コラム
2011年11月24日

長寿リスクに関心高まる米国生保業界

小松原 章

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米国でもわが国と同様高齢化が着実に進行している情勢の下、戦後のいわゆるベビーブーマー世代(米国の場合、1946年から1964年に生まれた者)の退職がここへきて本格化しており、彼らの退職後の適正所得をいかに確保すべきかについて社会的な関心が寄せられている。公的年金だけでは必ずしも十分な老後所得水準が維持できないとされる中で全体として安定的な生活が維持できる所得水準を確保するためには、自助努力すなわち退職時点における各自の保有金融資産の効率的な管理を通じた追加的所得の獲得がいっそう重要になってくる。とくに私的保障の一部である企業年金分野でも従来の確定給付型制度から確定拠出型制度へとシフトするのに伴い、確定拠出型制度に帰属する個人資産を含めた各自の全金融資産を自ら管理する能力が従来以上に問われている。

一般的に所得水準が低下する退職後の高齢期において、所得確保のための資産管理を行う場合の最大の課題は、インフレ・リスクと長寿による自己の資産費消リスク(アウトリビング・リスク)への対応である。そこで今後も引き続き平均寿命が伸び、長寿による資金負担の増大が見込まれる中で、この長寿リスクへの対応手段のひとつとして、生保業界ではいわゆる長寿保険(Longevity Insurance)に対する関心が高まりつつある。

ここでいう長寿保険とは、基本的には保険料一時払い年金契約で、たとえば、早い時期(65歳)に一時払いの年金契約に加入し、85歳等の高齢期に年金支給を開始するものである。すなわち、長寿保険は、生保会社に対する保険料預託期間をできるだけ長くするとともに、年金支給開始時期を大幅に遅らせることにより、払い込み保険料を節減する一方で高齢期の年金支給額を可能な限り引き上げようというものである。高齢期における高水準の年金支給により自己の資産の食い潰しリスクが軽減でき、いわば生活上のセーフティ・ネットが確保されることになる。

このような中で退職後の所得確保の一環として年金支給のありかたに関心を寄せてきた米国生保協会が連邦議会上院の税制改正論議(2011年9月)で行った提言、すなわち、従業員の退職所得充実の観点から、ひとつの手段として確定拠出制度の個人資産の一部を長寿保険購入に充当すべきとするなどの提言が目立ってきた。一方、個社レベルにおいては、高齢期における長寿保険の利用に対してすでに大手生保数社等がライフプラニングの一環として関心を寄せる動きも見られる。

たとえば、某大手生保会社は、退職後の前半期間(84歳まで)は投資資産の運用と計画的取り崩し、後半期間(85歳以降)は長寿保険でそれぞれ対応し、これにより自己資産の食い潰しという事態が避けられるとする提案を行っている。すなわち、この生保会社による長寿保険の数値例(2010年11月末時点の年金換算率に基づく単なる計算数値の例示)について見ると、一時払い保険料5万ドル、男性65歳加入の終身年金の場合、年金開始年齢75歳では年金年額6,256ドルであるのに対して、85歳では年金年額15,439ドルと約2.5倍になると試算されている。また、支給開始年齢を85歳とし、加入年齢を10歳若くした55歳とすると、年金年額は30,619ドルと65歳加入の約2倍になるとの計算結果が示されている。要するに加入年齢を若くするとともに、年金支給開始年齢を大幅に遅らせることによって、高齢期の年金額を大きく引き上げることができる。

このように高齢期の生活資金を長寿保険でファイナンスしセーフティ・ネットを確保した上で、前半期間についてはある程度リスクをとった積極的投資運用とこれらの定期的取り崩しにより生活資金を得ることによって充実したライフ・プラニングが行えるというわけである。具体的には、インフレ・リスク対応のミューチュアル・ファンドと長生きリスク対応の長寿保険を組み合わせることにより退職後期間を通じての充実した資金管理を実行することができるということである。

今後長寿化のさらなる進行が予想される情勢のもとで、各自にとっては終身期間にわたる効率的資産管理がますます重要になってくる。このような中で、生保本来の機能が組み込まれた長寿保険の有効活用を通じて高齢期の資金ニーズが充足されることになれば、生活上の安定感も確固たるものが期待される。長寿保険は高齢化社会における生保のひとつの役割を示した事例として今後ともに注目される。
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