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- J-REIT市場 3本の柱~「資産運用」「不動産投資市場」「都市ストック」のアンカー役としての責任~
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経済再生を目指して「大胆な金融緩和」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の3本の矢からなるアベノミクスは、それまで冷え切っていた金融市場のマインドを鮮やかに一新し、円安・株高への大転換を導いた。第1の矢である「大胆な金融緩和」は、2年間で2倍のお金を市場に流す「異次元緩和」に昇格し、成否の鍵を握る3本目の「成長戦略」は、6月にもその全貌が明らかになる。そして、このアベノミクスの恩恵に最もあずかった金融商品は、J-REIT(不動産投資信託)市場であろう。市場全体の値動きを示す東証REIT指数は年初より約50%上昇し、市場時価総額は過去最高の7.2兆円に拡大した。良好な金融環境を追い風にJ-REITによる物件取得額はこの1月からだけで既に1兆円に迫り、旧政権下で策定された「2020年までにJ-REIT市場の資産規模を倍増する目標」を前倒しで達成できる勢いである。
ただ、実体経済や不動産市況の回復を先取りし期待先行型で上昇する市場には、常にバブルの懸念がつきまとう。また、市場ボラティリティの上昇や運用規律の緩みといった副作用にも注意しなければならない。では、アベノミクス効果だけに頼らず、市場の持続的成長を実現するには何が大切なのか。基本に立ち返り、改めてJ-REIT市場の存在意義を考えてみると、次の3つの社会的役割が浮かび上がる。
第1に、不動産収益を分配金として投資家に還元する役割である。J-REIT市場の創設により、全ての投資家が不動産ポートフォリオ運用にアクセスし、安定したインカム利回りを享受できる環境がはじめて整った。そして、10年超の期間を経て、商品認知度は個人投資家にも着実に浸透し広がっている。しかし、J-REITが株式や債券などと並ぶ国民的金融商品の地位を占めるかと言えば、現状はほど遠い。折しも、来年から個人の自助努力による資産形成を促す少額投資非課税制度(日本版ISA)がスタートする。市場関係者は投資家の裾野を広げて長期資金を呼び込むまたとない機会と捉えて、J-REITの普及活動に一層力をこめる必要がある。
第2に、不動産投資市場にリスクマネーを供給する役割である。J-REIT市場が金融と不動産の結節点となり、円滑な資金循環を促して不動産投資市場の活性化・安定化を支える責務だ。市場全体でこれまで約10兆円の収益不動産を取得し、足もとではさらに弾みがついている。しかし課題は、市場環境が悪化し逆回転を始めた時であろう。順風な時こそ財務基盤を強化し、不動産サイクルを意識した物件の選別や取得タイミングの分散など、過去の教訓に学ぶ姿勢が求められる。
第3に、都市ストックを強化する役割である。施設や設備の計画的な改修により建物の耐震・環境性能の向上や長寿命化を図る。テナントや施設利用者に対するソフト・サービスの充実を通じて、安全で快適な空間と利便性の高い機能を提供する。その結果、運用物件がテナントに選ばれる「J-REITブランドの確立」が、不動産オーナーとしての最終目標になるのではないか。
前回の不動産ミニバブル期においてJ-REIT市場は急成長を遂げたが、その後機能不全に陥り政府の救済を仰いだことを忘れてはならない。「3本の柱が立つと物は安定する」、「前回の失敗を生かす」、アベノミクスとJ-REIT市場に共通する言葉だろう。J-REIT市場が3つの社会的役割を大切に守り、「資産運用」「不動産投資市場」「都市ストック」のアンカー役として責任を果たすことに期待したい。
(2013年04月24日「研究員の眼」)
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03-3512-1858
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
岩佐 浩人のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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