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- ERMについての雑感 ~具体的には何をするのか~
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昨今、ERM (Enterprise Risk Management さしあたって統合リスク管理、としておく。)についてさまざまな方面から要請が高まっている。これは特に保険業界に限ったことではないらしいが、特に保険に関しては、国際的な監督基準とされる、IAIS(保険監督者国際機構)の採択した保険コアプリンシプルにもERMの推進や、リスクとソルベンシーの自己評価(ORSA)が盛り込まれており、各社において態勢整備が進んでいる最中と推測される。
「ERMとはこういったもので・・・」と、迷わず続けて説明できればいいのだが、実のところ筆者にはまだよくわからない。と、言ってしまうと格好がつかないので、さらに具体的なことを目下勉強中である、とでも言っておこう。実際、以下に挙げるような抽象的な定義からは、今ひとつ具体的なイメージが浮かんでこなくて困っている。
「ERMは事業体の取締役会、経営者、その他の組織内のすべてのものによって遂行され、事業体の戦略決定に適用され、事業体全体にわたって適用され、事業目的の達成に関する合理的な保証を与えるために事業体に影響を及ぼす発生可能な事業を識別し、事業体のリスク選好に応じてリスクの管理が実施できるように設計されたひとつのプロセスである。」
(米国・トレッドウェイ委員会支援組織委員会(COSO))
「リスクを全社的視点で合理的かつ最適な方法で管理してリターンを最大化することで、企業価値を高める活動」
(経済産業省 「先進企業から学ぶ事業リスクマネジメント実践テキスト」)
「企業価値を最大化するために、信用リスク、市場リスク、オペレーショナル・リスク、エコノミック・キャピタルおよびリスク移転を管理する包括的かつ統合的枠組みである。」
(ジェームズ・ラム「統合リスク管理入門」)
これらですべてわかったとするなら、話はおしまいであるが、さらに具体的な内容について理解しなければ、実践には結びつかないだろう。もちろん、ERMを解説した分厚い本では、ERMのフレームワークに関する詳細な記述とともに、具体的な各リスクの説明や管理手法などについても詳細が記載されている。
ところで、筆者は以前、とある会社で、ERMを構築していくための打ち合わせに参加していて、「収益性の向上」とか「リスク管理の高度化」とかいくつかの方策が挙がったところで「どの方策も目新しいものはないけど、どこにERMが入ってるの?」と尋ねたところ、誰も答えてくれなかった、という経験がある。それは、「そんな初歩的なことは事前に勉強しておけ」という意味だったのか、それとも、当時実は誰もよくわかっていなかったのか。
もちろんどちらとも思っていない。考えてみれば、わかっているつもりの、単なる「リスク管理」という言葉も、具体的な内容は膨大であって、一言で言い表せるようなものではなく、同様にERMについても、簡潔な定義をすれば、さきに挙げたような抽象的なものにならざるを得ないだろう。それに「ERMをやる」といっても、今までのリスク管理のなかで「まったくできていなかった」という項目は今や少ないのではあるまいか。
また例えば、保険数理に対してアクチュアリーという専門家がいるように、(といっていいのかどうか、)ERMに対しても国際的なERM資格があり(CERAと称するもの)、日本にもこのたび何名かの有資格者が登場したようだが、そうした人は当然、わかっている? いや、どうなのだろうか。筆者は日本アクチュアリー会の正会員ではあるが、だからといって、保険料をすぐ作成できたり、決算における準備金をすぐ計算できるわけでもない。それぞれの分野でさらに詳細な知識が必要であるし、具体的なデータの管理方法や社内システムにおける計算の流れ、社内外の規定や手続き、極端なところでは「しきたり」についても知る必要がある。
というわけで、ERMを実践するには、基本的な考え方や知識は当然必須だが、さらに具体的な事例について、ERMの有効性を認識し、社内外の対応をひとつひとつ積み上げていく必要があると思う。具体的な事例となると、当然各企業の「企業秘密」に近い部分もあろうかと思われるので、公表されたり、外部から調査できたりするものなのかどうかわからないが、ともあれ以下のような点をより具体的に知ることができれば、理解した気になるだろうか。
・(具体的な事例について)「単なるリスク管理」だと、何が不足していて、そのために将来どんな支障が出てくるのか。
・ERMを推進すると、何がどう変わり、どんな効能ないしはダメージの軽減になるのか。
・現在、ERMが進んでいるといわれる会社とそうでない会社は、どこが違うのか。業績にもそれは現れているのか。
・ERMによっていたなら、生命保険業界の(過去の)好ましからざる事象、例えば逆ザヤ問題、保険金不払問題などはどのようなプロセスで防ぐことができたのか。あるいは、ERMの限界をこえていたり、無関係だったりするのか。
そんなことに注意しながら、ERMの枠組みの中での具体的な業務の進化例を今後追っていき、理解をさらに深めていきたいと考えている。
(2013年05月15日「研究員の眼」)

03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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