コラム
2013年07月12日

「どぼじょ」という人材ダイバーシティ - 拡がる土木系女子の活躍

川村 雅彦

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「どぼじょ」という言葉が静かに拡がっている。土木の世界で働く「土木系女子」の略称である。筆者は数ケ月前まで知らなかった。試しにウェブで検索してみると、なんと約29,000件ヒットした。かつて、“きつい、汚い、危険”の「3K」職場と言われた土木の現場にも、ヘルメットに作業着姿の若い女性の姿が増えているようだ。「土木系総合職」という表現もある。

大学や高専などで土木工学を学び、建設会社に就職した女性たちである。ダム、トンネル、橋梁、道路、堤防、港湾など都市インフラの工事現場の指揮(補佐)を執る「どぼじょ」たちは、東日本大震災の被災地復興でも活躍している。状況によっては、現場の宿舎に寝泊まりすることもあろう。

筆者が「どぼじょ」を知ったのは、たまたま立ち寄った書店で「ドボジョ!」というタイトルの漫画本が目に留まったからである。パラパラとめくると、建設現場の雰囲気が伝わり、絵もきれいで思わず買ってしまった。それもそのはず、作者は松本小夢という女性である。橋梁工事の現場で働く父の影響で建設機械に憧れ、家族には銀行に勤めていると偽り、建材店を経て建設会社に就職した主人公を軸に、土木・恋愛・友情・家族が絡み合ってストーリーが展開する。

実は、筆者もかつて土木の世界にいて、長年、海外の港湾やプラントの建設を担当した。40年位前に学んだ大学の土木学科には女子学生は“存在”せず、そういうものだと思っていた。しかし、今では「土木技術者女性の会」(会長:桑野玲子東大准教授)というのがあって、昨年6月には創立30周年記念「どぼく未来フォーラム」を開催している。他にも様々な「どぼじょの会」がある。

これまで男社会のイメージが強かった土木(現場)の世界も変貌しつつある。一口に土木と言っても、ハード中心の巨大構造物だけでなく、最近では景観やバリアフリー、あるいは省エネ・省資源などソフトな分野も幅広くカバーする。土木学会も「ダイバーシティ推進小委員会」を組成し、多様な人材育成のなかで女性技術者の養成にも積極的である。

インフラ建設に使命感をもち、土木を目指す理系女子学生は着実に増えている。ただ、現状では土木学会の女性正会員はまだ3%弱(女子学生会員を加えても4%強)。業界には、今後、女性を増やさないと優秀な人材を確保できないとの懸念もある。そのためには、受け入れのための体制や仕組みの拡充が不可欠である。また、土木が造るインフラや街を使う人の半分は女性であり、女性の視点や発想も必要である。これまでのように造る側が男性だけでは、いずれ限界が来よう。

(2013年07月12日「研究員の眼」)

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