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- 世界芸術文化サミット――社会的な課題と対峙するアートを巡って
コラム
2011年11月11日
10月3日から6日にかけて、オーストラリアのメルボルンで世界芸術文化サミット(World Summit on Arts and Culture 2011)が開催された。これは国際アーツカウンシル・文化機関連盟(International Federation of Arts Council and Cultural Agency, IFACCA)が3年ごとに開催しているもので、2000年のカナダ、モントリオールでの第1回開催以降、シンガポール、ニューカッスル/ゲーツヘッド(英国)、ヨハネスブルグ(南アフリカ)と開催され、今年が5回目である。
会議のテーマはCreative Intersections(創造の交差点)。つまり、アートが芸術文化以外の領域の社会的な課題と出会うことで、どのような成果を発揮できるか、ということに焦点が当てられた。分科会のテーマを見ると、地球環境問題、教育、健康、社会的包摂、非行・犯罪、コミュニティの再建、都市の活性化、「アジアの時代」の文化政策、先住民の知恵、芸術と先端技術、創造産業とアーティスト等々、取り扱われた分野の広さが理解できる。それら社会的な課題に対して、従来とは異なる革新的なソルーションをもたらすことができる、そうしたアートの持つ潜在力について、世界的に注目が集まっているのである。
例えば、コミュニティの再建をテーマにした分科会では、チリ地震の際に開発された文化救済のキット、オーストラリア西部の小さな町でアボリジニの青年の集団自殺を機に始まった数々の文化的なプロジェクト、文化観光によって活性化を図ろうとするアフリカ西部のトーゴ共和国、ベニン共和国の事例が紹介された。
また、非行や犯罪とアートを扱った分科会では、スコットランドの刑務所におけるアートプロジェクトが紹介され、犯罪の本質(なぜそのような犯罪を犯したかということ)に深くアプローチすることで、刑務所の入所者の更正に大きな成果をあげていることが報告された。刑務所での3ヶ月間の取組は、様々な専門家によって検証・評価され、より効果的なプログラムが提案されている。しかもこの事業によって、刑務所の年間経費が10%も削減されたことから、スコットランドでは、同様の事業を推進するため、文化政策の担当部局から司法当局への働きかけが行われている。すべての刑務所にアーティストを派遣するという案も視野に入っているという。
芸術がこうした社会的課題に「道具」として使われることには、慎重な意見も少なくない。そのことで芸術そのものが持つ本来的な価値が損なわれるのではないか、という危惧である。しかし、芸術文化の振興を目的に設立された世界各国のアーツカウンシルが、3年に1回の国際会議でそのことをテーマに掲げたことは、「芸術のための芸術」対「社会のための芸術」というステレオタイプの議論から、脱却すべき時期が到来していることを示している。
もうひとつ、この国際会議に参加して実感したのが、この分野における日本のプレゼンスの低下である。会議には、80以上の国や地域から500名以上が参加し、各州にアーツカウンシル的な機関のあるオーストラリアからの参加者が約半数と最も多かったが、アジア、アフリカ、南米などの途上国を含め、多くの国々が参加している。参加者のほとんどがIFACCAの会員となっている各国のアーツカウンシルや文化省の方々である。日本からの参加者は私を含め2名、いずれも文化政策の研究者で、残念ながら文化庁や日本芸術文化振興会(Japan Arts Council)は会員でないこともあって参加していない。
日本からは国際交流基金が準会員となっており、2006年のニューカッスル/ゲーツヘッドでのサミットには、基金のロンドン事務所長が参加されていたが、今回は、国際交流基金からの参加もなかった。他のアジア諸国を見ると、カンボジア(文化美術省1名)、韓国(4名、内アーツカウンシル3名)、香港(4名、内香港芸術開発評議会3名)、シンガポール(9名、内アーツカウンシル4名、アジア欧州財団4名)、インド(8名、内文化省4名)、インドネシア(3名)、マレーシア(3名、内情報・コミュニケーション・文化省1名、文化芸術省1名)、モンゴル(アーツカウンシル1名)、ネパール(1名)、フィリピン(国立文化芸術コミッション1名)、タイ(2名、内文化省1名)、ベトナム(3名、内文化・スポーツ・観光省1名)といった具合である。
アートによる地域再生、教育、福祉などの分野では、日本でもアートNPOを中心に斬新なプロジェクトが展開され、大きな成果をあげている。それらは、サミットで報告のあった諸外国の事例と遜色がない。むしろ、東日本大震災で実践されているアートによる復興プロジェクトには、世界に誇れるものが少なくないだけに、日本からの参加が限られ、また、こうした国際会議の場でアピールできなかったのは残念でならない。
この国際会議に先立って開催されたIFACCAの理事会で、2014年の第6回サミットの開催地は、チリのサンチアゴに決まり、サミットの閉会セレモニーで発表された。チリ以外にも韓国、スペイン、ウクライナなども立候補して狭き門だったという。韓国のアーツカウンシルからの参加者に、次回も立候補するのか尋ねたところ「当たり前ですよ」という答えが返ってきた。サミット終了後には、IFACCA会員の地域別会議が開催されたが、モンゴルのアーツカウンシルの方からは、「なぜ日本はアジアの会議に参加しないのですか」とも問われた。
