コラム
2013年02月20日

グループホームの火災に寄せて -地域密着型サービスの安心と安全を支えるのは誰か

山梨 恵子

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「二度と起こしてはならない」との実践現場の思い虚しく、認知症グループホームの火災がまた繰り返されてしまった。

火災は、2月8日7時40分、長崎オランダ坂近くのグループホームで発生。火元は入居者の居室で、加湿器がショートした可能性が高いと報道されている。入居されていた女性4人の方が亡くなられるという痛ましい火災事故となった。

グループホームは、数ある介護サービスの中でも認知症介護を専門とする入居系のサービスである。介護保険制度のスタートとともに急速に普及し、現在、全国には1万2千ヶ所以上のホームがある。認知症になっても住み慣れた地域の中で暮らし続けることを支援する地域密着型のサービスとして、大きな期待が寄せられてきた。特別養護老人ホーム等の介護施設に比べると、ホームそのものの規模は小さい。定員5人~9人で構成されるユニットを2ユニットまでしか作れないという設置基準が設けられており、小規模で家庭的な生活環境と、馴染の関係の中での生活支援がグループホームの持ち味だ。

今回火災のあったホームでは、消防からの防火扉や避難経路の確保に関する指導が行われていたにも関わらず、改善されていなかったとの指摘もある。死者を出してしまった過去のグループホーム火災を振り返っても、スプリンクラーの設置義務対象外であったこと、防火対策の甘さが指摘されていたこと、そして職員数が少ない夜間から深夜にかけての出火だったこと等の共通点も多い。こうした痛ましい出来事が起こるたびに繰り返し議論されることは、消火設備に関する法令改正や職員配置の妥当性等に関する問題である。

高齢者の命を預かる介護サービスは、出来得る限りの対策を講じ、万が一の場合に備える義務と責任がある。警報設備や通報設備、消火器やスプリンクラー等の消火設備を整える、カーテンやじゅうたんを防炎物品・防炎製品に変える、あるいは自前の建物特性を見直して延焼拡大を防ぐ手立てを講じるなど、事業者として考えるべきことは様々にあるだろう。しかし、これらはあくまで万が一への備えであり、スプリンクラーの設置や防炎製品で火災の発生そのものを防ぐことは出来ない。また、職員の配置をいくら補強しても、日常的な点検作業を怠っていたり、他人任せの気風があったりすれば、見落としによる火災発生のリスクは常につきまとうことになるだろう。

グループホームのように、家庭的な雰囲気や利用者一人ひとりの個別性を尊重するサービスは、それを可能とする生活環境を追及すればするほど一般家庭の設えに近づいていく。台所回り、浴室、家財、生活用品等の基本的な環境の側面だけでなく、タバコを楽しむ入居者、自分の居室に仏壇を置いている入居者等、個別の入居者の暮らしぶりも様々である。このように考えると、グループホームにおける防火管理とは、たばこや仏壇の火の後始末、ガスコンロの引火やストーブの取り扱い、そして電気器具の埃やタコ足配線等、我々の暮らしの中で当たり前にやっている「火の用心」と何も変わらない。ただし、それを「認知症の人の生活支援」という側面から、確実に、細心の注意を払って取り組んでいくことが、認知症ケア現場に求められる専門性の1つであることも理解しなければならない。その確実な「安全確保」があるからこそ、認知症の人は地域の中で、安心して暮らし続けていくことができるのである。

グループホームの火災をきっかけにもう1つ考えたいことは、地域の介護拠点たるグループホームへの地域住民の関わり方である。火災が起きた後の地域住民へのインタビューでは、そこに暮らしていたお年寄りのことも、そこがどんなサービスを提供している場所なのかも「知らなかった」との声を多く聞く。「認知症になっても住み慣れた地域の中で、自分らしく暮らしていくこと」を支援する介護サービスが、地域の中で孤立していては話にならない。住民とグループホームの希薄な関係が、事業運営の在り方の問題なのかどうかは別にしても、同じ町に暮らすグループホーム入居者に対して、地域の人自身が「入居者も地域住人の一員」という意識で接していくことは難しいことであろうか。

それは決して地域に過重な負担を強いるような話ではなく、日常の当たり前の交流や会話から生まれる、入居者と地域住人との“関わり”である。その関係性があれば、やがて、ホームの防火安全対策を自治会や消防団と一緒に考えたり、防災訓練を地域と共同で行ったり、あるいは、夜間の防火パトロールで立ち寄るなどの活動につなげいくことが出来るかもしれない。実際、こうした地域とホームとの協働は、様々な地域で始まっている。

加えて、グループホームは地域の支援を求めているだけの存在ではない。高齢者福祉・介護のエキスパートが、24時間、身近な地域に存在することは、認知症や介護に関する地域住民の不安を受け止めてくれる専門職が、いつでも傍にいるというメリットでもある。グループホームが何ゆえ地域の中に作られているのか、このサービスは認知症の人に対してどんな支援を提供しようとしているのかを、事業所と地域とが相互に理解し合えてこそ、本来の地域密着型サービスとしての機能が果たせるようにも思う。そして、地域住人には、自分や自分の家族がやがて使うかもしれない地域の介護拠点を、自分たちの手で守っていく、育てていくという視点が必要なのではないか。


 
 (参考)公益社団法人日本認知症グループホーム協会「認知症グループホームの防火安全対策・研修テキスト」(2011年3月)

(2013年02月20日「研究員の眼」)

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山梨 恵子

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