商事によれば東京ビジネス地区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)では新築ビルの賃料上昇が著しい。BCP対応等にも配慮した質の高い新築ビルへの需要が新規賃料の上昇を支えながら、市場は本格回復に向かうとみられる。賃貸市況の改善は地方主要都市でも生じており、札幌を除く主要都市で空室率の改善が見られた。
2│商業施設
商業販売統計によると、2014年3月の小売業販売額は前年同月比8.6%(速報)で、11ケ月連続で増加した。業態別では、百貨店(既存店)が特出しており前年比25.3%、スーパー(既存店)が11.1%、コンビニエンスストア(既存店)が2.8%の増加となり消費税引上げを控えた需要の高まりが顕著に見られた。駆け込み需要の反動が予想される4月以降の数値が着目される。
3│ホテル
訪日外国人客数は、12年以降増加基調が続き13年は年間1,000万人を超える記録となった。14年に入ってからも増加基調が続いており、第1四半期は前年同期比27.5%増であった。特に3月は105.1万人となり、3月としてこれまで最高だった13年の85.7万人を大幅に上回っただけでなく、単月としても過去最高を記録した(図表3)。13年に引き続き円安、LLCの普及、東南アジアでのビザ緩和効果が好調を支えるとともに、1~3月は中国の春節休暇、桜シーズン向け訪日旅行プロモーションによる後押しもあった。これを受け全国のホテルでは2013年と同水準の高い稼動を達成、投資対象としてもホテルセクターへの注目は高まっている。
4│物流施設
仲介会社のシービーアールイーによると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設は、2014年第1四半期に新規稼動物件が5物件あったが、四半期では過去最高の新規需要9.6万坪により空室率の上昇は0.5%に収まり4.5%の低水準となった。
4―J-REIT(不動産投信)・不動産投資市場
2014年第1四半期の東証REIT指数(配当除き)は、概ね1,400ポイント台後半の狭いレンジで推移した。市場の騰落率は前年末比▲3.3%となったものの、東証株価指数(▲7.6%)や不動産セクター(▲18.9%)と比べて下落率は小幅にとどまる。3月末時点の時価総額は7.6兆円、分配金利回りは3.8%(対10年国債スプレッド3.2%)となった。
J-REITによる第1四半期の物件取得額(引渡しベース)は4,323億円で、過去最高を記録した昨年第1四半期との対比では大幅減となったものの、2007年当時に匹敵する高い水準を維持した。2/7にヒューリックリート投資法人が21物件・1,014億円、4/24に45社目となる日本リート投資法人が20物件・704億円で上場し、アセットタイプの裾野が着実に広がっている。
不動産投資市場は引き続き取引が活発であった。企業や私募ファンドによる物件売却が多く、比較的短期の保有での売却も見られた。日経不動産マーケット情報によれば取引件数は前年同期とほぼ同水準であった。価格上昇と取引物件の払底が懸念されるものの、物件取得の勢いが衰えなかった。
(2014年06月06日「基礎研マンスリー」)
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