コラム
2012年05月18日

節電協力で避けられないビル管理の透明化

松村 徹

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2回目の「節電の夏」が近づいたゴールデンウィーク直前、東京都が発表したオフィスビルや店舗などのテナント企業へのアンケート結果1 はビルオーナーにとって衝撃的なものだった。ビルオーナーとテナントが協力して省エネや環境配慮に取り組むため、賃貸借契約に盛り込んでもよい事項は何かを聞いたところ、共用部における水光熱費削減分のテナントへの還元を支持する回答が7割を占めて第1位だったからだ。昨夏には、共用部の節電相当額をテナントに還元したビルオーナーが話題になったが追随するビルオーナーはほとんどなかっただけに、テナントとの意識ギャップがあぶり出された形だ。

しかし、テナントが賃借する専用部について、ビルオーナーによる省エネ投資で光熱費が削減できた場合、一部をビルオーナーに還元してもよいとする回答が3割近くあった点にも注目すべきだ。また、別の質問項目では、テナント自身が専用部で実施した省エネ投資に関する原状回復義務の免除を希望する企業が6割弱もあった。今夏の電力不足や電気料金上昇への危機感から、省エネ・省電力に自律的かつ積極的に取組もうとするテナントの思いを、ビルオーナーがうまく受け止められていない状況を表しているといえそうだ。

昨夏の節電で、賃貸オフィスビルではテナントの積極的な協力が不可欠であることと、テナントの節電意識の高さが明らかになった2。この5月5日に全国の原発がすべて停止して再稼動のハードルも高くなる中、企業における省エネ・省電力への取組み意欲は依然として強い。それだけに、ビルオーナーはテナントとの節電協力のために何をすべきかを、今一度真剣に考えるべきではないだろうか。良好な協力体制を築くためには目標と情報の共有が大前提になるはずだが、ビル管理に関する情報の提供に消極的なビルオーナーが多いことが問題である。専用部と共用部それぞれの電力使用の「見える化」が、テナントと一体となったビル全体の節電推進に効果的と思われるだけに残念なことだ3。節電できた電気料金をテナントに還元すべきかそうでないかの議論の前に、ビルオーナーはテナントに対して、ビル管理の内容についてきちんと情報提供する姿勢を見せることが先決だと思われる。たとえば、共益費に専用部のエネルギーコストも含まれている賃貸借契約が少なくないが、今後、共益費の内訳や根拠などの明確な説明なしに節電協力を得ることは難しくなっていくのではないだろうか。

ビル管理の透明化は、ビルオーナーにとってデメリットばかりではない。節電協力を容易にするだけでなく、テナントが求める標準サービス以外の個別サービスについて、正当な対価を徴収できる機会が拡大すると思われるためだ。冒頭のアンケート結果からも、明確な便益が期待できるなら相応の負担をしようと考えるテナントが少なくないことがうかがわれる。たとえば、BCP(事業継続計画)を重視するテナント用の非常用電源設備設置スペースの提供や設備の貸し出しだ。また、テナントに我慢を強いない節電方法のひとつに専用部天井のLED照明化があるが、この設備更新費用の一部を電気使用料の削減範囲内でテナントに負担してもらう手法も、管理の透明化でより進めやすくなるはずだ。すでに分譲マンション管理では、顧客満足度の向上と新たな市場の開拓を狙って専有部(各住戸)向けサービスを強化する不動産会社が増加しているが、賃料引き下げ競争が続くオフィスビル事業においても、新たな収益源として専用部向けサービスに取り組む時期が来ているのではないだろうか。

さらに、現在、省エネ法や都条例対応など防災や環境配慮に関する義務的な費用が増加しているだけに、ビル管理の透明化によってテナントにも応分の負担を要請しやすくなるという利点もある。いずれにしても、テナントとの対話力と提案力を磨くことが、省エネ競争時代のビルオーナーに求められているのは間違いないだろう4
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(2012年05月18日「研究員の眼」)

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【節電協力で避けられないビル管理の透明化】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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