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- 超高層ビルという「建築文化」-失われた「矜持」
私が建築学科の学生だった頃、講義の中に「建築生産論」というのがあった。最初の授業で、「これからは建築をつくる技術とともに、解体する技術に関する研究が重要になる」と教わった。しかし、いつか聞いた哲学者の『建築は凍れる音楽である』という言葉に建築の永遠性を感じて建築学科を選んだ私は、建築は創造するものであり、壊すことなど考えたこともなく、少なからず衝撃を受けた。
これまでも多くの建築が解体されてきたが、昨年から超高層ホテルのグランドプリンスホテル赤坂が解体中だ。丹下健三氏の設計で1983年に竣工したが、わずか30年での建て替えである。近年では大手金融機関が合併し、本社統合による本店ビルの解体もみられる。東京・大手町の旧三和銀行東京ビルは1973年竣工で現在解体中、内幸町の旧長銀本店ビルは1993年竣工だが、近々建て替えられる予定だ。いずれも建築界では有名な超高層オフィスビルである。
日本の超高層ビルの歴史はまだ浅く、第1号は1968年に竣工した霞が関ビルで、近年大規模な改修工事が行われている。一方、ニューヨーク・マンハッタンには数多くの超高層ビルが林立するが、クライスラービル(1930年竣工)、エンパイアステートビル(1931年竣工)、ロックフェラーセンターGEビル(1933年竣工)、旧パンナムビル(1963年竣工)など50年以上経過する超高層ビルは少なくない。
日本の超高層ビルはなぜこのように短命なのだろう。東日本大震災以降、超高層ビルの耐震性や防災機能の向上が求められ、急速に進むIT化など機能面での陳腐化は容易に想像できるが、それは技術的対応が可能だ。しかし、日本の都市はいつも経済効率性を優先し、スクラップ&ビルドを繰り返してきた。いずれ新宿の超高層ビル群の解体ショーが始まるかもしれないが、経済合理性だけを追求し続ける都市づくりは再考されなければならない。なぜなら新たな「建築文化」を育むためには、過去の遺産として歴史的建造物を保存するだけではなく、現役で活躍する建築を新たな時代の要請に合わせながら使い続けるという積極的な“動態保存”が重要だからだ。
歴史と文化は「現在」の集積の結果であり、それを育てようとする気概がないところに「建築文化」は育たない。伊勢神宮は20年に一度の“遷宮”により、建築を解体することで文化を伝承している。建築の解体が「建築文化」の解体であってはならないのだ。奇しくも政治・経済の低迷が20年間続く日本社会が失ったものは、それまでの経済的成功体験に基づく「自信」ではなく、過去より続く素晴らしい文化を築いてきたという「矜持*」なのではないだろうか。
(2013年01月21日「研究員の眼」)
土堤内 昭雄
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