コラム
2014年05月12日

砂漠の国のジレンマ-「油」も「水」も大切に使う“循環型社会”

土堤内 昭雄

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先日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ首長国を訪れた。ドバイはUAEの中ではアブダビに次いで広い国だが、石油の埋蔵量は少なく、2037年には枯渇するといわれている。そこでドバイでは、30年以上前から、石油依存の産油国から脱却して、観光立国を目指してきたのだ。しかし、目立った観光資源もないことから、当面潤沢な石油資源を元手に海外投資を呼び込み、積極的に話題性のある観光開発を行い、世界の注目を集めるような観光施設づくりを進めてきたのである。

こうしてできたのが、地上828メートル、160階建ての世界一の超高層ビル「ブルジュ・ハリファ」や椰子の樹形をした世界最大の人工島「パーム・ジュメイラ」、1200の店舗が入る世界一巨大なショッピングセンター「ドバイ・モール」、世界最大の屋内スキー場「スキー・ドバイ」などである。そして多数の高級リゾートホテルが林立し、さまざまな世界一の人工物が世界中から観光客を集めている。

その結果、ドバイを訪れる外国人観光客は、2012年には1,016万人となり、ホテル業の営業収入は年間5,100億円にも上り、多くの外貨を稼ぎ出し、観光立国として存在感を増している。2020年には中東で初めてとなる万国博覧会も開催される。しかし、真夏には50度にもなる気候の中、多くの巨大なビル群の冷房のために、また街の緑を維持する淡水を海水からつくるために、多くのエネルギーとコストを費やしている。つまり砂漠の国ドバイは、脱石油を標榜しながら、観光立国を維持・発展させるため大量の石油に依存しなければならないという、ジレンマを抱えているのである。

私は太陽が傾きかけた頃、砂漠ツアーに出かけた。それは月の砂漠を「らくだ」に乗ってゆらゆらと歩くのではなく、4WDのランドクルーザーで砂漠を縦横無尽に駆け回る“デザートサファリ”だ。確かに気分爽快な魅力的なアトラクションだが、ガソリンを大量に消費する。ドバイでは豊富な石油のおかげでガソリン代やタクシー代は非常に安く、戸外が暑いことからほとんどの移動に車を使う。石油が豊富な国では、『湯水の如く』使える「油」の恩恵を実感することが少ないのかもしれない。

空港を飛び立った飛行機から見るアラビア半島の砂漠には、日本の現代社会を支える原油が大量に眠っている。それは日本社会の生命線と言ってもいい。一方、成田空港に着陸する機体からは、眼下に広がる美しい緑が見え、そこには豊かな「水」がある。今日の暮らしには「油」も「水」も不可欠だが、砂漠の国の「水」は「油」以上に貴重かもしれない。日本は「水」の恩恵を実感していないとドバイの人に言われないためにも、われわれは「油」も「水」も大切に使う“循環型社会”を目指さなければならない。




 
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(2014年05月12日「研究員の眼」)

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