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多様なニーズに応えながら地域社会で重要な役割を果たしているNPO(Non Profit Organization :特定非営利活動法人)。平成7年の阪神・淡路大震災におけるボランティア活動の支援策として制定された「特定非営利活動促進法」(平成10年12月施行)を機に、認証・認定数は増え続けている。現在、全国には46,763のNPOが存在する(平成24年11月末現在)。
NPOの活動内容は多彩である。内閣府が公表するデータを見ると、その活動内容は20区分に分類され、1つの法人で3つ以上の活動に携わっているケースが全体の7割を占める。中でも「保健、医療又は福祉の増進を図る活動」「社会教育の推進を図る活動」「まちづくりの推進を図る活動」「子どもの健全育成を図る活動」等への参加率が高い。少子高齢社会を背景に、地域社会での子供や高齢者支援に対する関心の高さが窺われる。また、東日本大震災の復興支援にも多くのNPOが尽力しており、「新たな公共」の担い手としての期待も高まっている。
任意のボランティア団体がNPOの法人格を持つことのメリットは、社会的な信頼が高まること、団体として資産を持てること、契約の主体になれること等が挙げられる。また、行政からの委託事業等を引き受けやすくなるという利点もある。しかし、実際の運営では、資金調達の難しさをはじめとする多くの課題を抱えている。内閣府の調べ によると、NPOが行政に求める支援は、「法人への資金援助」や「公共施設等における活動場所の提供」、「税制優遇」といった活動資金の確保に関わる事項が多い。NPOの総収入内訳 を見ても、全体の60.8%が事業収入、16.1%が補助金・助成金、10.2%が会費、9.9%が寄付金となっており、社会貢献や公共に寄与する事業とは言うものの、事業を継続するためには自らの運営能力の強化を図り、経営的な安定を図ることが求められている。
平成23年6月に成立した「改正非営利活動促進法」(平成24年4月施行)では、制度の使いやすさと信頼性向上を図るために、(1)活動分野の追加、(2)手続きの簡素・柔軟化、(3)未登記法人の認証取り消し、(4)会計の明確化、等の見直しが行われた。「新たな公共」を見据え、NPOを制度面から後押ししようとする動きと見てとれる。
日本のボランティアや社会貢献活動は、キリスト教文化に根付く慈善活動や社会奉仕活動が盛んな米国や英国と比べると消極的に捉えられてしまいがちだが、東日本大震災時には日本人の多くが「自分に出来ること」を真剣に考えていたはずだ。NPOを後押しする制度の流れを受けて、今後、身近な地域でNPOの活動に触れる機会が増えれば、思いを持ちながら二の足を踏んでいた人々の関心を引き寄せ、地域活動への参画につなげていくことが出来るかもしれない。特に、60代、70代のリタイアメント層の活動の場としてNPOは様々な可能性を持っている。周囲を見ても、高齢者と呼ぶには早すぎるほど元気なシルバー世代が経験豊かな知識や技術を駆使して、行政では対応しきれないきめ細かな支援の担い手として活躍している。
さて、これだけ多くのNPOが活動する中で今後に期待したいことと言えば、団体・組織の枠を超えたコラボレーションである。NPOの多くは、それぞれの強みや課題意識のもと、同じ目的を持った人材が集結している。それゆえ、組織内の結束力は強くても外部組織とのつながりは脆弱との指摘もある。
芸術・文化・スポーツ、地域の見守り活動、権利擁護活動、社会教育、子育て支援や高齢者支援など、それぞれの目的意識や取り組み内容は異なっていても、多様な支援力、専門性、アイディアをつないでいくことで新たな発想を生み出せる可能性は高い。また、そのコラボレーションにより行政の隙間を埋めるきめ細かいサービス提供や盤石なセーフティーネットづくりが出来るのなら、行政は積極的にコーディネート役を買って出る価値があると考える。
(2012年12月26日「研究員の眼」)
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