コラム
2011年10月05日

円高対策は臨時増税で賄っても良いですか?

桑畠 滋

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臨時増税額を巡る議論が政府・与党内においてようやく決着した。9月28日の政府・与党合意文書によると、最終的な臨時増税額は、5年間の集中復興期間における復旧・復興対策事業費19兆円から、1次、2次補正の財源6兆円、10年間トータルでの税外収入7兆円を除いたものに、年金臨時財源2.5兆円(第1次補正予算で活用し、第3次補正予算の編成の際に復興債で補填することとされていた)、B型肝炎対策のうち税制上の措置による要対応額0.7兆円を加えた9.2兆円となることが示された。

税外収入により確保される財源が当初の3兆円程度から7兆円程度に大きく増加し、臨時増税額が圧縮されたことは嬉しいことではあるが、一方で、臨時増税の使途については、「本当に臨時増税で確保すべきなの?」と疑問に感じる点が少なからず存在する。

まず、1点目がB型肝炎対策のうち税制上の措置による要対応額0.7兆円を臨時増税で確保しようとしている点である。臨時増税は、震災からの復旧・復興のための財源を「次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合う」という大義名分のもとに確保されるものである。B型肝炎対策費の手当ては必要だが、復旧・復興のための経費であるとは到底言えず、本来、通常の予算で計上されてしかるべきものだと言えよう。

2点目が第3次補正予算で復興事業費とは別に予定されている円高対策などについても税外収入や臨時増税を中心に賄おうとしている点である。これも必要な歳出であると考えられるものの、復旧・復興のための財源であると捉えることは、到底言えない。加えて、円高対策等の財源については、上述の5年間の集中期間における復興対策事業費19兆円には含まれていない。つまり、円高対策をはじめとする第3次補正予算における復興事業費以外の財源を臨時増税に求めることとなれば、後に臨時財源が枯渇し、さらに臨時増税額を引き上げざるを得ない状況にもなりかねない。

震災からの復旧・復興のためと直接関係のない経費に臨時増税が充てられることに対して皆さんはどのように感じるだろうか?「けしからん」と感じるだろうか?それとも「仕方ない」と感じるだろうか?筆者の考えは無論前者である。

上記は、日本の財政状況が国債を容易に増発し、財源を確保することができないほど追い込まれており、政府は国債費を除く歳出の大枠の上限を71兆円以下に、新規国債発行額を44兆円以下に抑制し、財政規律をなんとか堅持しようと必死になっている姿を示しているものと思われるが、だからと言って復旧・復興に直接関係のない経費の財源を臨時増税に求めることは、やはり筋が通らない。小手先だけで財政規律を保ったところで、本当の意味での財政再建には近づかない。険しい道なのは、百も承知だが、今後は、粘り強く恒常的な増税の必要性を国民に説明していくしか道はないだろう。
 
 
7月29日の東日本大震災復興対策本部「東日本大震災からの復興の基本方針」の中では、歳出削減及び税外収入の増収により確保ざれる財源は3兆円程度で仮置きされている。
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