- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 暮らし >
- ライフデザイン >
- 発想する力-「色彩を持たない題名」の魅力
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
私は毎週はじめにこのコラムを掲載しているのだが、いつも悩むのがどんなタイトルをつけるかだ。「名は体を表す」というように、コラムの内容を正確に読者に伝えるためには、どんなタイトルが相応しいのか。少しでも多くの人に読んでもらうには、読者の興味を引くキーワードは何かと知恵を絞る。特に、WEB時代の読者のアクセスは、ひとえにタイトルの訴求力にかかっているからである。
先日、阿川佐和子さんの『聞く力』(文春新書、2012年)を読んだ。書店の店頭で平積みされているベストセラーだ。最近では、このような『~する力』という直截的なタイトルの本をよく見かける。思い浮かぶだけでも、『選ぶ力』(五木寛之、文春新書、2012年)、『生きる力』(なかにし礼、講談社、2012年)、『断る力』(勝間和代、文春新書、2009年)、『話す力』(齊藤孝、大和書房、2008年)、『伝える力』(池上彰、PHPビジネス新書、2007年)など、多数の書籍がある。
これだけ『~する力』という書籍が売られているということは、そこに多くの人が興味を持っているということだ。どの題名もシンプルで訴求力があり、読者は思わず手が出てしまうのだろう。コラムを執筆する立場としては、『発想する力』という新刊書があれば、是非読んでみたいと思うのだが・・・。
さて、この大型連休を読書で過ごす人も多いだろう。先日発売された村上春樹さんの『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)は、発売前にはタイトルしか公表されていないにもかかわらず、初版が30万部、そして1週間で100万部が発行されたという。一見、意味不明な題名が妖しく輝き、読者の心を捉える。私も発売日の会社帰りに、全く中を読まずに購入してしまった。
物語は、「色彩を持たない」主人公・多崎つくるが、「色彩を持った」4人の友人をめぐる巡礼の旅をし、そこに灰色の人物や沙羅という恋人が登場する。「色彩を持たない」とはどういうことか、「多崎つくる」とはどんな人物か、「巡礼の年」とはリストのピアノ曲かなど、読む前からいろいろと思いを巡らす。読み進むにつれて、自分の抱いた疑問の答えが少しずつその輪郭を現す。そして、ジグソーパズルのピースが少しずつ組み合わさり、徐々に全体像が見えてくるのと同じような興奮を覚える。
村上作品は、本文にとどまらず、句読点やページの余白、行間からもその魅力が伝わってくる。さらに、私は作品全体の『発想する力』の迫力を感じる。コラムの場合、直截的なタイトルをつけることが多いが、村上作品は、『発想する力』の豊かさが、「色彩を持たない題名」の魅力を引き出し、最も鮮やかな色彩を放っているのかもしれない。連休中、「色彩求める巡礼」も亦、楽しからずや、である。
(2013年04月30日「研究員の眼」)
土堤内 昭雄
土堤内 昭雄のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2018/12/20 | 「定年退社」します!-「生涯現役」という人生の「道楽」 | 土堤内 昭雄 | 研究員の眼 |
2018/11/28 | 「人生100年時代」の暮らし方-どう過ごす?! 定年後の「10万時間」 | 土堤内 昭雄 | 基礎研レポート |
2018/11/27 | 「平成」の30年を振り返って-次世代へのメッセージは、「レジリエントな社会づくり」 | 土堤内 昭雄 | 研究員の眼 |
2018/10/23 | 「幸せ」実感できぬ社会-豊かな時代のあらたな課題 | 土堤内 昭雄 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年03月21日
東南アジア経済の見通し~景気は堅調維持、米通商政策が下振れリスクに -
2025年03月21日
勤務間インターバル制度は日本に定着するのか?~労働時間の適正化と「働きたい人が働ける環境」のバランスを考える~ -
2025年03月21日
医療DXの現状 -
2025年03月21日
英国雇用関連統計(25年2月)-給与(中央値)伸び率は5.0%まで低下 -
2025年03月21日
宇宙天気現象に関するリスク-太陽フレアなどのピークに入っている今日この頃
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【発想する力-「色彩を持たない題名」の魅力】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
発想する力-「色彩を持たない題名」の魅力のレポート Topへ