コラム
2013年08月26日

「消費」のために働くというライフスタイルを超えて -“幸せ”もたらす暮らし方

土堤内 昭雄

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先日、靴や鞄を扱う東京・表参道の高級ブランドショップに行った。素晴らしいデザインの靴が広々とした空間に並んでいる。靴の裏をみると、私のような中高年には拡大鏡がないと判読できないほど小さな数字で値段が書かれている。私が想定する靴の価格とは、どれもひと桁違っているようだ。

ひとりの女性客がソファにゆったり腰を下ろし、ひざまずく店員となにやら楽しそうに会話しながら靴選びをしていた。ここの靴一足の価格はとても高いが、お客は靴とともに、豪華な接客の雰囲気や特別な商品情報など、高い付加価値のついたサービスと満足感を購入しているのだろう。

消費行動はモノやサービスを手に入れるだけではなく、最も簡便に「承認欲求」を満たす方法でもある。特に欲しいものがなくても、人が買い物を好む理由のひとつだ。その意味において対面形式による消費行動への欲求は、たとえ欲しいモノやサービスがなくなっても消えることはないだろう。

さて、かつて消費は「家族消費」と言われるような、家族が共通して求めるモノやサービスに人気があった。今は「個人消費」が中心で、消費志向は多様で個別化している。そこでマーケティング業界は、消費行動をいくつかのセグメントに分け、それに“ライフスタイル”という名をつけて様々なモノとサービスを提供してきた。消費者が自分で選択したと思っているライフスタイルも、実はあるカテゴリーに分類された消費行動のパターンのひとつに過ぎないのかもしれない。

これまで人間の欲求を満たすのは「消費」が中心だと考えられてきた。そして欲しいモノやサービスを買うために人は働くと・・・。しかし、本当にそうだろうか。もっと自らが主体となるライフデザインはないのだろうか。「消費」というお金の“使い方”で欲求を満たすのではないライフスタイル、例えば、自然や地域と共生しながらゆったりと暮らすスローライフや、過剰な消費主義を捨てて、生きるペースを緩めた「ダウンシフター」(減速生活者) * *の暮らし方などである。

今、日本社会は過剰なほどモノやサービスが溢れている。ここで人間の根源的な欲求を満たすには、市場にデザインされた消費行動の類型に嵌め込まれながら「消費」のために働くという生き方ではなく、自分が選択した働き方そのものが満足の源泉となるような生き方が必要ではないだろうか。なぜなら、主体的に選択した働き方・生き方には、人間の“幸せ”につながる自己肯定感や達成感が内在しているからである。“「消費」のために働くというライフスタイル”を超えたところに、本当に豊かな時代の“幸せ”もたらす暮らし方があるように思う。




 
   「他人から認められたい」という感情
** 高坂勝『減速して生きる~ダウンシフターズ』(幻冬舎、2010年)

(2013年08月26日「研究員の眼」)

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