日本でも本格的なアーツカウンシルの導入に向けた検討や準備が進んでいる。アーツカウンシルの担う文化政策はもはや芸術文化の振興だけが対象ではないこと、そして、それらを推進する日本の組織や態勢は残念ながら諸外国に比べて立ち後れていること、その二つを実感した世界芸術文化サミットへの参加であった。
会議のテーマはCreative Intersections(創造の交差点)。つまり、アートが芸術文化以外の領域の社会的な課題と出会うことで、どのような成果を発揮できるか、ということに焦点が当てられた。分科会のテーマを見ると、地球環境問題、教育、健康、社会的包摂、非行・犯罪、コミュニティの再建、都市の活性化、「アジアの時代」の文化政策、先住民の知恵、芸術と先端技術、創造産業とアーティスト等々、取り扱われた分野の広さが理解できる。それら社会的な課題に対して、従来とは異なる革新的なソルーションをもたらすことができる、そうしたアートの持つ潜在力について、世界的に注目が集まっているのである。
例えば、コミュニティの再建をテーマにした分科会では、チリ地震の際に開発された文化救済のキット、オーストラリア西部の小さな町でアボリジニの青年の集団自殺を機に始まった数々の文化的なプロジェクト、文化観光によって活性化を図ろうとするアフリカ西部のトーゴ共和国、ベニン共和国の事例が紹介された。
また、非行や犯罪とアートを扱った分科会では、スコットランドの刑務所におけるアートプロジェクトが紹介され、犯罪の本質(なぜそのような犯罪を犯したかということ)に深くアプローチすることで、刑務所の入所者の更正に大きな成果をあげていることが報告された。刑務所での3ヶ月間の取組は、様々な専門家によって検証・評価され、より効果的なプログラムが提案されている。しかもこの事業によって、刑務所の年間経費が10%も削減されたことから、スコットランドでは、同様の事業を推進するため、文化政策の担当部局から司法当局への働きかけが行われている。すべての刑務所にアーティストを派遣するという案も視野に入っているという。
芸術がこうした社会的課題に「道具」として使われることには、慎重な意見も少なくない。そのことで芸術そのものが持つ本来的な価値が損なわれるのではないか、という危惧である。しかし、芸術文化の振興を目的に設立された世界各国のアーツカウンシルが、3年に1回の国際会議でそのことをテーマに掲げたことは、「芸術のための芸術」対「社会のための芸術」というステレオタイプの議論から、脱却すべき時期が到来していることを示している。
もうひとつ、この国際会議に参加して実感したのが、この分野における日本のプレゼンスの低下である。会議には、80以上の国や地域から500名以上が参加し、各州にアーツカウンシル的な機関のあるオーストラリアからの参加者が約半数と最も多かったが、アジア、アフリカ、南米などの途上国を含め、多くの国々が参加している。参加者のほとんどがIFACCAの会員となっている各国のアーツカウンシルや文化省の方々である。日本からの参加者は私を含め2名、いずれも文化政策の研究者で、残念ながら文化庁や日本芸術文化振興会(Japan Arts Council)は会員でないこともあって参加していない。
日本からは国際交流基金が準会員となっており、2006年のニューカッスル/ゲーツヘッドでのサミットには、基金のロンドン事務所長が参加されていたが、今回は、国際交流基金からの参加もなかった。他のアジア諸国を見ると、カンボジア(文化美術省1名)、韓国(4名、内アーツカウンシル3名)、香港(4名、内香港芸術開発評議会3名)、シンガポール(9名、内アーツカウンシル4名、アジア欧州財団4名)、インド(8名、内文化省4名)、インドネシア(3名)、マレーシア(3名、内情報・コミュニケーション・文化省1名、文化芸術省1名)、モンゴル(アーツカウンシル1名)、ネパール(1名)、フィリピン(国立文化芸術コミッション1名)、タイ(2名、内文化省1名)、ベトナム(3名、内文化・スポーツ・観光省1名)といった具合である。
アートによる地域再生、教育、福祉などの分野では、日本でもアートNPOを中心に斬新なプロジェクトが展開され、大きな成果をあげている。それらは、サミットで報告のあった諸外国の事例と遜色がない。むしろ、東日本大震災で実践されているアートによる復興プロジェクトには、世界に誇れるものが少なくないだけに、日本からの参加が限られ、また、こうした国際会議の場でアピールできなかったのは残念でならない。
この国際会議に先立って開催されたIFACCAの理事会で、2014年の第6回サミットの開催地は、チリのサンチアゴに決まり、サミットの閉会セレモニーで発表された。チリ以外にも韓国、スペイン、ウクライナなども立候補して狭き門だったという。韓国のアーツカウンシルからの参加者に、次回も立候補するのか尋ねたところ「当たり前ですよ」という答えが返ってきた。サミット終了後には、IFACCA会員の地域別会議が開催されたが、モンゴルのアーツカウンシルの方からは、「なぜ日本はアジアの会議に参加しないのですか」とも問われた。
日本でも本格的なアーツカウンシルの導入に向けた検討や準備が進んでいる。アーツカウンシルの担う文化政策はもはや芸術文化の振興だけが対象ではないこと、そして、それらを推進する日本の組織や態勢は残念ながら諸外国に比べて立ち後れていること、その二つを実感した世界芸術文化サミットへの参加であった。
(2011年11月11日「研究員の眼」)
吉本 光宏 (よしもと みつひろ)
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