コラム
2013年11月05日

次世代育成の社会保障改革を! - 世代間と世代内の格差解消に向けて

土堤内 昭雄

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今年10月、厚生労働省が「平成23年所得再分配調査報告書」を公表した。それによると世帯単位でみた平均当初所得額(年額)(1)は404.7万円、平均再分配所得(2)は486.0万円と、3年前の前回調査と比べて9.1%、6.2%それぞれ減少した。格差を表わすジニ係数(3)は、当初所得0.5536、再分配所得0.3791と前回よりそれぞれ上昇し、格差は拡大した。但し、所得再分配によるジニ係数の改善度(4)は31.5%と前回の29.3%を上回っており、格差改善に資する社会保障と税の再分配効果は高まっている。

世帯主の年齢階級別に所得再分配係数(5)をみると、60歳未満の現役世代でマイナス、特に40代と50代後半でマイナス10%を超え、70歳以上では大幅にプラスだ。このように現役世代から高齢世代への所得移転により、近年の高齢化による格差は改善されている。しかし、高齢世代が増加し現役世代が減少する人口構造変化の中、社会保障による大きな格差改善効果をいつまで期待できるだろう。

世代間扶助による社会保障制度が持続可能であるためには、増える高齢者の世代内相互扶助による給付の効率化、および支える側の若年世代への支援強化が不可欠だ。例えば、再分配係数の比較的小さな40歳未満の若年世代、特に子育てする現役世代の経済的負担を軽減するために、子どもの教育支援、待機児童の解消や子ども手当てなど少子化対策に社会保障の重点を置くべきではないだろうか。

政策分野別社会支出の対GDP比の国際比較をみても、日本は子ども手当、保育、育児休業給付等の「家族分野」が、ドイツ、フランス、スウェーデンなどと比べ著しく少ない。また、OECD報告書“OECD Education at a Glance 2013”によると、高等教育に対する私的支出割合は、OECD平均31.6%に対して日本65.6%と2倍以上に上る。日本では子どもを持つ現役世代の家計に、大学授業料などの高等教育費の負担が重くのしかかっていることがわかる。

現在、厚生労働省では育児休業中の所得補償を当初半年間に限り休業前賃金の半分から3分の2に引き上げることを検討している。消極的な男性の育児休業取得を促進する狙いがあるが、非正規雇用者がそこからこぼれ落ちては世代内格差の拡大につながりかねない。今回の調査結果でも、30歳未満の若年世代の当初所得、再分配所得のジニ係数は60歳未満の現役世代の中で最も高く、若者を中心にした非正規雇用の増加などによる若年世代の世代内格差が拡大しているのだ。若年世代への社会保障の充実は、雇用形態や世帯類型、性別などの個人属性で区別があってはならない。なぜなら、「子育て」は個人の営みでありながら、次世代育成という国の根幹に関わる普遍的課題であるからである。




 
(1) (所得)+(税金)+(社会保険料)
(2) (所得)+(年金・恩給)+(医療等)
(3) 「0~1」の範囲で格差を表す指標で「0」は完全平等、「1」は完全不平等
(4) 1-(再分配所得ジニ係数/当初所得ジニ係数)
(5) )(再分配所得-当初所得)/当初所得
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土堤内 昭雄

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