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先月末、中国の北京市に出張で赴く機会があった。北京に到着した日は大気汚染物質PM2.5の指数値が比較的高く、まさに宿泊先の道路向こうのビルが霞んで見えるほどであった。
政府関係の知人のもとにヒアリングに行った際も、挨拶はまず北京の空気の話から始まった。日本への滞在経験がある彼は「東京の青い空がなつかしい。」とぽつりと呟いた。そして、ちょうど滞在した期間に発せられた「「美しい国、日本」というフレーズを覚えている?」と。
中国は昨年11月に胡錦涛氏から習近平氏に共産党のトップである総書記のバトンが引き継がれた。その際、胡政権下のこれまでの成果と今後の方針を示す「18大報告」iが発表された。その中で、今後の方針として、経済、政治、文化の重要項目とともに、初めて独立した形で盛り込まれたのが「美しい中国」の建設である。
「美しい中国」の建設には発展方法の指針として「グリーン発展、循環型発展、低炭素発展の推進」を掲げており、環境政策の重要度が政治や経済と同等のレベルまで引き上げられたことを意味している。5年前の17大報告でも環境政策として「エコ文明」として提起されたが、政府はその重要性の背景として、資源の対外依存の増加や慢性的な水不足、耕地の減少に加えて、深刻化する環境汚染や頻発する自然災害を挙げており、自然を尊重し、自然に順応し、保護するといった国民の自然に対する考え方や意識の変革も必要とした。
翻って、中国のトップ交代に遅れること1ヶ月、日本ではかつて「美しい国」iiを提起した第二次安倍内閣が発足した。奇しくも2006年、今般の2012年といずれも日本と中国の関係が冷え込んでいる時期にバトンを引き継いだ政権である。思い返してみると、2005年に冷え込んだ日中関係の「雪解け」となったのが、翌年10月に日本側が最初の外遊先として中国を選び、戦略的互恵関係を目指すことで合意した点にある。2008年5月には「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明iii が発出され、「双方は、長期にわたる平和及び友好のための協力が日中両国にとって唯一の選択であるとの認識で一致」している。また、その直後に四川省で発生した大地震においては、国際緊急援助隊が海外の救援隊として最初に現場に駆けつけ、懸命な救助活動や、彼らの被災者1人1人の命を尊ぶ「美しい日本」の姿が度々報道され、中国に多くの感動をもたらしたのも事実である。
報道によると、先日、中国の大気汚染をめぐる日中両国の協議がもたれ、引き続き大気汚染抑制のための技術協力の推進や更なる協力の可能性を検討することで一致したという。また、日本側はPM2.5に関する技術と経験を蓄積しており、対策の策定や研究、人材育成の面での協力が想定できるとしている。習政権のスタートとともに深刻化した大気汚染問題。中国全土で環境問題による地域住民のデモが多発し、健康被害が深刻化している現状を前に、習政権にとって「美しい中国」の建設は政治的にも重要な課題である。昨今、両国間では領土問題等解決の難しい課題が横たわっているが、その一方で、大気汚染問題改善のための協力という同じ方向を向くことによって、「美しい国」同士の距離が縮まる1つのきっかけとなるかもしれない。
i 「中国共産党第18回全国代表大会」で行われた活動報告 ii 「美しい国づくり」プロジェクトにおいて、国家像として、「活力とチャンスと優しさに満ちあふれ、自律の精神を大事にする、世界に開かれた国」と提起された(内閣官房「美しい国づくり」推進室)。 iii http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/visit/0805_ks.html
(2013年02月25日「研究員の眼」)

03-3512-1784
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
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