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近年、スマートフォン(以下、スマホ)が急速に普及している。総務省の平成23年「通信利用動向調査」によると、スマホの世帯保有率は29.3%で、この1年間で約3倍に上昇した。私は電車の中で、7人掛けのベンチシートに座っている人の何人がスマホでインターネットやEメールなどをやっているかをよく数えるが、最近は半数を上回ることも珍しくなくなった。
一方、東京メトロでは利用者のサービス向上のために駅間の列車内でも携帯電話によるインターネット接続及びEメールの送受信が可能なエリアの拡大を急いでいる。既に一部区間ではサービス提供が始まり、今年中には全線で利用できるようになるという。但し、広報紙には『車内では、これまでどおり携帯電話での通話はご遠慮いただき、優先席付近では電源をお切りください』と明記している。
JRや私鉄各社も含め、上記利用マナーをアナウンスしていることから、現状では列車内の携帯電話の通話は少ない。しかし、ビジネスパーソンが多く利用する都心を走る東京メトロ全線で走行中の通話が可能になれば、今後通話を始める人の増加も予想される。地下鉄車内での携帯通話が徐々に拡がり、それが一定の臨界点を超えて一般化する『百匹目のサル』現象*が起こる可能性も否定できない。
このような状況になれば運用ルールの見直しも必要となり、通話専用車両の導入や将来的には非通話車両以外「通話OK」などとなるかもしれない。実際、諸外国では列車内での通話がマナー違反だとしない国もあるからだ。ここで考えるべきことは、テクノロジーの発達を無秩序に受け入れるのではなく、状況に応じた適切な利用ルールの社会的コンセンサスを形成することではないだろうか。
私の学生時代は急速に車が普及し、大学構内は車で溢れ返っていた。その後、モータリゼーションが発達したアメリカの大学へ行く機会があったが、教員や学生の多くが車で通勤・通学しているにもかかわらず、キャンパス縁辺に駐車場があり、構内でほとんど車を見かけることはなかった。これは車というテクノロジーの成熟に伴い、車を適切に利用する文化が制度化された結果ではないだろうか。
スマホなどモバイルテクノロジーの発達により、ビジネスパーソンは一層仕事のスピードを要求されるだろう。その結果、列車内での携帯通話マナーが変わったとしても、テクノロジーの発達とそれを利用する社会の熟度がバランスすることが重要だろう。情報テクノロジーの進展は極めて急速だが、それを適切に使いこなす人間社会の熟成が、テクノロジーを文化へ昇華する。今後、日本でスマホというテクノロジーがどのようなスマートな文化を花開かせることができるか注目されるところである。
(2012年10月29日「研究員の眼」)
土堤内 昭雄
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