コラム
2011年12月08日

新成長戦略としての幸福度指標~「社会保障と税の一体改革」を巡って

土堤内 昭雄

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今年3月、われわれは東日本大震災を経験し、多くの人がこれまでの「日々の幸せ」を再認識したのではないだろうか。また、11月には国民総幸福量(GNH)を国家目標に掲げるブータンの国王夫妻が来日され、幸福に関する国民の関心が高まっている。そんな中、内閣府は今月5日に幸福度指標試案を公表した。これは、2010年6月に閣議決定された「新成長戦略」の『新しい成長および幸福度について調査研究すること』を受け、政府の「幸福度に関する研究会」が4回の研究会を重ねて、幸福度に関する132の指標をとりまとめたものである。

今回公表された幸福度指標は、「経済社会状況」(56指標)、「心身の健康」(21指標)、「関係性」(33指標)を3本柱とし、それに社会の「持続可能性」(16指標)を別に立てている。先月、法政大学が「47都道府県幸福度ランキング」を公表したが、それは国民の幸福実現の基盤になると想定した社会厚生量を指標化して都道府県別に順位付けたものであり、正確には幸福度ではなく社会厚生量ランキングである。

一方、今回の内閣府指標は国民の主観的幸福度に関する6指標を設け、『日本社会における人々の「幸せ」とは総じてどのようなことに支えられているのか』を明らかにするとしている。すなわち主観的幸福度をベースにして、様々な社会指標が国民一人ひとりの主観的幸福度とどのように関連しているのかを探求するものである。もちろん個人の幸福度は個人差や年齢差があり、内閣府では年齢層を大きく「子ども・若者、成人、高齢者」に3区分し、ライフステージごとに幸福度指標を決めている。

そして幸福度を指標化する目的を、『(1)日本における幸福度の原因・要因を探り、国、社会、地域が人々の幸福度を支えるにあたり良い点、悪い点、改善した点、悪化した点は何かを明らかにすること、(2)自分の幸せだけでなく、社会全体の幸せを深めていくためには、国、社会、地域が何処を目指そうとしているか、実際に目指していくのかを議論し、考えを深めることが不可欠であり、その際の手がかりを提供すること』(内閣府「幸福度に関する研究会報告」平成23年12月5日)としている。また、政策との関係では、『実証に基づく政策立案に資する観点から、指標によって明らかになった事実に対して政策の優先順位付けや政策の改良、新たな政策の提案を促すことに意義がある』としており、そのため各分野における指標の統合化は行わないとしている。

現在、「社会保障と税の一体改革」を巡る議論が行われているが、そこでは制度の枠組みやスケジュール等の検討と共に、一体改革が日本の今後の成長や国の姿にどのように影響するのか、また、われわれの暮らしがどのように良くなるのかを具体的に示すことが最優先課題だろう。今回の新成長戦略として検討された幸福度指標は、「社会保障と税の一体改革」の方向性に関する国民の合意形成を図る上で有効な手法のひとつと考えられる。一体改革が今回の幸福度指標にある「経済社会状況(子育て・教育、雇用等)」、「心身の健康(寿命やストレス等)」、「関係性(ライフスタイル、家族、地域、自然とのつながり等)」、そして「持続可能性(地球温暖化、大気汚染、水環境、生物多様性等)」へ与える影響を分析し、「国民の幸福」に及ぼす効果を分かり易く提示することが望まれる。消費税をはじめとした増税が「国民の幸福」という受益につながることが実感できれば、国民は負担する税金を「取られるもの」ではなく「納めるもの」と捉えるのではないだろうか。
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