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- 日本企業の不祥事10年周期説-不可欠な経営トップのリスク感度
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やはり、企業とはこのようなものかと考えてしまう。今年になって、様々な業種・業態の企業による不祥事が相次いで発覚した。社長辞任も含め、経営陣が連日のように謝罪している。これらに共通する特徴は、経営陣が問題への適切な対応を怠った“不作為型“ないし”放置型”の不祥事である。
それぞれ背景や状況は異なるものの、消費者の信頼を裏切り、自ら企業ブランドを毀損させたという意味では同根である。お客の想いを蔑ろにして、利益優先の企業体質と指弾されても仕方なかろう。
内部関係者でないと分からない事案も多く、不祥事発覚は内部告発の可能性が高い。企業側の要因については、社員のモラル低下とともに組織の縦割りによる情報途絶や見て見ぬふりの企業風土、そして経営陣のリスク感度の低さが指摘されている。一方、公正な業務慣行に対する社会全体の意識変化があり、「これまでは問題なかった」は通用しない。
さて、記憶にある方も多いと思うが、10年ほど前にもブランド企業の不正行為が相次いで発覚した。乳製品の食中毒、食品会社の産地偽装、電力会社の原発トラブル隠し、総合商社のデータ捏造などである。厳しい批判を受け、また他の要因も加わって、2003年は「日本のCSR経営元年」となった。
戦後の産業史を振り返ると、日本企業はほぼ10年ごとに不祥事と反省・自戒を繰り返してきた。1960年代には公害に対する企業性悪説が噴出し、1970年代には石油ショック後の利益至上主義批判、1980年代には総会屋事件、1990年代にはバブル崩壊後の証券会社の損失補填、建設業の談合、不正経理による証券会社破綻などが続出した※。そのたびにCSRの社会的論議が大きく湧き上がるのだが、企業の緊張感は10年しかもたないということか。
今般の一連の不祥事ではCSRという言葉をあまり聞かないが、謝罪している企業のホームページにはCSRの“基盤”である法令順守や企業統治が明記されている。そもそも法令順守とは、ハードロー(既成法令)だけでなく、ソフトロー(社会規範)を犯すリスクも未然に防ぐことである。企業統治とは、ISO26000(CSRの国際標準)では、社会的責任を果たすための経営レベルの意思決定プロセスを意味し、透明性や説明責任が問われる。それゆえ、経営陣の「知らなかったこと」あるいは「知ってて行動しなかったこと」の責任は重く、これに的確に対応できる統治の仕組みの構築が急務である。
今後、事業のグローバル展開が進めば、企業倫理はもとより、サプライチェーンを含めて人権・労働や汚染の問題を中心にCSRリスクはさらに高まる。それには経営トップの高いリスク感度が不可欠であり、外部の視点を取り入れて本気で取り組めば必ず克服できるはずである。期待したい。
◆ ◆ ◆
「企業不祥事が後を絶たず、本来は企業と社会の相乗発展をめざすべきCSRが、依然として不祥事防止を中心に語られている現状はきわめて遺憾である。」
(経済同友会「日本企業のCSR:進捗と展望」自己評価レポート2006より)
(2013年11月15日「研究員の眼」)
川村 雅彦
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