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- 2007 年シニア・マーケットの不発とマーケットのシニア化への対応
今年から団塊世代が65歳を迎えるにあたり、あらためてシニア・マーケットが注目されている。団塊世代は、5年前も「2007年問題」として、労働力の減少や多額の退職金給付・年金支給問題のほか、個人消費の活性化の話題で世間を賑わせていた。団塊世代は消費意欲の旺盛さで知られてきた世代であり、退職金により形成される一大消費市場の誕生に対する企業の期待感は大きく、旅行やレジャーをはじめとした様々な業界で準備が進められてきた。
しかし、いざ蓋を開けてみると、消費市場の活性化は限定的な印象が否めなかった。その背景は、高年齢者雇用安定法による雇用延長や再雇用などにより働き続ける層が多かったこと、金融危機や景気低迷の影響により消費に対する姿勢が消極化したことなどがあげられる。しかし、それだけでなく、企業がシニア・マーケットに対して準備してきた商品・サービスと、実際にシニアが求めていたものの間にミスマッチもあったのではないだろうか。
ニッセイ基礎研究所「平成22年度リタイアメント・マーケット調査」にて50~74歳の男女に『老後の生活で重視したいこと』を尋ねると、圧倒的に「健康維持」があがる(図1)。次いで「家族との生活」「食生活」といった日常生活上の項目があがる。一方、2007年に期待されていた国内外の旅行やレジャーといった非日常的な項目は、目立って高い順位にあるわけではない。また、10位以内には「友人づきあい」「近所づきあい」といった項目も入ってくることを鑑みると、シニア層は期待されていた非日常的な消費よりも、日常生活を充実させることを重視している様子が窺える。
2007年にシニア・マーケットに注目が集まった際、多くの企業は、消費意欲が旺盛、フトコロ事情が良い、多くの時間を持つというマーケティング対象の好条件に注目しすぎてしまったのではないだろうか。つまり、特別な消費活動を行う、特別に高額な消費を行う、特別に多くの時間を費すような非日常的な消費活動を行うマーケットとして意識しすぎてしまい、彼らの本来のニーズを見落としてしまったのではないだろうか。
また、シニア・マーケットに限らず、○○・マーケットと銘打つと、連続性のない独立したマーケットという印象を受けがちだが、構成員は今まで何らかのマーケットを構成していた人の集合体である。例えばシニア・マーケットは、昔は20代、30代、40代などの消費市場を構成していた人々が年を重ねた集合体である。つまり、シニア・マーケットと銘打ったからといって、何か特別な新しい商品・サービスを提供するマーケットを新たに創り出すことを考えるのではなく、既存のマーケットのシニア化への対応ととらえるべきだろう。前述の通り、シニア層では日常生活を重視している。シニア層をとらえるには、今までの日常生活にまつわるマーケットがシニア化した場合、どのような商品・サービスを提供しうるのかという流れで考えることが適切だ。
このところ、消費者に日常生活で利用されているコンビニエンスストアやレンタルショップ、書店、フィットネスクラブなどで、シニア層にあわせた品揃えや店舗づくり、サービス提供が相次いでおり、既存マーケットをシニアに対応させるという流れが現れ始めている。
シニアの日常生活をとらえること、そして、シニア・マーケットの創出ではなくマーケットのシニア化への対応として臨む態度が、高齢化社会における消費市場を制する鍵である。
(2012年07月02日「基礎研マンスリー」)
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- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
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