コラム
2012年04月16日

マンション駐車場「空き」問題から見える新潮流―若者だけではない「クルマ」離れ

土堤内 昭雄

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今、「クルマ」離れが進んでいる。高度経済成長期には自家用車を手に入れることは、暮らしの豊かさの象徴でもあった。そして小さな車から大きな車へと買い換えることが、より豊かな暮らしへのステップアップを意味していた。都市部のマンションでは駐車場が不足し、各住戸に一台分の駐車場を設けてあることが、マンション販売や賃貸のセールスポイントにもなっていた。

しかし、今日では若者をはじめ「クルマ」を持たないライフスタイルが広がっている。週末の買い物やゴルフだけにしか使わないマイカーは、維持費がかかり敬遠されている。買い物もネットスーパーの普及で、重い商品も玄関先まで届けてくれる。また、ゴルフも道具を事前に宅配便で送れば、公共交通を使って出かけられる。プレー後の飲酒も楽しめ、週末の都心の大渋滞に巻き込まれる心配もない。このような個人を対象にした流通システムの発達により、移動・運搬手段として車を使う必要性は低下し、若者だけではなく、高齢者や中高年層にも「クルマ」離れが進んでいるのである。

こうした「クルマ」離れというライフスタイルの転換は、マンションに必需だった駐車場ニーズを低減している。その結果、分譲マンション等における駐車場「空き」問題が顕在化しているのだ。近年の分譲マンションの広告をみると、駐車場設置率は総住戸数の50~70%程度まで下がっている。既存分譲マンションの駐車場「空き」問題は深刻なのだ。何故なら分譲マンションの場合、駐車場利用料をマンション管理費や大規模修繕積立金に計上しているからである。全体の2~3割も駐車場の「空き」が生じると、マンション全体の将来の修繕計画が大きく狂うことになる。

そこで駐車場の「空き」部分を外部に貸し出すことも考えられる。しかし、その場合は駐車場利用料の課税問題が浮上する。今年、国土交通省が「マンション管理組合が区分所有者以外にマンション駐車場の使用を認めた場合の収益事業の判定について」という質問書を国税庁に提出した。その回答によると、外部利用者に対して厳しい利用条件を課さなければ、駐車場全体が収益事業とみなされる可能性もあるのだ。

マンション管理組合は、今後の対応として駐車場「空き」スペースの集約化・転用による維持管理費の節減のほか、長期にわたる大規模修繕積立金計画の見直しも迫られそうだ。近年ではカーシェアリング付マンションが分譲され始めているように、車の共有化による所有から利用への動きや、若者だけではない中高年層を含めた「クルマ」離れは大きな時代の潮流になりつつあるようだ。
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